アジア発メッセージ・アプリ対決談義——LINE vs. WeChat(微信)vs. カカオトーク【後編】

mark-bivens_portrait本稿は、フランス・パリを拠点に世界各地のスタートアップへの投資を行っているベンチャー・キャピタリスト Mark Bivens によるものだ。フランスのスタートアップ・ブログ Rude Baguette への寄稿を、同ブログおよび著者 Mark Bivens からの許諾を得て、翻訳転載した。(過去の寄稿

The Bridge has reproduced this from its original post on Rude Baguette under the approval from the blog and the story’s author Mark Bivens.

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前編からの続き

Mark Bivens: フランチャイズの可能性については、完全に同意するよ。さらに言うなら、LINE はオンラインからオフラインへのマネタイズが橋渡しできることも証明したね。クマのブラウン、ウサギのコニー、ジェームズ、サリーなどのキャラクターについて、ぬいぐるみなど、みんなに求められる形のあるものでブランドをうまく確立した。LINE の担当者がぬいぐるみの無料サンプルをイベントで配ろうとして、我れ先にと欲しがる参加者にもみくちゃにされたと聞いたことがある。

日本のドン・キホーテの店に入ると、LINE のぬいぐるみ、フィギュア、iPhone ホルダ、筆箱のために特設スペースが作られているのが見られるよ。ファッション小売のユニクロも、LINE キャラクタのTシャツを売っている。つまり、キャラクタ商品のマーチャンダイズが非常に面白い補完的な売上を生み出しているわけだ。

さらに重要なことは、君も言っていたように、これらのキャラクタのブランドとしての可能性を過小評価してはいけない。これらの強いブランドの最も美しい部分は、技術の革新に関係なく、新しいプロダクトが伸び始めると、新しい市場に受け入れられて行く点だ。昨年夏、東京のテレビ局は LINE ファミリーを使ったテレビシリーズの放送を開始した。一方で、スーパーヒーローの落ちぶれた作品が、出版元の Marvel Comics(訳注:アメリカの有名アメコミ出版社) に何をもたらしたか、皆が知っているよね。

Jerry Yang: 君が言う Marvel のフランチャイズは興味深いね。ちょうど同じことを考えていた。君もよく知っているビジネススクールで、最もよく研究されたユースケースとは、Disney のルネッサンスだ。

消費者にとって魅力的な仮想コンテンツを、盗用が難しいか、手間が合わないと思われるほどに具現化し、その形を得たプロダクトから利益を得る力は、現在の栄光に返り咲いた Disney の背景にあるものとして認識されている。LINE が同じことをやらない理由がわからない。もしそれを彼らがやれば、明らかに次の技術革新のさらに先へと行けるのだろうに。

しかし、それはソーシャル・ネットワークとしての機能を考えれば十分だ。WeChat で私が感心しているのは、ユーザに仕事でも利用してもらおうとするシナリオだ。Tech in Asia の Paul Bischoff が書いた記事「人間関係2.0: WeChat のグループ機能は、中国のテック・スタートアップ・シーンをどう変えたか(タイトルは仮訳)」を読むと良いだろう。彼は、中国文化にはそういう性質があり、欧米文化のように、個人生活が職業生活とさほど切り離されていないと、正しく指摘している。中国ではすべてが混ざり合っているのだ。

この特長を生かして、WeChat ではユーザが LinkedIn をアカウントに連携できるだけでなく、そのグループ機能も仕事で広く使われている。WeChat におけるグループ機能は、メッセージの機能というよりもむしろフォーラムのようなものだ。ユーザの追加権限を持つモデレータが居て、その人物がグループの目的にあった議論を進行する。Bischoff は、グループ機能を使って、ビジネス上の衝突が防がれた逸話を紹介している。

Mark Bivens: 意義深い話だね。確かに、私は最近初めて上海に行ったとき、WeChat をインストールしたら一時間もしない間に Cisco China のM&Aディレクターから仕事のボイスメッセージを受け取ったよ。彼とは長い間連絡が取れない、古くからの友人だった。グループ・コラボレーション機能は、メッセージ・アプリを余暇の時間から仕事の場へと、その可能性を広げてくれる。ソーシャルな生活と職業生活が被っている文化においては、特にそうだね。次は何だい? 決済か? はたまた Eコマースか?

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Jerry Yang: 欧米でアジアのテックニュースを追いかけている人には、WeChat が昨年11月に Xiaomi(小米)と行ったフラッシュ・セールで成功した話は有名だ。いくつかの報告によれば、Xiaomi は WeChat 上だけで、10分かけずにスマートフォンを15万台販売したとされる。

これには、一度きりの偶然ではないことを証明できる理由がある。固定電話回線のインフラ費用がかさむため、携帯電話の普及が固定回線のそれを上回ったように、中国の消費者にとって、オンライン/モバイルコマースとブリック・アンド・モルタル(いわゆる街の店頭での買い物)との間に似たような関係を見出すことができる。

中国の消費者の多くは、欧米人よりも、オンラインやモバイルでモノを購入することを受け入れやすい。小売の店舗網や価格帯が分散している中国では、一カ所に集約されたオンライン購入体験は、その便利さで消費者を虜にする。

今年に入って発表された UBS の報告によれば、昨年は2兆人民元(約3,230億ドル)のEコマースビジネスが中国の小売業全体の約8%を占めており、2012年の6%よりも数字を伸ばしている。中国におけるEコマースの普及率は、アメリカのそれを超えることが予想されている。何度かのフラッシュ・セールの成功を見るかぎり、Alibaba(阿里巴巴)がEコマースの独占企業であるように、WeChat はモバイルコマースのそれになりつつあるようだ。

WeChat の親会社 Tencent(騰訊)は今年始め、時間をムダにしないためにも、もう一つの Eコマース巨大企業 JD.com(京東商城)と提携した。Alibaba の Jack Ma(馬雲)と Tencent の Pony Ma(馬化騰)の間を行き交うメディアの取材合戦は、Apple と Google のそれを彷彿させる。さらに言えば、ブランドは現在、WeChat 上の公式アカウントを自社で直接管理できるようになった

Mark Bivens: それは印象的だよね。LINE もモバイルコマースで先陣を切っている。タイがいい例だ。タイには2,400万人の LINE ユーザがいるが、昨年12月に LINE が複数回のフラッシュ・セールを展開し、LINE キャラクタの入ったスマートフォン・ケースを販売した。25分間で売り切れたのだそうだ。この経験をもとに、LINE は Maybelline の口紅や地元スーパーのクーポン券など、同じようなイベントを複数回実施している。Tech in Asia に掲載されたインフォグラフィックによれば、LINE のタイでのフラッシュ・セールは実り多き成果を生んだようだ。

Jerry Yang: 私もそのインフォグラフィックは見た。素晴らしいよね。チャット・アプリなら、他のどんなチャット・アプリの開発者の野心ある夢より、先に進める可能性がある。私が WhatsApp の CEO Jan Koum の熱狂的なファンではないのは、そういう理由からだ。

私は Jan が WhatsApp に注ぎ込んだ集中力には敬服しているし、Facebook に買収されたときには、皆が Jan と場所を交換したがった。しかし、彼は、WhatsApp をシンプルな状態に保ち、信頼できるテキスト・メッセージングがいかに役に立つか、という持論を常に展開し、ステッカーやぬいぐるみは〝仕掛け〟に過ぎないと言い放つ。

これはどこかで聞いたようなセリフ——そうだ、Blackberry が市場シェアを iPhone に奪われ始めたときに言っていた言葉に他ならない。確かにネットワーク性能や信頼性は重要だが、バリューチェーンの最も利益が得られる部分は、テキスト・メッセージングではないだろう。理由は簡単、ネットワーク・ハードウェアやインフラが急速に進歩するため、さまざまなチャットアプリ上では、速度や信頼性に明確なメリットを見出せなくなるからだ。言い換えれば、顧客が WhatsApp の考える KPI を全く求めていないと WhatsApp が気付いたときには、時すでに遅しだ。

WhatsApp が昨年稼いだわずか2,000万ドルという売上を見る限り、LINE のユーザが〝仕掛け〟に払っているよりも多くの金額を、WhatsApp のユーザがメッセージングに支払うとは考えにくい。私が Facebook の株主なら、この結婚(Facebook による WhatsApp の買収)に際し、Zuckerberg がもっと壮大な計画を画策していることを祈りたい。

Mark Bivens: Zuckerberg の想像力をもってすれば、彼はおそらく新しいオモチャに対するグランド・ビジョンを持っていると思うよ。それにもかかわらず、我々が共通の見解として持つように、LINE と WeChat は完全に異なる国をそれぞれ代表している。

Mona Nomura が最近指摘したように、アジアのチャット・アプリは、今やチャット・アプリ以上の存在であり、エコシステムになりつつある。欧米のテック巨大企業に支配された消費者のコミュニケーション方法に、アジアの虎たちがどのような影響を与えるのか注目したい。