もう日本から若手独立系VCは出てこない

240105_101666379922895_4508047_o編集部注:本稿はベンチャーユナイテッドのチーフベンチャーキャピタリスト、 丸山聡氏が運営するブログ「No Guts, No Growth.」からの転載記事。気になっていたファンド勧誘要件の制限について考えるべき要点がまとまっていったので、同氏に許可を頂き、こちらに掲載させてもらった。

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4月中旬の春の陽気に包まれていた昼下がり。突如、グローバルな情報提供会社であるロイター社から次のようなニュースが流れました。

監視委、プロ向けファンドの勧誘要件の制限を金融庁に建議

記事には

投資経験の浅い高齢者を狙って虚偽の運用実績に基づいて資金を募ったり、集めた資金を流用したりする悪質なファンドが相次いで発覚していることを踏まえた。

ということがあり、出資者要件の厳格化ということを盛り込んでいくということでございまして、

規制強化の対象となるのは、届け出をした上で証券会社などの機関投資家が1社以上出資していれば一般の投資家からも49人まで資金を募って投資運用できる適格機関投資家等特例業務届出者。登録の必要はなく、実態が把握しにくい面がある。

2月末現在の同業者の届出件数は3575件で、このうち連絡が取れないなど、なんらかの問題が認められる業者は608ある。監視委の検査で法令違反行為などが発覚し、公表された件数は2010年以降で29件。裁判所への申し立ては6件。

とあり、再三にわたって金融庁はウェブサイトから「警告書の発出を行った適格機関投資家等特例業者の名称等について」と題して警告を行っており、この適格機関投資家等特例業務届出者というのは届出ですむため、集団投資スキーム(ファンド等)が法律上規定され、それを取り扱うためには本来であれば金融商品取引事業者や投資運用業になる必要がある中で、従来の集団投資スキームを利用していた事業者に対して、プロ投資家(適格機関投資家)がファンドに入るのであれば特例的に届出で取り扱えるようにしたのが適格機関投資家等特例業務届出という資格です。

なお、この届出事業者については集団投資スキーム(匿名組合、投資事業有限責任組合、民法組合、有限責任事業組合あたり)を利用したファンドの募集・運用ができるのでベンチャーキャピタルだけが適用されているわけではありません。(というか、ベンチャーキャピタルはその一形態と位置付けられているのです)

そして、こうした中で金融庁から
適格機関投資家等特例業務の見直しに係る政令・内閣府令案等の公表について
というリリースが5月14日に出ました。

内容としては

適格機関投資家等特例業務を行う者が、ファンドの販売等を行うことができる投資家の範囲を、現行の適格機関投資家及び適格機関投資家以外の者から適格機関投資家及び金融商品取引業者等(法人のみ)、ファンドの運用者、ファンドの運用者の役員・使用人・親会社、上場会社、資本金が5千万円を超える株式会社、外国法人、投資性金融資産を1億円以上保有かつ証券口座開設後1年経過した個人等にする改正を行います。

というものです。(合わせて監督指針も変更になるのでこちらも参考までに)

これまでは適格機関投資家が1名以上ファンドに出資をすれば、49人までは誰でもファンドに勧誘することができました。

しかし、本年8月1日(予定)以降については、適格機関投資家が1名以上出資をした場合であっても、上述した人々しかファンドに出資ができないことになります。

もう日本から若手独立系VCは出てこない!?

ベンチャーキャピタルは、自らの力でファンドを組成して、その資金をもとに投資を行い、パフォーマンスを出すことで、さらなるファンド組成を行っていくということによって成り上がる(?)ことができるビジネスです。

とにかく自分の資金があれば自己資本でやるということもできますし、キャピタリストとしてのプレゼンスがあったり実績を積んでいればお金が集まりやすいということもありますが、ANRISkyland Venturesのように、若手にとっては最初のファンド組成をするということはとっても大変です。

出資をする適格機関投資家を見つけられたとしても、金融機関などは出資することはまずないですし、上場企業からの出資というのもハードルが高い。

そうなると必然的に個人からの出資が中心となるのです。

これまでであればどのような個人でもあっても出資を受けることはできたのですが、改正後には投資性金融資産を1億円以上保有かつ証券口座開設後1年経過した個人からしか投資を受けることができないため、ハードルは相当に高くなるのです。

  • 投資性金融資産を1億円以上保有し、かつ証券口座開設後1年経過した個人

なんとなくいそうな気がしますが、これのポイントは他の投資家もそうですが、その資格を満たしていることを届出事業者が確認しなければならない点です。

ここに最大のハードルがあるわけです。

  • 個人として、投資性金融資産を1億円以上あることを証明する書類を提出してもらう
  • 証券会社に口座開設が1年以上経過していることを証明する書類を提出してもらう
    →個人が出したって解約しているかどうかはわからない。

という2つの煩雑な作業が生じるわけでして、そもそもファンドに出資してくださいってお願いにいって、資格を満たしているかどうか確認のための書類を出してくださいって言われたら、なんか面倒だから出資はやっぱり難しいなっていうことになるのが世の常な気がするんですよね。。。

となると、事実上、若手が新たに独立系ベンチャーキャピタルとしてファンド組成をする場合には、

  • ファンドオブファンズのような形式で、ベンチャーキャピタリストの子ファンドのような形態で実績を積んだうえでファンド組成をする。

ということになるのではないかと思います。

若手に若手なりの発想で新しいベンチャー投資にチャレンジするということにとっても価値はあるし、みんなが同じ考えでない多様性があるからこそ、ベンチャー企業の資金調達環境は充実したものになっていくということをこのブログではいろいろと書いてきましたが、今回の改正の本当の趣旨はそういうところにはないのだけれど、結果として若手独立系VCの登場を阻むような改正となっていることは理解しておいた方がいいと思います。

ちなみに今回の改正においてこうした点については金融庁は言及していませんが、

適切な運営が行われていると考えられるプロ向けファンドの有力な出資者で投資判断能力を有する者である個人がプロ向けファンドを購入できなくなることにより、ファンドの組成が困難となり、リスクマネーの供給に著しい影響を及ぼすという社会的費用が発生する。

という記載があるものの

本案においては、新たに遵守費用、行政費用が発生するものの、プロ向けファンドが、適格機関投資家と投資判断能力を有する者のみに販売等がなされ、不適切な勧誘による投資家被害が減少することが見込まれる便益が発生し、便益の増加が遵守費用、行政費用、その他社会的費用の増加を上回ることが見込まれることから、本案の改正が妥当と考えられる。

ということが示されていて、そういうわれるとぐうの音もでにくいなって思った次第です。

ベンチャー企業の資金調達環境は変わるのか

では、これによって日本のベンチャー企業の資金調達環境は大きく変化をするのかというと、たぶんそうではないのではないかって思います。

なぜなら、そもそも上述した個人から集めたファンドの規模というのはそれほど大きくなく、投資を担うステージとしてはシード~アーリー中心になり、数百万円~数千万円の投資金額となるからです。

これに対して資金調達手段については、現在でも政府としては

  • 信用保証協会などを通じた貸付やその補助制度
  • さまざまな創業支援施策や助成金
  • エンジェル税制
  • 日本政策金融公庫の資本性ローン

などがあり、これらに加えて株式型などのクラウドファンディングについても検討を進めているというところがあるからです。

こうしてみれば数百万円~数千万円というところについてはVCも含めて多様な選択肢を提供しているのだから問題ないということなのかもしれません。

ただ、それらも本当に代替手段になるのかや、株式型などのクラウドファンディングを本格的に提供した場合に、IPO審査がちゃんと進むのかなどの問題をいくつもはらんでいると思います。

そもそもこうした規制に対してVCだけを別の資格にするとかっていう議論もあるかもしれませんが、それはそれで、登録になった時点で、登録のための資格要件を満たすことやその登録手続きの煩雑さなどでハードルはかなり高くなり、既存のVCも含めてその対応コストが膨大になることから現実的ではなく、VCが減少する可能性もぬぐえません。

適格機関投資家等特例業務という資格の中で、自主規制機関を作って、そこの自主規制ルールを守ることで他の事業者との差別化を図ることや、警告を発せられるような事業者の排除を行っていくというようなことも対応としては可能かもしれませんが、そもそも個人でもできるベンチャーキャピタルというビジネスに自主規制機関がなじむのか、またその自主規制機関への加入ということで、若手独立系VCの誕生を阻むハードルとなってしまう可能性なども排除できないこともあって難しいです。

こうした規制の強化を導入するのであれば、格機関投資家たる金融機関や上場会社がLP出資を通じてベンチャー投資に関与しやすくなるような抜本的な仕組みも考える必要があるだろうし、やはりベンチャー投資は他の投資手段に比べて儲かるのだということをわれわれ現在のベンチャーキャピタリストたちが証明し続けていくことが重要なのだと思っています。

とにかく、日本でベンチャー投資に携わるものとして、次代のベンチャーキャピタリストが少しでも現れやすくなるように最高のパフォーマンスを出すべく日々精進しようと改めて思った次第です。