「クックパッドの良心」とも言われるユーザーファースト推進部 池田拓司氏が実現する“ブレない”サービスづくりとは

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Cookpad-Takuji-Ikeda

クックパッドのユーザーファースト推進部 部長でデザイナーの池田拓司さん。多摩美術大学を卒業後、ニフティに入社。その後、はてな を経て2012年にクックパッドへ入社しました。

社内のメンバーから、「新規事業が増える中で、クックパッドらしさを守る“クックパッドの良心”」と表される池田さん。彼が言語化し、社内外に対して守り抜く「クックパッドらしさ」とは。

生活に近いサービスをつくりたい

デザイナーとして新卒入社したニフティで3年間働いた後、まだ当時10名ほどだった はてなに転職した池田さん。より生活に近いサービスをつくりたいという思いで、7年間勤めた はてなからクックパッドに転職しました。

2014年4月に「デザイン部」は名前を変え「ユーザーファースト推進部」に。社長直轄の部署であるため、お客様の声が経営陣にも届きやすい体制が出来ています。現在はデザイナーを中心とする8人のメンバーで構成されるチーム。

「デザイナーの仕事は、みんなが必要とするデザインをつくるだけではありません。デザイン、サービス名称、収益とユーザビリティのバランスといったものを包括的に見て、クックパッドがユーザーとどう接して行くのかを見ることがユーザーファースト推進部のミッションだと思っています」

デザインルールを設けることで意識から統一

池田さんがクックパッドに入社した2012年当時、まず任されたのがクックパッドのデザインルールの統一でした。デザインルール策定後は、エンジニアが各々の価値観や感性で自由につくることがなくなったと言います。

「個人の価値観に委ねられていると、同じサービスでも機能単位でバラつきが出てしまいます。そこをフラットな状態にするために、ウェブ用にドキュメントとUIのサンプル集のようなものを用意しました」

一方、ウェブと違って次々に新しいものが誕生するのがアプリです。クックパッドのアプリ開発では、新規サービスでもクックパッドと近い使われ方をするアプリであれば、サービス間でシームレスに同じ体験ができる形を目指します。

デザインルールを設けることには、デザインの一貫性以外にも目的があると話す池田さん。

「クックパッドのサービスを一貫した考え方で開発していこう、という社内に向けたメッセージの発信になっていると思っています。プラットフォームが変わってもその意識をみんなに持ってもらう基盤になっていますね」

“ブレない”ためのサービス企画シート

クックパッドが新規サービスの立ち上げ時に必ず用意するのが「サービス企画シート」。そこには 以下のような項目が並びます。

・サービスの価値
・キラー要素
・ターゲット
・ユースケース
・コア機能
・あきらめること

これらの内容を事前にしっかり定義することで、デザイン、キャッチコピーといったサービスに関わるさまざまな要素を考えるタイミングにおいて、ユーザーに価値が伝わるかを認識できるのだと言います。

例えば、「あきらめること」を書き出すことでユーザーの課題解決に必要なコア機能がはっきり見えてくる。あれもこれもと欲張るのではなく、あきらめることをあらかじめ決めておくことで次の一手が見えることもあるのです。

引き算してコア機能に絞った「ダイエットひとりぶん」

サービス企画シートが大いに力を発揮したのが、アプリ「ダイエットひとりぶん」。ひとり暮らしの女性を対象に、ダイエットに気を配ったレシピだけが詰まっています。

当初、アプリにはコミュニティ要素やレシピへのいいね!機能、フィルタリングなど機能が盛りだくさんでした。ところが、現行のアプリは [カロリー]と[調理時間]のみが表示されるシンプルな作りになっています。

「サービス企画シートを基にアプリの仕様を考えると、ソーシャルな要素を削ぎ落としてシンプルにしても、初期の価値検証ができるだろうと考えました。余計な機能を削り、コアな部分に集中してリリースするという場面は多いです。「何の目的でそれをつくるのか」を明確にするためにサービス企画シートが役立っています」

また、クックパッドには「ものづくりの原則」と呼ばれるものが存在します。以前に行った片山育美さんのインタビューでも、「無言実行」、「無言語化」といった創業時からのルールに触れましたが、ものづくりの原則はサービス開発のフェーズに分かれて用意されています。

「最近はレシピ以外の食の領域にも事業の幅を広げているため、例えば、”ユーザーに聞く前にそれを取り組む開発者自身がまずその領域について誰にも負けない知識や経験を身につける”といったものがあります。迷った時は、ものづくりの原則に立ち返っていますね」

ビジネスとユーザー双方にとっての「文脈」の最適解

ABテストやユーザーヒヤリングも頻繁に行うものの、何かを判断する際の決め手となるのは最終的にはユーザーファーストへの感覚。この「感覚」をチーム内でどのように共有するのでしょうか。

「社内チャットにリリース情報が流れて来ます。それらに関して、何かを反対した場合、その理由をきちんとチームに共有するようにしています。反対した理由を周知して議論することで、言語化することが難しい「感覚」が共有されていくので」

ユーザーファースト推進部の最大のミッションは、「ユーザーにとって一番いいことだけを考える」こと。反対する場合、その多くは「文脈に合っていない」ことが理由なのだそう。

「プレミアムサービスの露出を増やして会員数が増えるというビジネス上のプラスを、ユーザーも喜ぶ文脈で提供することでウィン・ウィンの状態をつくる。ビジネスとユーザーのバランスを考えて、長期的な最適解を導くことを心がけています」

クックパッドでは検索結果ページのリニューアルを予定。検索結果のページは、レシピ以外のコンテンツなども表示しやすく、ページビューが多いため広告としても商品になりやすいコアなページです。ユーザーの「レシピを探す」というアクションと事業。双方にとって最適な「文脈」をどう作っていくのか、ユーザーファースト推進部の腕の見せ所です。

リビングで起きていることへの関心

「ユーザーファースト」を徹底することがおのずと結果につながると話す池田さんは、普段から身近なユーザーに意見を聞くことを大切にしています。

「より多くの人に話を聞こうとするのではなく、一緒に働いている人や奥さんなどまずは身近な人がちゃんと使えているのかを見ること。そういう意味では、仕事とプライベートのON/OFFはないですね」

また、デパートを歩いていても、公園に出掛けていても、何かに困っている人がいないか、そこに不便がないかを観察する。

「デザイナーの中にはあまり外に出歩かず、コミュニケーションを積極的にとらない人も多い。でも、外を歩いている何気ない時にヒントやきっかけに出会うことがある。パソコンに向かってデザインするだけじゃなく、世間のリビングで起きていることへの興味も大切にしてほしいですね」

先日の社員総会では、穐田社長の言葉をきっかけに「人に紹介したくなるサービスがユーザーファーストである」ことを全社員で確認したばかり。そんなクックパッドでは、デザイナーを絶賛募集中だと言います。守備範囲が広いデザイナーが集まる中、池田さんが求める人材像は自分が秀でて強い分野を持つデザイナー。

「スマホのデザイン経験やコミュニケーション能力も大事ですが、何よりユーザーファーストを徹底することが前提です。あとは、解決したい!と思うユーザーの課題があるかどうかですね、それを持っている人のほうが面白いですから」

「ユーザーファースト」をきちんと実施できているかどうかは、何よりサービスそのものが物語ってくれるはず。クックパッドのユーザーファーストのつくり方が、少しでも多くの方のヒントになりますように。

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