500 Startupsマネージング・パートナーKhailee Ng氏が語る、日本の起業家・投資家に期待すること

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左から:500 Startup マネージング・パートナー Khailee Ng 氏と、ドリームインキュベータのビジネス・プロデューサ Hendry Pratama 氏

500 Startups のマネージング・パートナー Khailee Ng は15歳のとき、手書きの HTML とノートパッドでウェブサイトの構築方法を学んだ。当時、彼はウェブサイトを持たない企業に向けた新聞広告を目にして、自らもそのような企業に向けたウェブサイトを構築するようになった。やがて彼はビジネスを学び、学校卒業後は経営コンサル会社を経て、あるスタートアップに就職することを決めた。

Khailee Ng は当初、Web2.0 の時代に MindValley.com という企業で仕事をしていた。MindValley は急成長し、Khailee Ng が MindValley を離れる頃には、年間1,000万ドルを売り上げるまでになっていた。その後、Khailee はアジアのインターネットの流星に焦点を当て、ニュース会社 SAYS.com とグループ購入企業 Groupmore を設立した。SAYS.comREV Asia を上場させる過程で Catcha Group に買収され、Groupsmore は Groupon に買収された

Khailee Ng は当初、500 Startups のインキュベーション・プログラム第5期で、500 Startups の最初の EIR(常駐起業家、Entrepreneurs in Residence)として招かれた。当時、500 Startups に居た起業家は、65%を海外勢(アメリカ国外)が占めており、国際的なメンターが求められていた。この機会を通じて、Khailee Ng は、起業家の事業成長をサポートしたいという、自らのパッションを自覚するようになった。その後、Khailee Ng は東南アジアに特化した 500 Startups のファンド (500 Durians) を組成した。現在では、彼は 500 Startups にマネージング・パートナーとしてかかわり、アジア以外の国々や地域に対してもファンド組成を支援したいと考えている。

500 Startups のビジョンは、シリコンバレーの起業家が持つのと同じ事業機会や市場アクセスを、世界中のすべての起業家に提供することだ。有力なベンチャーパートナー、投資家、フェロー起業家のネットワークとともに、グローバルなネットワークの構築に邁進している。これまでに40カ国850社のスタートアップを支援しており、5年以内にはその数が1,000社に迫る勢いだ。5ヶ月間で1,000社を支援するというのはどうだろう? それは、500 Startup にとって次なる挑戦だ。ドリームインキュベータ(東証:4310)の東南アジア担当ビジネス・プロデューサー Hendry Pratama 氏が、Khailee Ng 氏に彼の今後の計画について話を聞いた。

Pratama: 500 Startups で Khailee Ng が優先しているのは、どのようなことでしょうか。

今でも、私は東南アジアにフォーカスしている。その一つの理由は、500 Startups のパートナーや起業家に対して責任があるからだ。もう一つの理由は、東南アジアは巨大な事業機会のある成長市場であり、500 Startups はそこに投資できるユニークなポジションにいるから。東南アジアがまず第一、そして、他の地域のビークルを支援する 500 Startups の立場で、その戦略に時間を使うようにしている。

Pratama: もし国単位で言えば、どの国に最もフォーカスしているでしょうか。

スタートアップは世界中のどこからでもやって来れるし、東南アジアのどの市場にもサービスを提供でいる。国ごとの可能性というのも考えているが、むしろ、成長スピードの速いビジネスにフォーカスしている。成長スピードが速いかどうかは、私がスタートアップに最初の小切手を書いてから、次にそのスタートアップがいつ資金調達するかでわかる。最低でも3〜5倍に成長してほしい。その力があるスタートアップには投資をしたい。

敢えて国を挙げるなら、タイには高い価値と可能性を感じている。したがって、私の現在のポートフォリオは、概ね30%くらいがタイ国内だ。シンガポールのスタートアップにも多く投資している。フィリピン、マレーシア、インドネシアへの投資割合はほぼ同じくらいで、ベトナムのスタートアップにはあまり投資していない。今後は、インドネシアへの投資を増やそうと思っている。

Pratama: つまり、地理的要因では関係なく、事業分野にフォーカスしてスタートアップを探しているというわけですね。

そうだ。私は東南アジアを分野や国を区切って考えることには懐疑的だが、自分が投資したビジネスのリターンには確信がある。私にとって、リターンをもたらすのは分野や国や市場規模だけはなく、それに加えて、今後参入しようとするビジネスのバリュエーション、エグジット手段の多様性、急激に成長するプロダクトの性質の組み合わせだ。そうやって、投資先のスタートアップを選ぶようにしている。

Pratama: 興味のある市場トレンドは何でしょう。

物事を考える上でトレンドは手っ取り早い説明だが、(出資者という)他の人が持つお金を扱うのに、手っ取り早いビジネスをするわけにはいかない。微妙な違いに注意深く神経を尖らせ、投資を進めてゆくより仕方がない。

トレンドに関して言えば、私は投資に値するスタートアップを見つけられる、バリューの高い分野について考えている。最近、高いバリューが見つけられるとしたら、それは、中小企業から成長率の高いテックスタートアップへと変遷していることだろう。技術の浸透が速いことを考えれば、こういった中小企業は急速に成長できる可能性がある。近代的なテックの考え方を取り入れ、それを従来のビジネスに適用した中小企業数社に出資している。

他に考えているのは、私が投資している分野の進化だ。マーケットプレイスやEコマースに関して言えば、新興市場では、まず強力な何でも扱うようなマーケットプレースで始まり、その後、その上に扱う商品分野別のバーティカルなマーケットプレイスが築かれていく。バーティカルなマーケットプレイスの次に来るのが、価値の進化を見出すサービスレイヤーだ。何でもマーケットプレイス、バーティカルなマーケットプレイス、サービスレイヤーへの変化によってもらされるのは、価値の増大と増えた価値を届ける力だ。

このようなことを考えて東南アジアの各市場を見ながら、私は、進化のどのステージのどの分野に投資するかを決めている。投資をする市場それぞれについて、進化のどのタイミングにあるかを非常に気にしている。

Pratama: タイムマシン経営についても見ておられると思います。アメリカで成功していて、後にアジアで成功するようなビジネスですね。

私は概してタイムマシン経営の考え方が好きだが、そのニュアンスには非常に気をつけるようにしている。タイムマシン経営は2つの観点から分析する必要がある。一つは、問題点の整理。市場特有の問題点を探る必要がある。一つ例を挙げよう。金融比較サイトの iMoney に投資したとき、私はこのビジネスモデルが東南アジアに存在しない理由を専門家に尋ねたことがある。彼女は、規制の厳しい新興市場においては、たいていの金融機関が同じルールに従わねばならず、金融商品はすべて同じようなものになってしまうので、比較する必要がないのだと説明した。

つまり、東南アジアには金融商品を比較しなければならないような、問題点は存在しなかった。しかし今日では、東南アジア各国は金融市場の規制を緩和し始めたので、金融商品には大きな混乱が生じるだろう。これこそ、iMoney が東南アジアに参入するには完璧なタイミングと言える。

他にあり得るシナリオとしては、問題点は存在するのだが、それを解決する方法が東南アジアでは、アメリカやイギリスと異なるケースだ。例えば、Eコマースで言えば、東南アジアの人々はクレジットカードを使いたがらず、商品を代金着払で求めたがる。だからと言って、東南アジアはクレジットカード支払ができないから、Eコマースに対応できない地域だと言えるか? いや、そうではない。他の解決方法を使えばいいだけだ。ロジスティクスに関しても同じことが言える。東南アジアのEコマース企業には、自前の流通網を構築するところが多い。つまり、問題点が存在する一方で、市場にあわせて異なる解決方法が求められることがあるわけだ。

Pratama: ビジネスを牽引するという観点で、日本については、どのように見ていますか。

私の世代(現在30歳)は、日本のビデオゲームやマンガを通して、日本文化の影響を強く受けている。したがって、私の世代や地域の起業家がビジネスをする上では、日本に文化的なアドバンテージがある。もちろん、日本は誰よりも、世界のあらゆる文化とのビジネスで成功してきたが、継続的に成長を続け文化的に受け入れられることがスタートアップ界においては重要だ。我々は、世界をつなぐトレンドを受け入れ、それに対して進化しなければならない。我々はトレンドを吸収し、適応し、素早く多くの橋をかけなければならないのだ。

賢明にも、多くの日本の投資家が東南アジアにやってきている。グローバル/ローカルのパートナーを持つ投資家もいる。このような動きは、橋をかけるためのステップだ。

Pratama: 日本のスタートアップでは、どんな会社が好きですか? 以前、ユーザベースについて話されていましたよね。

ユーザベースは、いい会社だ。私の好きな会社だ。もっと早いうちに調べ始めればよかったと後悔している。リクルートも尊敬している。2011年リクルートを訪問したとき、同社の話に感銘を受けた。かつては大きな負債を抱えていたのに、現在では100億ドル以上の売上を上げている。多くの企業内起業家を生み出し、大きな起業組織へと生まれ変わったからだ。

東南アジアなどの国々の企業を見ていると、その多くはスタートアップに投資をし始めたところだが、日本の企業はその数歩先を行っている。伊藤忠や電通のような日本企業の先進ぶりには敬服している。彼らの活動は目立ちはしないが非常に先進的だ。伊藤忠や電通は 500 Startups にも出資している。彼らと仕事してみると、彼らは未来がどこにあって、そこにどうやってたどり着こうとしているか、理解していることがわかった。彼らはシリコンバレーと日本をつなぐべく、500 Startups をはじめとする国際的な組織と協業している。

Pratama: ドリームインキュベータについては、どう思いますか。ドリームインキュベータには、どのような役割を期待しますか。

多くの企業にとって、物事に高い確実性を求めることは、同時に将来の可能性を受け入れることから遠ざけてしまう。しかし、ドリュームインキュベータは異なる。ドリームインキュベータのモデルには柔軟性がある。コンサルティング・サービスを活用し、大企業が抱える問題を解決し、投資もし、新しいビジネスも共に創造している。

少し前、ビジネス書作家の Tom Peters が著書「Re-Imagine!」でプロフェッショナル・サービス企業の考え方について語っていたが、ドリュームインキュベータのビジョンはそれに似ていると思う。ドリームインキュベータは、新しいビジネス機会の出現にあわせ進化している。新しい事業機会が生まれれば、それがオープンにされる。それがドリームインキュベータがやり方だ。この方法には非常に感銘を受けている。

以前からある経営コンサルティング会社の多くは、依然として、この進化に取り組んでいる。産業としての経営コンサルティングは、もはや10〜20年前ほど成長著しい産業ではない。つまり彼らは次の成長活路を見出す必要があり、ドリームインキュベータがそれを見出せていることは賞賛に値する。

私の人生観は、ドリームインキュベータに似ている。昨日を構成していたものは、明日の価値観を決めるものにはならないと思っている。だからこそ、投資にはより柔軟性が必要なのだ。

加えて言えば、ドリームインキュベータは、経営コンサルティングのルールを変えようとしている。500 Startups は、もはやベンチャーキャピタルとは思われないくらいに、ベンチャーキャピタルのルールを変えようとしている。

昔ながらのベンチャーキャピタルがやっていたのは、株の優良銘柄を選ぶような方法だ。業績好調な企業を見つけ、その企業がよりうまくビジネスをしていくのを望むというもの。一方、我々はより厳しい条件で選んだ株価指標のような存在だ。我々はリスクについての考え方を多様化し分散する。知識やネットワークに限界のある、一つか二つのベンチャーパートナーに依存するのとは対極的に、参加するすべてのスタートアップのネットワークの中で、サポート体制を築いている。したがって、私は 500 Startups とドリームインキュベータが世界観を共有できると考えている。

【via e27】@E27sg

【原文】

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