オランダのゲーム・デベロッパBoosterMediaがヤフーと提携——ネイティブアプリ全盛の中、HTML5にこだわる理由とは?(インタビュー)

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BoosterMedia CEO Laurens Rutten 氏(右)と、
日本市場 Business Development Manager に就任した菊池奈那氏。(左)

昨年以降、モバイルゲーム業界では、トレンドがネイティブアプリ化へ向かっているのは疑う余地の無い事実だろう。数々リリースされているグロースハッキング・ツールが、ネイティブアプリへの導入を前提としたものであることを考えれば、この考察はおそらく間違いない。

そんな中、今月初めにオランダのBoosterMediaヤフーとの提携を発表、無料カジュアルゲーム11タイトルの配信を開始した。興味深いのは、彼らのゲームタイトルの多くがネイティブアプリではなく、HTML5 を使ったモバイルゲームである点だ。ネイティブアプリでゲームを開発するメリットは、先の gumi Asia の David Ng 氏とのインタビューでも論じているので、改めて説明するまでもないが、「なぜ、今さら HTML5 なのか?」というのは筆者の直感的な疑問である。

アムステルダムから遥々来日していた BoosterMedia の創業者で CEO の Laurens Rutten 氏に話を聞くことができた。

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ヤフーとの提携で、BoosterMedia が日本向けに配信を開始したゲームタイトル(一部)。

OEM供給で追い上げる、モバイルゲームの新騎手

Laurens にとって四度目の起業となる BoosterMedia がビジネスを始めたのは、今から3年半ほど前のことだ。本社のあるアムステルダムのほか、ロンドン、シンガポール、サンパウロ、東京に拠点を構え、フランスのゲームポータル Jeux.com や Vodafone など、世界中の150社以上のメディアブランドやモバイルキャリアにゲームを OEM 供給している。

BoosterMedia がさらに特徴的なのは、西洋と東洋のゲームタイトルをうまく相互流通させている点だろう。例えば、ヨーロッパで人気を博した Bubble Fever は今回のヤフーとの提携で、日本でのサービス展開が実現した。一方、モブキャストの人気タイトル「モバサカ」は韓国等でも流通する一方、ヨーロッパや南米では BoosterMedia の手によって League 11 としてリメイクされ、サッカー熱の高い地域の人気を博している。

BoosterMedia のアムステルダム本社には、これまでも数名の日本人スタッフがいたが、今回ヤフーとの提携を含め、日本法人の設立に至った背景について、Laurens は次のように語ってくれた。

日本は非常にクオリティの高いプロダクトを創り出す市場です。それに、日本市場に海外から多くのコンテンツを持ってきたいと考えています。

東京、シンガポール、サンパウロ拠点の社員は主にビジネス開発に従事していて、ゲームの開発はアムステルダムで行っています。日本のインターネットは超高速で、人々はハイエンドのスマートフォンを使っています。しかし、他の国では必ずしもそうではない。だから、市場によって投入するプロダクトは違ってくるんです。

King.com や Supercell など、世界の大手ゲーム・デベロッパは、統一されたゲームタイトルを、世界のできるだけ多くのユーザに使ってもらうことに心血を注いでいる。ゲーム中で使われている言葉の翻訳や、課金のプロセス、サーバ〜端末間の通信タイミングなど市場最適化は実施されているが、一つのタイトルを多市場に展開することでスケールメリットを得ようとするのが、基本的な戦略だろう。

対して、BoosterMedia の場合、ビジネスモデルが OEM ベースであるため、ゲームタイトルの宣伝に多大なコストを投じる必要が無い。豊富なゲームタイトルが欲しいポータルやメディアブランドにゲームを供給すれば、ポータルやメディアブランドがユーザへのリーチを面倒みてくれるわけだ。ちょうど、CMを打つ必要のない、飲食品メーカーの、コンビニ向けのプライベートブランドの製品供給にも似ている。

この戦略によって、BoosterMedia は、より地域に根ざしたグローカルな展開が実現できるわけだ。

BoosterMedia の世界拠点。
BoosterMedia の世界拠点。

あえて HTML5 アプリにこだわる理由

日本のゲーム・デベロッパは総じて、ウェブアプリからネイティブアプリへと舵を切っている。ゲームの軽快なレスポンス、優れたUXの実現、ユーザ行動の捕捉、プッシュ通知によるリテンション・レートの改善など、そこにはさまざまなメリットがある。

しかし、BoosterMedia は HTML5 によるゲーム開発にこだわる。その背景には何があるのだろうか。

ネイティブアプリの世界では、宣伝をして、自社のアプリをアプリストアの上位に持って来ようとしますよね。そこにゲーム・デベロッパは、多大なコストをかけています。

我々のアプリは HTML5 なので、そもそもダウンロードしてインストールするという作業が必要ありません。ゲームポータルやメディアブランドが、我々のアプリを宣伝してくれるのです。(Laurens Rutten氏)

ネイティブアプリであれば、iOS や Android などプラットフォーム毎の開発が必要になる。タブレットや他のスマートデバイスでのゲーム利用も想定すべきだろうし、今後は、スマートグラスなどにも対応させる必要が出て来るだろう。HTML5 を使えば、この開発プロセスは、ほぼ一本化することができる。

実際には、アプリの 95% が HTML5 で出来ていて、5% 位はネイティブアプリの機能で動いています。そうすることで、純粋な HTML5 アプリでは実現できない、プッシュ通知やユーザ・リテンションのための方策も実装しているのです。

ネイティブアプリで言う Unity ほどではないにせよ、HTML5 の世界にもフレームワークはあります。グロースハッキング・ツールも、ネイティブアプリ用のものは使えませんが、MixPanel や Google Analytics などを駆使すれば、十分にユーザ動向の分析ができるのです。HTML5 の力を過小評価してはいけません。(Laurens Rutten 氏)

HTML5でゲームの実装が可能な、さまざまなデバイスやインターフェイス。
HTML5でゲームの実装が可能な、さまざまなデバイスやインターフェイス。

「ヨーロッパのゲームが、日本でも受け入れられるようになった」

Laurens が初めて来日したのは、BoosterMedia を設立して間もない3年程前のことだった。日本法人を立ち上げた今、改めてその頃のことを振り返って、彼は次のように語ってくれた。

当時の東京には、ヨーロッパのゲームが受け入れられる市場なんてありませんでした。しかし、今では Candy Crush も Clash of Clans も広く受け入れられていますよね。これは大きな変化だと思います。(Laurens Rutten 氏)

BoosterMedia は、日本市場でヤフーのほか、既に KDDI のスマートパスとも提携し、20以上のゲームタイトルを供給しているそうだ。

大々的なプロモーション展開を行うゲーム・デベロッパらとは一線を画し、静かに、しかし着実にローカル・パートナーの数を増やし、日本のゲームユーザへのリーチをより確実なものにしつつあるようだ。同社の今後の動向に注目したい。