資金調達の新しい潮流となるか。クラウドファンディング法案が成立、2015年の施行に向けた動きが始まる

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Image by Simon Cunningham on Flickr

5月23日、参議院本会議にて未上場企業がインターネット上などで資金調達を募る、いわゆる「クラウドファンディング法案」が成立した(参議院議案詳細はこちら)。これによって、インターネット経由による小口の投資資金を募ることが可能な「株式型クラウドファンディング」を行うことができる。

具体的には、クラウドファンディングサービス事業者について、一般の金融商品取引業者に比べて必要な資本金といった参入の条件を緩和などが盛り込まれており、個人は、1つの企業に対して投資できる金額を50万円を上限とし、企業側も調達金額を1億円未満という制限を設けている。

施行は2015年からとなっており、施行までに運用上のトラブル防止などの細かなルールの作成が求められる。

<参照記事>株式型クラウドファンディングを通じて、企業とユーザの関係が再構築される【ゲスト寄稿】 – THE BRIDGE

日本クラウド証券株式会社が主催している「クラウドファンディングNight」の様子
日本クラウド証券株式会社が主催している「クラウドファンディングNight」の様子

法改正にあたり、株式型クラウドファンディングのメリットや可能性について寄稿していただいた、日本クラウド証券の大前和徳氏に話を伺った。大前氏は、対面などのコミュニケーションを禁止しているという箇所に対して批判しつつも、大きくはクラウドファンディングが活用されるようになったことへの大きな進展があると語る。

今回の法改正によって、非公開のベンチャー企業がインターネットを通じて不特定多数に対して株式の資金調達が出来るようになるという規制緩和がなされたことは、とんでもなく大胆にして野心的であり、その点は大いに評価したいと思います。

アメリカのJOBS法(編集注:新興企業を支援する「Jumpstart Our Business Startups Act」(JOBS法)。クラウドファンディングに関する条項を盛り込んだ法律)の成立が、クラウドファンディング事業者やベンチャー業界のロビー活動によって実現されたことと比較すると、民間というより政府主導で進められた本法案は、ベンチャー業界やクラウドファンディング業界の声というよりも、消費者団体などからの「投資詐欺被害への懸念」の声が大きくなって、ちょっとインパクトが削がれた印象があります。

特に、「投資勧誘はインターネットのみで、電話や訪問は禁止」という点は、詳細が未確定ではありますが、実際のクラウドファンディングが結構リアルな関係性の上に成り立っているという現実を見過ごしており、残念な方向性と言わざるを得ません。

法改正によって新規参入が期待されているが、この点に関しても大前氏は既存の証券会社ではなく、異業種の参入による市場の活性化が期待できると語る。同時に、金融法などの知識や経験をもった人材に対する期待や流動化が図られる可能性もあると指摘する。

今回の規制緩和のもう一つのテーマである参入要件の緩和ですが、最低資本金を引き下げたりといった幾つかの緩和措置が取られていますが、一方で変な事業者が入って来ないように、組織体制や投資者保護のための社内態勢の整備など、それなりのハードルは課されており、現行の金融商品取引業者からみると、随分緩和されたという印象を持つかもしれませんが、新規参入業者にとっては、「そこまでやらないとダメなの?」と腰が引けてしまうかもしれません。

この法改正を受けて、誰がこの事業に参入するかと考えると、既存の証券会社がやるとはあまり思えません。むしろ異業種、おそらくネット関連からの参入となるでしょう。その意味では、金商法に明るい人材へのニーズが今後高まる可能性が高まりそうです。パイロット不足で欠航が続くLCCじゃないですが、人材不足で投資型クラウドファンディングを立ち上げられないなんて事業者が出てくるかもしれません。

最後に、どういった企業が株式型クラウドファンディングを活用するか、という点に関しても、ものづくりや伝統的なビジネスを営んでいる企業に大きな可能性があると指摘する。こうした視点は、地方の優良企業や地域に根付いているローカル企業にとって、新しいビジネスチャンスになるかもしれない。もちろん、クラウドファンディングだけですべてを賄うことはできないが、ビジネスチャンスのためのツールが増えたことによる可能性と多様性は出てくるであろう。

どういう企業がこの仕組みを使って資金調達するだろうかという点では、逆にネット系企業ではなく、トラディショナルな業種の企業が使うのではないかと思います。

それでもいきなりそれほど多くの企業が資金調達に名乗りを上げるとも思えず、かつ調達規模(最大で1億円未満)も小さいことから、事業性や継続性については簡単ではないでしょう。おそらく株式型クラウドファンディングを専業とするのは危険であり、それこそ規模を追い求めすぎて投資詐欺的な案件に引っかかってしまうリスクが高まります。その意味では、株式型クラウドファンディングだけに依存しない事業モデルを構築していくことが、新規参入企業には求められていくことでしょう。

今回の法改正は2015年施行のため、施行までの一年間にさまざまな動きが見られるだろう。同時に、今回のような法案が成立したことによって、よりいっそうクラウドファンディングという考え自体が浸透していくきっかけにもなる。プロジェクトを立てようと考えている個人や企業にとっても、アイデアに多くの共感を集めることで、さまざまチャンスを切り開く道ができる。

新しい技術でイノベーションを起こしたいスタートアップにとっても、よりいっそうの追い風となることは間違いない。ぜひ、こうした新しい法律や環境の変化を敏感にキャッチし、ビジネスに活用してもらいたい。筆者も、今後もクラウドファンディング関連の動きは注目していきたい。

大前氏によるクラウドファンディングに関した連続寄稿に、クラウドファンディングのこれまでの歴史や市場の盛り上がり、株式型クラウドファンディングのメリットやデメリットなどをまとめたものがあるので、そちらを参照してもらいたい。

<参照記事>
クラウドファンディングの歴史と日本のポテンシャルについて【ゲスト寄稿】 – THE BRIDGE
「2014年はクラウドファンディング元年」:多様化するクラウドファンディングと市場の動き【ゲスト寄稿】 – THE BRIDGE
株式型クラウドファンディングを通じて、企業とユーザの関係が再構築される【ゲスト寄稿】 – THE BRIDGE
クラウドファンディングが仕掛ける「金融の民主化」:個人を力づける新しい資金調達と資金活用のカタチ【ゲスト寄稿】 – THE BRIDGE

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