いつスタートアップは企業理念や規則をつくるべきかーーMUGENUPの場合【ゲスト寄稿】

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編集部注:スタートアップと「企業」の境目はどこにあるのだろうか。社員数?売上?株式公開?

一岡亮大氏はキャラクタークリエイティブ関連に特化したクラウドソーシング「MUGENUP」の代表取締役を務める。創業3年にして大きく成長を続ける同社が「ステートメント」を新たに作ったと聞き、その過程を寄稿して頂いた。


もしかしたら社是やステートメントといったものに対してネガティブな印象を持っている方もいらっしゃるのではないでしょうか。

実は私もそのひとりでした。新卒で銀行に入行した際、やはり規則や社是があったのですが「なぜその規則があるのか」との問いに「規則だから」としか返ってこなかったことも原因のひとつかもしれません。

説明できないことに行動が伴うことはないのです。

それから数年が経過し、私は総勢100名を越える会社の代表としてこのMUGENUPを様々な個性豊かな人が集える、足腰の強い企業に成長させる必要が出てきました。

そこでこの「ステートメント」や「規則」について改めて考え、過去にネガティブな印象があったにも関わらず、ついには自分たちの会社のオリジナルを作ろうという結論に至ったのです。

そこにはスタートアップが企業に成長する過程が大きく影響しています。今回「スタートアップが企業に成長する瞬間を伝えたい」というオファーを頂きましたので、寄稿という形で、私たちがなぜこの段階でステートメントを作ったのか、みなさんに共有させて頂きたいと思います。

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ステートメントを作る理由

法人としてのステートメントが必要になる理由はいくつかありますが、私たちの経験ではこのような理由でした。

意思決定スピードの向上

社員やアルバイトさんなどの人数が100人を越えるようになって会議が多くなりました。これを減らすためにも、何を優先して決めるべきか、弊社が提供したい価値は何なんだということを決める必要が出てきたのです。つまり意思決定を加速させる目的です。

リスクヘッジ

会社にこういった考え方の「幹」ができることで、極端な話、私が死んでしまっても、代わりに誰かが務められるようになります。ある種のビジネスモデルが固まったからこのようなステートメントが作れるようになったわけですが、スタートアップから成長を重ねる過程である種のリスクヘッジが必要になった、とも考えられるのです。

ステートメントに大切な二つの要素とアプローチ方法

ステートメントを作る軸は大きくわけて「採用」と「人事評価」です。この二つは「会社としてどいういう人を大切にしていくのか」ということを表すメッセージになるんですね。つまりこの基準が曖昧だと社員や応募してくる方は何が良いのか、はたまた悪いのかといった判断ができないですし、同じ価値観を持って集まった集団の方が圧倒的にスピードが出ます。ポイントに分けてご説明します。

評価軸を固め、分かりやすい模範社員像を作る

スピード感が大切だと考えてるのに、新しく入ってきた人が「クオリティを重視したい」と考えたとします。それでは会社としてワークしません。この場合に大切なのが評価軸です。強要はしませんが「この会社は何を大切にして、どう決めていくのか」を明確にすると、新しく入ったメンバーは迷いません。

ただ、ベンチャー企業での評価というのは大変難しいものです。創業に近ければ近いほど、何でもやらなければならないし、何でもやった中で「なんとなく」この人いいよね、ということになりがちです。つまり、明確な模範社員をつくらないと他の人が目指すことができないのです。

ピックアップすることで「ああいう人が評価されやすいんだ」と示すことが大切なのです。それがなければ何が正しいのかわからなくなってしまいます。ちなみに明確な評価基準がなければどうなるか。会議が多くなるんですね。そもそも意志決定の時に会議なんていりますか?無駄なんです。

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採用の効率化

私たちの会社はキャラクターを扱うエンターテインメント色が強いということもあり、一見すると楽しげな雰囲気にみえるのかもしれません。

しかし実際はスタートアップだからと自分勝手にできるわけではなく、どちらかというと目の前のKPIを追いかけて「泥臭い」改善を続けることの方が多いのです。つまり求めるメンバー像というのは「ゼロイチ」というよりはそれ以降を粘り強く実行できる人だったりするのです。外からのイメージと、実体のズレを修正して外に向かって発信するということも重要なのです。

ステートメントを出したおかげで、採用に至る確率というのは上がりました。採用の無駄を省けば結果としてコストの削減につながります。

「ヒトづくり」なのか、「モノづくり」なのか

ステートメントを考える際のアプローチ方法も大切なポイントです。会社づくりには様々な方法がありますが、私は人間的なアプローチとプロダクト的なアプローチのふたつに大きく分類しました。

DeNAさんやトヨタさん、リクルートさんのように「ヒト作り」にフォーカスされている会社さんは有名な行動指針をお持ちです。いわゆる「〇〇っぽい人」という組織における人物像と仕事の仕方を創ることで、行う事業はバラバラでも、意思決定やモチベーションを保ち、また、企業の成功体験を横に共有することができます。

一方で「モノづくり」から組織が生まれるアップルさんやソニーさんのように、熱狂的なプロダクトで組織を引っ張る方法もあります。プロダクトが提供する価値が明確で、サービスから生まれる組織であるため、役職ベースで組織を急拡大させやすいのが特徴です。

私たちは常日頃の細かなカイゼンが重要なソリューションビジネスを展開しているため、前者を選択しました。

ステートメントの作り方

ここからは実際にどうやって私たちがステートメントを作ったのか、その方法です。

創業当時のゴールイメージと最短距離を考える

まず創業当時、自分は何を目指していたのかということを肚落ちするまで考えました。創業当時に何を想像していたのか、マイルストーン的に思い返して、最短でそのゴールを達成するにはどうしたらいいのか、それを徹底的に考え直しました。

最短でゴールを達成した時、活躍してくれる人をイメージする。そしてそれを言葉に落とす。そういうことをしたんです。

創業メンバーとの壁打ち

次に壁打ちです。まずは言葉を選ぶため、自分が必ず会議の席などで投げている言葉は何か聞いてみたりしました。「やってみてから考える」とか「線形じゃなく非線形なアイデアを出せ」、
「各自が考える環境を作らなければだめだ」など、繰り返していた言葉を客観的に教えてもらったんです。

そうやって集まった言葉を整理して、創業メンバーなどの中心メンバーに提示してみる。それだったら肚落ちするとか、これはないなとか。意見を聞くわけです。

ここで大切なのは創業メンバーだけで決めないことです。特に感覚的に合うなと思う新人メンバーにも入ってもらったのですが、創業メンバーだけの固定観念で決めてしまわないための必要な要素と考えています。

そうして1カ月を要して決まったステートメントが「スピード・独立心・協調」の三文字でした。

ステートメントの定着方法

最も重要な工程が定着にあることは言うまでもありません。評価に紐づけるのはもちろんですが、部長や私のミーティングでもこの三つのステートメントを大切にして欲しいと言い続けています。合宿などで使う資料にも入れてもらう。一見するとやりすぎに思えるかもしれませんが、作ったステートメントがお飾りになってしまってはその方が意味がないのです。

Amazonは顧客第一を言い続けているように、私たちも一度作ったのであれば言い続ける。それが考え方になり、行動につながるまでやり続けるのです。

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最後に

これまでは会社=一岡という側面もありましたが、これからは本当の意味で「MUGENUP」となるタイミングに差し掛かっているのかもしれません。

ちゃんと働き続ける環境を用意する。スピード感を持って動けた人や自分で考えユニークなアイディアを具現化する人を評価する。それこそがアイデアひとつのスタートアップが様々な個性豊かな人が集まっても、拠り所のある足腰の強い企業に成長していくために必要なステップではないでしょうか。

どこかの制度のコピペではなく、なぜこのような仕組みなのか?と会社のことを聞かれた時、ちゃんと答えられるか。これが大きなポイントなのです。

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