#StartupAsia Tokyo 2014 Day1: 日本のVC各社が考える、東南アジアのスタートアップ投資の魅力と課題

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これは Startup Asia Tokyo 2014 の取材の一部だ。

日本の独立系VCやCVCから、東南アジアのスタートアップに対する投資は増加する傾向にある。「日本の投資家が東南アジアに投資している理由は?」と題されたこのセッションでは、特にこの地域への投資実績の多い投資家たちが、市場の背景や動向などを交え洞察を共有した。

このセッションに参加したパネリストは、

  • トランスコスモス ディレクター 松尾俊哉氏
  • GREE Ventures パートナー 堤達生氏
  • グローバル・ブレイン 創設者CEO 百合本安彦氏
  • IMJ Investment Partners CEO 堀口雄二氏
  • East Ventures 共同創設者/マネージングパートナー 衛藤バタラ氏

モデレータは、Infinity Venture Partners の田中章雄氏が務めた。

限られたスタートアップに、日本の複数のVCから投資が集中する理由

Startup Asia Tokyo 1日目の午前中のセッションで、インドネシアの化粧品Eコマース Luxola の創業者 Alexis Horowitz-Burdick のプレゼンテーションがあった。GREE Ventures も、トランスコスモスも、グローバル・ブレインも同社に投資している。

THE BRIDGE の読者もおわかりかもしれないが、まるで複数の投資家がどこかで口裏を合わせたように、同じような東南アジアのスタートアップに投資が集中する状況が起きているが、これはVC各社が、投資対象として条件に合致するスタートアップを探した結果だという。

トランスコスモスは、東南アジアのスタートアップへの投資案件が多いわけではないが、Luxola のほか、インドネシアのレディースファッション Berrybenka、タイの電子出版プラットフォーム Ookbee などに投資をしている。

Ookbee がタイ市場で事業がうまく行っている背景について、トランスコスモスの松尾氏は次のように語った。

タイでは、雑誌や書籍は所得に対して高い傾向にあり、友人同士で回し読みをする習慣がある。なので、安く提供できる電子書籍は受け入れられやすい。キャリアは端末にアプリを載せたい意向があった。(日本では出版社がコンテンツのデジタル配信に保守的なのに対し)、現地の出版社もコンテンツを載せたいと思った。ユーザ、キャリア、パブリッシャのいずれのメリットも一致したのは、アジアの特徴的な状況かもしれない。

East Ventures は、日本やインドネシア、最近では一部、タイのスタートアップにも投資を始めているが、今後投資を増やしたい分野について、衛藤氏は次のようにコメントした。

インドネシアは島国なので、高速道路とか電車はあまり発達していない。人々は移動に飛行を使うので、その周辺に注目している。飛行機の予約プラットフォームを作るスタートアップなどだ。

グローバル・ブレインの百合本氏は、最近、シンガポールで広告関係のスタートアップに500万ドルを出資したこと明らかにした。現時点で投資先の具体的な社名は明らかにできないとのことだが、9月中には、日本のVC による東南アジアのスタートアップへのビッグディールとして、にぎやかな発表がなされるだろう。

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東南アジアの決済ソリューションは、これからもホットなエリア

IMJ Investment Partners は最近、フィリピンの Ayannah の決済プラットフォームに投資した。IMJ の堀口氏によれば、フィリピンの国内外の決済需要は6.5兆円に上る。フィリピンは国外への出稼ぎ労働者が多く、フィリピン国内に居る家族への送金需要が大きいためだ。興味深いことに、Ayannah は決済プラットフォームとして域を越え、最近ではモノを送ったりするEコマースの機能も持ち始めているとのことだ。

しかし、ホットな領域は、投資家にとって別の悩ましい問題をもたらしている。

プリペイド決済の領域は面白いと思っていて、結構見ている。しかし、決済のスタートアップというのは概してバリュエーションが高く、なかなか手を出すことができない。(GREE Ventures 堤氏)

私の感覚では、シードのスタートアップのバリュエーションで10億円、アーリーステージで20〜30億円とか。この1年間くらいで、すごく高くなったように思う。(グローバル・ブレイン 百合本氏)

インドネシアでは、エンジニアの人件費も高くなった。日本円で、大学の新卒で月給2万円くらいなのに、エンジニアは20万円くらい。したがって、VC からの調達金額も上げないといけない、という状況が起きている。(East Ventures 衛藤氏)

数年前までは、そもそも東南アジアに投資家が少なかった。しかし、投資家が増えたことで、投資金額や案件が増え、結果的にバリュエーションが上がっている。これは市場経済においては必然的だが、刻々と変化する市場動向を見極めながら、オフショアや開発拠点の移転などでバーンレートを圧縮するような工夫が、起業家にも求められるかもしれない。

高まるヨーロッパの投資家のプレゼンス

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モデレータを務めた、Infinity Venture Partners の田中章雄氏。

東南アジアでは、日本からのスタートアップへの投資が増える一方で、ヨーロッパ勢の隆盛も甚だしい。その代表格は Rocket Internet だろう。Rocket Internet が多額のバリュエーションをつけて大きなディールを進める中で、日本の投資家も影響を受けているのだろうか。

田中氏のこの質問に、確かにインパクトはあるものの、人の流入が増えているという点では Rocket Internet のような動きも、歓迎されるべきだろうするのが、パネリスト達の共通する見解だった。IMJ の堀口氏は最後にこう付け加えた。

日本のVC が Rocket Internet に勝てるかどうかそれはわからないが、彼らを経由してヨーロッパのたくさんの人脈が東南アジアに入って来ている。我々も東南アジアで投資をやっている以上は、どこかで日本の企業や経済にも役に立ちたいと思っている。しかし、このままだと、日本企業が負けてしまうよ、と言いたい。もっと早く来て、速く動かないと…。(IMJ 堀口氏)

日本の投資家に残された、最後のフロンティアとしての東南アジアは2013年まで。2014年になると、欧米の投資家が東南アジアの魅力に気づいて入って来るよ、というのは、これまでにも筆者が各所で投資家から聞いた見解だ。

深夜特急はもう発車している。東南アジアのスタートアップへの投資をお考えの皆様は、お乗り遅れのごさいませんように。

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