タニタブランドの再生を仕掛けた猪野 正浩氏に学ぶ、スタートアップにも役立つ5つの広報術

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image via. Rick Ligthelm

アイランドの外苑前スタジオで8月20日、タニタのブランディング推進室 室長 猪野正浩さんのセミナー、「『タニタブランド』の成功の裏側で“広報”が果たした役割」が開催されました。アイランドは、「レシピブログ」や「おとりよせネット」といったサイトを運営する会社。以前に紹介した同社代表の粟飯原理咲さんの講演記事は、大きな反響を呼びました。

タニタと言えば、体脂肪計などあらゆる「はかるもの」をつくる会社。業界紙や日刊工業新聞社の記者などを経て、猪野さんがタニタに入社したのは2006年のこと。タニタは今でこそ誰もが知るブランドですが、当時は過去の体脂肪計の成功体験によって組織が硬直化していたのだと言います。広報の力でそれを見事に立て直したのが猪野さんです。

広報の仕事は、ニュースを配信することではなく、むしろそこは始まりだと話す猪野さん。商品を手掛けるタニタでは、「新聞に出たね」で終わらず「売れたね」となることが本当のミッション達成です。

話題の仕掛人、猪野さんのセミナーの内容から、広報のハウツーを5つのポイントに絞ってお伝えします。

メディアにとって有益な情報を継続的に

数打ちゃ当たると思って、または広報作業自体が機械的になってしまい、細かなニュースもすべて送るのはNGです。メディアに対して提供する情報をきちんと選別すること。

「いかにメディアにとって有益な情報を継続的に発信するかが大切です。例えば、カタログに載っているのと同じ情報をただ送ってもメディアは迷惑するだけ。“伝えるに値する”有益な情報をスクリーニングしてからアプローチするべきです」

タニタでは、平均すると月に2本、年間24本のリリースを出しています。月2本のペースなら忘れられてしまうことがなく、またメディアとの関係性が確立されているため新しいニュースを目に留めてもらいやすい。社内からはリリース配信の要望が多くあるものの、スクリーニング後に残るのはその半数だと言います。

引き出しをたくさん持つ

広報担当者は情報を売ってなんぼ、だと話す猪野さん。広報とは、「情報の営業マン」なのです。会社のニュースをいかに上手く売り込むかは、どれだけ多くの引き出しを持っているかに関わってきます。

自社の商品や他社の商品、会社や業界の動きのみならず、社会や経済の動きにまでアンテナを張る。また、生活者が求める商品を開発し、メディアに対して新しい情報を提供し続けるためにはトレンドに敏感であることが必要不可欠です。

「青山や原宿の界隈は、四季ごとに必ず歩いて観察します。若い人たちのファッショントレンドや、ショーウィンドウを飾る色の違いを観察するなどしてインスピレーションを得るのです。さまざまなヒットの裏側を、自分の足で歩いて自分の目で見て探るようにしています」

引き出しを多く持つことで、自社の情報を政治や社会情勢と絡めて時事性の高いニュースに仕上げたり、また記者から投げかけられる幅広い質問に的確に答えたりして関心を集めることができるのです。

クリッピングで鍛える“切り口の見つけ方”

テレビや新聞などさまざまなメディアと付き合うタニタでは、相手によって情報を加工して付加価値を加えています。例えば、紙媒体にも業界紙、経済誌、一般紙など種類があり、各々の媒体が求める形で情報を適切に調理することが求められます。

特定のメディアにとって面白い情報の切り口を考える。この発想力を鍛えるために日頃から行うのが、クリッピングの作業。いわゆる新聞の切り抜きです。

「自社の情報が書いてあるものだけではなく、他社のニュースもクリッピングします。それこそ、事業に関わる役所の動きなども。ここで見るのは、どういう風に筋立てて記事が書かれているかという点です。どんな背景があって、どんな視点から記事が書かれているのか。そこに着目します」

イベントと広報の密接な関係性

2012年1月にオープンしたのが、丸の内 タニタ食堂というタニタの社食がそのまま食べられるお店です。「食べて痩せられる食堂」ということで話題をさらい、その効果は書籍発行部数532万部(3冊合計)という結果にも貢献しました。

食堂のオープニング日に関しては、当日初めてパートナー企業の名前を明かすというサプライズを用意し、またオープニングの日程を敢えて少しぼかすことで1.5ヶ月先のオープニングへの期待をつなぎ止めるといった工夫を施しました。

また、メディアだけでなくお客さんを対象にしたプレイベントをいくつか実施。読売新聞の「大手小町」とタイアップし、実際に大手町で働く人たちの味やサービスに対する反応を確認。メディアより早く食べたということに喜んでもらい、口コミ効果がありました。また、丸の内キャリア塾と共同でもイベントを開催し、情報発信力が強い丸の内の女性が後日、タニタ食堂の体験レポートをブログに書くなどして広まりました。

メディアのみならず、プレス発表会を含むさまざまなオフラインイベントを実施し、時には実際の利用者をも招待することで、情報がさまざまなルートで四方八方に広がる仕掛けをしています。

コストセンターからプロフィットセンターへ

ここ数年以内に、47都道府県すべてにタニタ食堂をオープンすることを目指すタニタ。タニタ食堂に注目が集まるものの、タニタはあくまで健康総合企業です。その中で、猪野さん率いるブランディング推進室の目下のゴールは、これまでコストセンターだった広報をプロフィットセンターに変えること。

「広報はこれまで一般的にコストセンターとして捉えられてきました。コストをかけるという考え方には効果想定が付きまとい、やれることに制限が生まれてしまいます。自らプロフィットセンターになることで、もっと自由に発想して広報やブランディングの側面で新しい仕掛けができるようになると考えています」

今後は新規事業開発にも積極的に取り組み、市場創造型に取り組んでいくと話す猪野さん。その一環として、タニタでは既に異業種とのコラボレーションも展開しています。サクマ製菓と開発した「ごほうびキャンデー」、栗山米菓と共同開発した「タニタ食堂のおやつ」など。パッケージなどに必ずタニタという会社名が入っているため、タニタの健康理念を間接的に啓蒙することにつながります。

「生活者のニーズは変わりやすい。高性能、高機能が求められたモノの時代から、コトの時代が到来しました。その商品で何ができて、生活がどう豊かになるのか。このコトを軸足にして情報や商品の価値を共有して共感してもらう。そうすることでブランド価値が高まって行くと思っています」

アイランドでは、今回の猪野さんのセミナーに続き、広報をテーマとしたセミナーをあと2回(第2回第3回)予定しています。興味がある方は、アイランドのウェブサイトでご確認ください。

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