総額15億円の資金調達を実施したマネーフォワード、魅力的な人材が集まる秘訣とは

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個人の資産管理および小規模事業者の会計サービスを展開するマネーフォワードは12月19日、複数の事業会社および既存株主に対して第三者割当増資を実施したと発表した。

調達した資金は総額約15億円で、割当先となるのはジャフコ、クレディセゾン、ソースネクスト、三井住友海上キャピタル、電通デジタル・ホールディングス、GMO VenturePartners(以下、GMO VP)の6社。払い込み日やそれぞれに割り当てた株式の割合などの詳細は非公開。

また、これに合わせてマネーフォワードの小規模事業者向け給与計算サービス「MFクラウド給与」を2015年3月下旬に提供開始することも発表している。マネーフォワードが提供する事業者向け会計サービスには「MF クラウド会計・確定申告」と「MF クラウド請求書」があり、これで3つめのタイトルとなる。

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MFクラウド給与は基本的な給与計算、ウェブ給与明細などの機能を提供し、従業員や給与担当者、社労士、税理士などのコミュニケーションをウェブ上で完結する世界観を目指すとしている。

事業会社との積極的なパートナーシップ

巨額の調達もさることながら、注目したいのはやはり割当先となった事業会社だ。特に1000万人のカード会員を保有するクレディセゾン、パッケージ販売の流通に強いソースネクスト、広告まわりでは電通、そしてIT系企業に幅広く顧客基盤を持つGMOグループからの調達には事業提携に近い思惑があるという。丁度、クラウドソーシングのランサーズが先日の資金調達で取った戦略とよく似ている。資金も重要だが、同時に事業的なシナジーを重要視する「一挙両得」タイプだ。

マネーフォワード代表取締役の辻庸介氏はこうインタビューに答えた。

「プロダクトをしっかりつくり、よい人にも入ってもらって収益を上げる。こういった基本的な事業構造を作らないと永続性が生まれません。2000年のITバブルのような時代もありましたし、確かによい環境で資金調達をすることは大切なことだと思います。ただ、それでも早く黒字化できる体質に持っていくことも同時に大切と考えているのです。事業会社さんに入ってもらい、しっかりと販売チャネルを拡大させることは大変重要なポイントでした」。

現在、個人の資産管理サービスとしての保有会員は180万人、Google Playの「2014 年ベストアプリ」に選出されるなど、サービスの第三者評価は高い。

注目したいのがこのプロダクトを支える力強い人材たちだ。実はここ数カ月、マネーフォワードには有力な人たちが多く集まっているという。

マネーフォワード人材獲得の秘密

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マネーフォワード代表取締役の辻庸介氏

大手金融機関、メジャーIT関連企業など、私が拝見させてもらったリストには「なぜスタートアップに?」と思えるキャリアを持つ人々が並ぶ。辻氏の説明によれば、中には移籍することで年収が大きく落ち込む(といっても前職が一千万円単位の方だが)ような人も混じっているという。そうやって現在、マネーフォワードは約50名の規模に拡大し、その約7割がエンジニアで構成されている。

彼らを魅了する理由のひとつはやはりサービスの目指す方向性だ。辻氏の話によれば、ある金融機関出身者はお金に関する情報格差をなくしたい、そういう思いがあったのだそうだ。金融のプロとして、個人にお金のことをもっと知ってもらいたい、マネーフォワードには単なる便利ツールに終わらない、もう少し大きなプラットフォームとしての存在感がある。

ビジョンに共鳴して集まる人材というのは往々にして経営幹部クラスだが、お金(給与)についてはあまり問題にしない場合が多い。やはり大きい絵を描くことはよい人を惹きつけることにつながるのだなと再認識した。

もうひとつはプロダクトによって恩恵を受ける範囲だろう。ある開発者の方は「日常で使われるサービスをやりたい」と考えてこのマネーフォワードに参加したという。制作や開発をする人間として生み出した製品を「世に出す作品」と思えるか、それとも単なる作業と考えるかは大きな分岐点になる。

一方で現実的な問題もある。特に家族を抱えるような人にとって、ある程度安定した職場というのは重要なポイントだからだ。辻氏もまだ投資フェーズなので、決して給与を無駄に上げることはできないという。この点について辻氏はこういう方法で採用時にコンセンサスを取っているという。

「面接時には能力やチームプレイ、ビジョンへの共鳴といったポイントを見させてもらってます。単に能力が高いだけではやはり難しく、土曜日などの日にも来てもらって社内の人たちと実際に仕事をしてもらったり、そういう具体的な方法で馴染んでもらったりしてます。お互いの期待値を合わせることが大切なのではないでしょうか」(辻氏)。

またエンジニアのマネジメントに外部から元gumi、AWSエバンジェリスト堀内康弘氏を技術顧問に招聘するなど、積極的に人に関する調整ごとを仕組み化しようとしている点も見逃せない。

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マネーフォワード技術顧問に就任した堀内康弘氏

マネーフォワードでは他のスタートアップと比較して珍しく、30人ほどの体制時点で既に人事専門の担当者を置いている。通常、この規模だと代表や役員が兼任することが多いのだが、辻氏はとにかく人が重要であり、それだけを考える専任が必要と経営陣を説得して採用したのだという。

マネーフォワードは比較的ビジネスモデルがシンプルでわかりやすい。どこまで掘れば金脈に当たるのかわからない本当の冒険ビジネスとは違った、ある種手堅さも、人々を惹きつける要因のひとつなのではないかなと感じている。

とにかくスタートアップのような浮き沈みの激しい場所に、優秀な人を巻き込むのは本当に難しい。誰でも使えるセオリーのようなものがないだけに、三者三様、それぞれのプロダクト、ビジネスモデルに合わせた人の獲得方法を考える必要があるが、今回の辻氏の話などを総合して次の三つがポイントになるのではないかと考えた。

  • 1:優秀な人を次の世界に誘う世界観、ビジョン
  • 2:開発者が手がけたくなるプロダクトの魅力
  • 3:未来がみえるビジネスモデルと社内管理体制

こうやってみるとそんな夢のような話はそうそうなさそうだが、これを組み立てるのがスタートアップ、優れた起業家の条件なのだろう。

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