ハードウェア「Listnr」の開発からオフィス空間まで手掛けるパラレルアントレプレナー江原理恵さんにインタビュー

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パラレルアントレプレナー 江原理恵さん
パラレルアントレプレナー 江原理恵さん

海外で新しく誰かに出会って“What do you do?”と聞かれたら、私の場合はI’m a tech writer”と答えるだけでいたってシンプル。この質問に彼女はどう答えるんだろう?と気になるのが、江原理恵さんです。理恵さんを知ったきっかけは、彼女がクラウドファンディングでニューヨークへの取材プロジェクトの資金調達をしていた時でした。

最近では、新たに「Listnr」というリスニング・デバイスの開発にも取り組むなど、ボタニカル・デザイナーという職業から、今ではITにまでどんどんデザインの幅を広げる理恵さん。ニューヨークのスタートアップ2社で3ヶ月間インターンをした話、Listnrの開発話まで伺ってきました。

ハード開発からオフィス空間まで手掛けるパラレルアントレプレナー

ー理恵さんって、自己紹介する時にご自身がやっていることをなんて説明してるんですか?謎です(笑)。

最近は、パラレルアントレプレナーですって言っていますね。社長をやっているのは一社ですけど、分野も違う複数のプロジェクトにオーナーシップを持って関わっているから。マネージメントとか採用とかは得意じゃないけれど、昔から作ることが好きで。だから、作ることにフォーカスする形でプロジェクトに参加しています。

ー具体的に今どんなことに取り組んでいるのか聞かせてください。

最近は、「Listnr」というリスニング・デバイスを開発しています。私は主にプロダクトとマーケティングを担当しています。他には、「Picsee(ピクシー)」というビジュアルコミュニケーションアプリのコミュニティディレクターをやっていたり、ソーシャルギフトサービスの「SPOTLIGHTS」の商品開発をしたり。あとは、SmartNewsのオフィスの空間をデザインする仕事もしています。もともとボタニカル・デザイナーですけど、花を越えてどんどんデザインの幅が広がっている感じです。

ーどんな風にしたら、そんな風に幅広い種類のお仕事ができるようになるんでしょうか。

どれも、もともと近いコミュニティから発生したプロジェクトです。投資家で現在スマートニュースの会長でもある鈴木健さんが、2011年年末に渋谷の桜ヶ丘に投資先を集めたシェアオフィスを作ったんです。その1つが私もお手伝いするSPOTLIGHTSを開発するスパイスライフで私もオフィスに入らせてもらうことになって。特に健さんの投資先はエンジニアリングが強い会社が多く、それ意外の部分をやる人が足りなくて困っていました。色々手伝っているうちにプロジェクトの幅が広がって行った感じです。

ーボタニカルデザイナーからIT業界ってだいぶ大きな転身だと思うんですが、そもそもITに興味を持ったきっかけは何だったんでしょう?

起業した翌年に、青山に花の店舗兼アトリエをオープンしました。でも、結局うまくいかず3年半で閉店することになりました。ECサイトは外注で自分は何もできなかったので、まずは勉強しようとひたすらいろんなネットサービスを使うようになりました。ちょうどその頃、mixiなどのSNS上のゲームが流行り出して、ソーシャルゲームの形にすごく衝撃を受けました。具体的には「サンシャイン牧場」なんですけど、みんなゲームを遊びながら花を育てるうちに花の名前を自然に覚えて行くんですよね。リアルではなかなか覚えてもらえない花の名前を、インターネットを使えばこんな風に伝えられるのかって。

ーそれまでITとはあまり縁がなかったのに戸惑いはなかったですか?

最初、ネット関連の仕事は、専門的な知識や経験のある人にしかできないもので、自分には関係ないものだと思い込んでいました。でも、使うことは大好きだったので、すごく興味はありました。親友の一人が現在iemoを運営するIT起業家である村田マリちゃんだったこともあって、彼女が友人を紹介してくれたりして少しずつITが身近なものに変わっていきました。また、insproutの三根さんが店舗を閉めて暇だった時に色々手伝わせてくれたことで、初めて作ることを経験できたり。まわりに恵まれていたんだと思います。

クラウドファンディングで2度のジャーナリストプロジェクト

NYのShoptiquesのオフィス
NYのShoptiquesのオフィス

ー理恵さんと言えば、クラウドファンディングを使ってNYに取材に行っていますよね。振り返ってどうでしたか?

最初にクラウドファンディングで必要な資金を調達した時は、2週間くらいの掲載期間に15万を集めるという目標を立てました。仕事に直接関係あるかというとそうではなくて、趣味の延長だったし、皆さんにとってどれくらい魅力的なプロジェクトかもわからなかったから。航空券代だけでも集まれば十分だと思ってやってみたところ、初日で15万を達成して、結局2週間で170万円近い資金が集まりました。それで、現地のスタートアップ30社ほどに会って話を聞くことができました。とにかく初めてで大変でしたが、この時出会って良くしてくれた人達は自分にとって今も大事な存在です。

ーその後、2014年の2回目のプロジェクトでは、実際に現地のスタートアップでインターンをされていましたよね。

そうです。取材だとどうしても聞けることが限られてしまう。もっと深く入っていきたいし、実態を知りたいと思ったので2社でインターンしました。内部に入っていって、どんな生活をしているの?何を考えているの?というところから知りたいと思って。週3回はShoptiquesというスタートアップ、残り2日はto.beというスタートアップで働きました。to.beは、デスクを借りる代わりに少しお手伝いをするという感じだったので取材活動と両立できました。

ーインターンをした2社のスタートアップはどんなところでした?

規模はそれぞれ14人と4人。業種もマーケットプレイス系のEコマースと、ウェブ上で画像や動画を集めてインターネットのコラージュを作れるサービスと全く違いました。売ることが中心の会社と、エンジニアリングを主体とする会社の違いと見ることもできます。前者はチームも女性ばかりだし、後者は男性が中心。ユーザー層も、Eコマースは自立した30代女性がターゲットで、後者は10代のデジタルネイティブでクリエイティブな子たちが対象でした。ある意味、対照的ですよね。

ー実際に中で働いてみてどんなことに驚きましたか?

「Shoptiques」というスタートアップは、私がインターンをした90日間がちょうど「総取引高を伸ばす」強化期間でした。社内がすごく活気づいていて、参加するブティックやトラフィックを増やすあらゆる施策をとっていて。次々に出て来る問題を、すごいスピードであっという間に解決していくんです。若い女性が朝8時半には出社して、ランチも外に行かずに働き詰め。サポートは、専任が一人ずつしかいなかったので、いつでも電話に出られるように外出時はみんなイヤフォンをつけたまま行くんです。働かされているという感じは一切なくて、みんな自分事として責任を持って動いていて関心しました。

ーニューヨークのファッションスタートアップなら、インターンをしたい、働きたいという人が沢山いそう。やっぱり競争ってありました?

夏は学生さんも夏休みなのでインターンが多かったです。企業として、インターンの使い方が上手いなと思いました。アメリカならではなんでしょうけど、色んな国や人種の人を採用して、その延長線上にいる人もファンにしたりしてコミュニティを広げて行くんです。インターンでも、アウトプットが悪いと雑用にまわされるので、みんな必死です。おっしゃる通り、ニューヨークのファッションスタートアップで働きたい子は沢山いるし、人への評価も厳しいので気が抜けず緊張感がありました。

何事もギブアンドテイクの心構えが必要

Shoptiquesのチーム
Shoptiquesのチーム

ーここしばらくニューヨークのスタートアップを見て来て、どんな変化を感じますか?

最近になって、やっと2回目の起業ですという人が増えていると思います。まだまだ、ほとんどの人がその初めての起業にチャレンジしている最中です。例えば、2013年に設立された会社ですごい勢いで成長しているスタートアップに「Oscar」という健康保険の会社があります。そこのファウンダーは1回目の起業で失敗していて、そこから学んで2回目に起業しています。起業の数で見ると、2012年から2013年に数が一番増えたので、これからその結果が見えて来ると思います。

ー理恵さんのように夏休みなんかに海外でインターンするというのは、学生さんにとって現実的な選択肢でしょうか?どうすればそれが実現できますか?

会社によると思いますが、小規模の会社でそのサービスの熱心なユーザーだったりすると可能性があるかも。言葉に自信がなくても、コードが書けたり、グラフィックができれば採用してもらいやすいと思います。あとは、例えば、語学学習の「OKpanda」や「Noom」など日本市場向けにもプロダクトを展開しているところを狙うとか。

ーこの界隈には海外のスタートアップシーンを見てみたい人って多いと思うんですが、アドバイスを求められたりしないですか?

ありますね。ニューヨークに行くからスタートアップを紹介してくださいって。でも、スタートアップならどこでもいいっていうのはやめた方がいいです。私は自分が使っていて大好きなサービスにコンタクトをとって、そこから広がって最終的に30社くらいに会いました。ギブアンドテイクじゃないといい関係にはなれないですよね。例えば、相手のサービスをすごく使い込んで意見をフィードバックしてもいいし、日本の市場について色々調べていって教えてあげるとか。あと、ちょっとしたお土産を持って行くのはおすすめです(笑)。

ーニューヨークでおすすめのイベントやミートアップがあれば聞きたいです。

イベントやミートアップは、毎日のように色々開催されているので、MeetupやEventbriteなどのイベントサイトでTech系のカテゴリーで検索してみるといいと思います。女性だけに絞ったUX Happy HourはGoogleがホストしていて無料で参加できますし、General Assemblyはスタートアップに特化した単発のワークショップも色々開催していておすすめです。

ハードは技術以上にどう使うかの切り口が大切

リスニング・デバイス「Listnr」
リスニング・デバイス「Listnr」

ー理恵さんの直近のお仕事の話を聞かせてください。Listnrのプロジェクトは、どうやって始まったんですか?

一昨年くらいに、ユーザーローカルの伊藤さんとハードって面白いよねっていう話で盛り上がって、人が近づけば近づくほど蛍が強く光る浴衣を一緒に作りました。また何か作りたいと思っていたのと、今回ボストンで圧倒的なロボティックスを目の当たりにしてアメリカから帰国した直後にオープンしたばかりのDMM.makeに遊びに行きました。その時に、コミュニケーションをテーマにしたハードを作りたいという話をしたことがきっかけです。

ーいきなりハードを作るってなんか構えちゃう感じがしますけど、実際はどうでした?

そうなんです。で、「ハードが主体のものなんてやったことがないから、できないと思います」って伝えたら、Cerevoの岩佐さんが「ハードをどう使えるかの切り口の方が大切だから、全然できると思いますよ」とおっしゃってくださって。そもそもハードはやる人がいないし、これからハードウェアは絶対に来る。だから、このタイミングでぜひやろう!といっきに話が進みました。その後、3週間くらいでListnrを仕上げました。

ーコミュニケーションを軸にしたハードというと色々ありえると思うんですが、なぜListerだったんでしょう。

パナソニックが赤ちゃんの感情を分析して通知できる技術を持っていて、その技術ありきで始まりました。どんな形でプロダクトに落とし込めば、沢山の人が使ってくれるか。赤ちゃんの言葉がわかったり、感情分析できたりするクラウド上の人間の第二の耳みたいな使い方ができたら面白いんじゃないかって。人が理解できる音ってまだまだ限られるので、それをインターネットサービスやIoTのデバイスと繋げたらどうだろうという発想から始まりました。

短期に結果を出すというお花とITの共通点

ーCESに出展して、その初日と同時にKickstarterのプロジェクトもローンチしていますが、反響は?

CESでは、色んな人がブースに立ち寄ってくれて、デバイス単体のデザインを高く評価してもらいました。ブースに来る人の波に流れがあるだろうと思って合間に休もうと思っていたら、次々に人が来て一切休めなかったくらいです(笑)。ブースにプロダクトの大きな写真を使ったり、ビデオを流したりして目に付く工夫も施しました。1,000部 用意したパンフレットも全部配りました。

ーCESに出展して良かったなと思うことはどんなことですか。

ローンチ前のプロダクトですが、CESのような場所なら有識者のフィードバックが得られることですね。例えば、使い方の提案、プライバシーの考え方、似たようなプロダクトにこれがあるといった情報まで色々教えてもらうことができました。情報収集とデバッグ、アドバイスみたいなものが同時に集められたのは有益でした。

ー結局、理恵さんが何者なのかというと、ご自身が使われている「パラレルアントレプレナー」なのかなという感じがするんですが、新しいプロジェクトに参加するかどうかの判断基準は?

身体の拡張に影響するか、コミュニケーションに関わるものに限定して、かつコンフリクトしないことですね。一見するとバラバラに見えるかもしれませんが、自分なりに共通点があって、内容が違っても頭の使い方は同じような気がしています。もしかしたら、お花の仕事をやってきたことが活きているのかも。お花ってひとつひとつオーダーメイドで、すごいスピードで納品するし、お花の仕入れルートも使う業者さんも違って。それをすごい数こなしてきたので、短期にいろんなタイプなものを作って出すみたいなことが染み付いているのかもしれません。

ー最後に、理恵さん個人として、今後どんなことを目指すのかを聞かせてください。

まずの目標は3月8日までに、ListnrのKickstarterプロジェクトの目標金額を達成することです。Listnrには様々な可能性があるので、それを現実にしていきたい。将来的にはアメリカに移住して現地で会社を作りたいと思っています。ファッション系のプロジェクトの構想もあるので、それを向こうで形にしたいなと。関わるプロジェクトにはきちんとオーナーシップを持って参加して、立ち上げが終わったら体制を整えて次の人にバトンタッチしていく。それが理想の形です。そうすることで、常に新しく何かを作ることに挑戦していきたいです。

ー今後のチャレンジにも期待しています。今日はどうもありがとうございました。

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