白熱するインドのEC業界の戦いと、知っておくべき8つの主要プレイヤーとは?

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nishijima編集部注:本稿はネットプライスドットコムのBEENOS本部にてインドの投資業務を担当している西嶋悠加乃さんの寄稿記事。西嶋さんは21歳の時に携帯向けサイト・システムの企画および受託開発を行う会社を起業。その後、2010年からインド・バンガロール大学に留学して卒業後に同社に入社。現在はインドに駐在し、現地の価値あるスタートアップの発掘に注力している。

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新興国のサービスとあなどってはいけない、インドのECサイトのサービスレベルの高さ

筆者は、ネットプライスドットコム(今年10月1日にBEENOSに社名変更予定)にてインドの投資業務を担当し、インド現地に駐在して前途有望なITスタートアップ発掘に注力している。この仕事を始める前まではインドの大学で学生をしていたので、インド在住歴は合計で3年を超える。

インドに初めて降り立った2010年の春、まだインドではそれほどECサイトが浸透しておらず、かくいう私も「インドのITサービスなんて、クレジットカードの登録はセキュリティー的に何だか怖いし、配送インフラの問題もあるからきっと商品なんてちゃんと届かないだろうな」と思っていた。

しかし、物は試しと当時一番知名度のあった「Flipkart.com」(本から電化製品、洋服、家庭用品まで幅広く取り扱う)という総合系ECサイトを一度利用して驚いたのを覚えている。

flipkart

Rs.500(約855円)未満の商品は1点あたりRs.40(約68円)の送料がかかるが、それ以上注文すると送料無料となる。さらに、代引き手数料もかからないため、クレジットカードで決済する必要がない。また、多くの商品に30日間の無料返品&交換保証がついている。

その上、一部の商品では、Rs.90(約153円)を追加で支払うことで、翌日配送にも対応してくれる。今では配達日指定が可能で、配送状況はリアルタイムに7段階でトラッキングされており、ネット上で商品が今どこにあるのかが一目で確認できる。個人的に配送や決済が原因でトラブルが起きたことは、まだ一度も経験がない。

インドでECサイトを利用し始める前は、たった数百円の買い物のために、公共バスやオートリキシャ(三輪タクシー)を利用し、砂まみれの汗だくになりながら片道1時間以上かけて店まで行っていた(しかし、インドの店は品揃えが悪いので、店まで行ってもお目当ての商品がないということはザラだった)。新興国でのインターネットサービスの恩恵は、先進国でのそれよりも大きいのではないかと個人的に思う。

それからというもの、インドのECサイトをはじめとしたネットサービスにどっぷりとハマり、プライベートでも仕事でも様々なネットサービスを使いたおしているが、今回はインドのEC市場とその中のプレイヤーを
いくつかご紹介したいと思う。

現在のインドのECの市場規模と、その市場の将来を示唆するいくつかのファクト

以下はインドのEC市場(厳密にはオンラインリテール市場)の市場規模の推移である。

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2014年のインドのEC市場規模の予測は、$5.56 Billion(約5,560億円)程度と、日本の9兆円市場と比べるとまだまだ小さいように思える。しかし、10億5千万人という日本の10倍以上の人口であること、平均年齢が25歳という若い人口構成であることから、今後の国の経済成長に伴ってEC市場が拡大していくのは確実であると思われる。

その他インドのEC市場の将来を示唆するいくつかのファクトを取り上げてみよう。

  • インドのネットショッピング人口は現在約3,000万人と言われており、まだ人口の2.4%ほどしかない。
  • オンラインショッピング利用者の90%は18-35歳の年齢層に属する。また利用者の65%は男性であり、35%は女性である。
  • インターネットショッピングの決済の約6割以上がCOD(代引き決済)であると言われている。
  • 携帯電話の契約者数は8億9,330万人であるが、そのうちスマートフォンの所有ユーザーはまだ6,700万人程度しかいない。ただしスマートフォン出荷台数は2013年に前年から3倍の4,400万台を記録した。
  • インドでFaceboookのユーザーが1億人を突破し、米国を抜き世界一に。そのうちの8,400万人程度が携帯電話から利用している。

これらのファクトは、インドのインターネットビジネスが成長する高いポテンシャルをもった国の一つだと言えるのではないだろうか。

上場前にも関わらず累計750mnを調達?インドの白熱する資金調達合戦と、8つのECプレイヤーの今昔

以下の図は、インドのEC市場(オンライン小売業のみ)の主要プレイヤーの8つのサイトを調達額とサービス開始時期で分類したものである。

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厳密には今年5月にMyntra.comはFlipkartに買収されているため、別々にすべきではないのだが、インドEC業界の最前線を長く走り続け、現在もFlikpartとサイト統合されていないため、読者にわかりやすいよう別のプレイヤーとして位置づけた。それでは、それぞれ8つのプレイヤーの誕生の歴史と、これまでの功績を追ってみよう。

Flipkart

flipkart_logo前述したFlipkartは名実ともにインドを代表するECサイトであろう。Flipkartは現在1,8000万人もの顧客をかかえ、1日あたりの注文数が10万点を超える。昨年の年間流通総額は1billion(約1000億円)の大台に達し、上場前にも関わらず累計調達額は$750million(約750億円)とインドのITベンチャー界では知らぬものはいない存在だ。

そんなFlipkartは、共にIIT Delhi卒業・米Amazonで働いていたSachin Bansal と Binny Bansal(2人の苗字は同じBansalだが兄弟や親類というわけではない)が、インドでも本を手軽にネット購入できるようにと、2007年に始めたECサイトであり、その後は携帯電話・カメラ・PC・家電・時計・洋服など幅広くカテゴリーを増やしている。

Myntra

myntra_logoMyntraは2007年にMukesh Bansal、Ashutosh Lawania、Vineet Saxenaの3人によって創業された(全員IIT卒でいくつかのスタートアップを経験)。2007年から約3年間、Tシャツ・カード・カレンダー・キーチェーンなどのオンラインカスタマイズプリント事業を行っていたが、2010年に現在のアパレルEC事業へピボットした。

現在約600の国内外ブランドの商品をサイト内で提供し、数々のトップファッションブランドとタイアップしている。2014年1月に50million(約50億円)の大型資金調達が話題となったが、同年5月に前述のFlipkartに買収された(買収額は非公開だが約330million/330億円ほどとみられている)。

Snapdeal

snapdeal_logoSnapdealは2010年2月にKunal Bahl(ペンシルバニア大学ウォートン校卒・元米Microsoft勤務)とRohit Bansal(IIT卒)が創業。当初は共同購入型クーポンサイトであったが、2011年9月にマーケットプレイス型のECサイトへピボットした。

Snapdealの売上の約30%がモバイルユーザーからのものである。サイトには3万の売り手が存在し、毎日100万人がアクセスしていると言われている。売上における中小都市(400万人未満)の占める割合が約60%と、他サイトと比べると中小都市への顧客リーチが強いサイトだ。

snapdeal

2013年4月にeBayはSnapdealへ50million(約50億円)の出資を発表。その後2014年2月に再度133million(約133億円)もの追加出資を行っている。

eBay.in

ebay_logo米eBayは2004年、インドのオンラインマーケットプレイス大手のBaazee.comを約$50million(約50億)で買収。この買収によって米eBayは、家電やコンピュータ、家庭用品に至るまで幅広い商品を扱うマーケットプレイスと登録ユーザー100万人以上を獲得した。2012年末時点で約500万の登録ユーザーがおり毎日2万件の注文が入るという。

Jabong.com

jabong_logoJabongはファッション&ライフスタイルECサイト。2012月1月にArun Chandra Mohan、Praveen Sinha、Manu Jain、Mukul Bafanaによって創業されたが、彼らはRoket Internet社のメンバーもしくは同ビジネスを遂行するために集められた銀行員・コンサルタント・MBAホルダーなどだった。

自社で在庫を持ち販売・配送を行うインベントリーモデルと、売り手と買い手を繋ぐ場をサイトで提供するのみのマーケットプレイスモデルの両モデルを採用している。前者は企業からの商品をJabongの倉庫で管理し発送まで行うが、後者では小売業者側が行う。しかし後者でもカスタマーサービスや返品に関してサポートを行っている。2014年2月Roket Internetは複数の出資者を通して約$100million(約100億円)をJABONGに追加出資することを発表した。

Amazon.in

amazon_logoAmazonはAmazon.in開始前にJunglee.comという価格比較サイトを2012年2月にインドにて開始。2013年6月にAmazon.inとしてマーケットプレイス型EC事業をスタートした。

Amazonは自社で在庫を持たず、同サイトに商品を置く小売業者のために、商品の管理・ピッキング・配送などの拠点(フルフィルメントセンター)を提供している(FDIの問題があり、現状の資本構成では自社内でストック&発送をする直販ビジネスを行うことが不可能であるため)。

ハイデラバードに東京ドーム3個分以上となる、148,600㎡の広さのオフィスを構え、今後3年間で13,500人を雇用する計画を2013年11月発表した。

HomeShop18

homeshop18_logoHomeShop18はBSE(Bombay Stock Exchange)とNSE(National Stock Exchange of India)の上場企業Network18 Media & Investments Limitedによって運営されているECサイトである。Network18の業態は元々マスメディアであり、複数のビデオチャンネルや書籍出版を行っていたが、2008年4月にインド初の24時間ホームショッピングTVチャンネルをスタート。その後、同名のネット通販サイトを2011年1月に開設し、現在はPC・携帯・電化製品・洋服・本・ビューティー・家具・おもちゃ・時計など幅広い商品を取り扱っている。

ShopClues

shopclues_logo最後に当社(ネットプライスドットコム/BEENOS)が2013年3月にインドではじめて出資したスタートアップのShopCluesを紹介したい。ShopCluesはClues Network Inc.としてシリコンバレーに2011年6月に創業し、同年11月にインドにてサービスを開始。ファウンダーはeBayのGlobal Product HeadであったSanjay Sethiである。

ShopCluesはインドで初めて「managed marketplace(管理されたマーケットプレイス)」モデルを採用したECサイトとされ、インドのマーケットプレイス型ECサイトの中ではパイオニア的存在だ。携帯電話・PC・タブレット・洋服・アクセサリー・本など530万商品以上を扱い、5万2千以上の小売業者が販売元として登録している(これは国内最大級の取扱い商品数及び小売業者数である)。

shopclues

高収益のビジネススタイルを目指し「ゼロ・インベントリー・マーケットプレイス」を掲げ在庫を持たない方針を貫くが、その分、小売業者のオンライン販売が楽になるようなシステムツールと手厚いサポートを提供している。昨年は、急成長を遂げているアジアのテクノロジーベンチャー企業100社に与えられる「Red Herring Asia Top 100 Award」(米Red Herringが主催)を受賞。将来が有望視される企業として国内外から注目が集まっている。

最後に

長くなってしまったが、インドのインターネット業界がいかに今熱く、ダイナミズムに溢れているかということが少しでも伝わったなら幸いである。日本のテック系メディアを見ていると、アメリカ・中国、そして東南アジアに情報が偏ってしまっているが、インドが日本のIT企業や投資家にとって魅力的な国であることを、今後も寄稿していくことで少しでも伝えていければと思う。

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