スタートアップの苦しみとリスクを知るために海外に来たーー大日本印刷の北米チャレンジ【前編】

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日本を代表する大企業の北米市場への挑戦が始まった。2015年1月15日(米国時間)、大日本印刷はモバイルQ&AアプリであるSnapAskをローンチした。

SnapAskでは、モバイルで撮った写真を使って、2択のアンケートを行うことが出来る。他の人が投稿したアンケートに答えることも可能。また、自分が投稿したアンケートの回答において、どんな年齢・性別の人がどちらを好んだかというデータが取れる。

特徴は2つ。1つは10秒で投稿できて、30秒で回答が返ってくるというスピード。もう1つはデパートやコンビニ、電気屋さんなど、日常品を選ぶ際に迷ったら使うよう、利用シーンが定義されている点。現在はiOS向け限定でリリースされている。

今回取材した平野歩氏がサンフランシスコを拠点にビジネス・ディベロップメントを担当し、開発チームは日本にいる。昨年の夏頃から企画が始まっており、約6ヶ月で企画からローンチまで漕ぎ着けた。

さて、ではなぜ大日本印刷がQ&Aアンケートアプリを作ったのだろうか?

この疑問の答えは、大日本印刷という会社の生い立ちを知ることで分かる。

キーワードは企業と消費者をつなぐコミュニケーション

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大日本印刷の歴史は長く、始まりは1800年代後期から。創業当初より常に考えの基礎にあるのはコミュニケーションであるとのこと。

大日本印刷はその名の通り、書籍や雑誌の印刷物を扱っている。しかし、時代が進むに連れて紙からウェブやモバイルへと媒体も変わってきた。こうした時代に「コミュニケーション」というコンセプトを軸に、紙からウェブまで幅広く事業展開しているのが同社である。

この流れを受けて今回開発されたのがSnapAskだ。

利用目的からしたら、コンシューマー向けのアプリ。ところが、このアプリのもう1つの目的は企業と消費者を結びつけるコミュニケーション手段となることである。

SnapAskで集められた消費者データは、小売業者にビックデータとして渡され、広告展開や在庫管理に活かされる。つまり最終的には企業側は消費者ニーズに合ったものを提供でき、消費者は自分の欲しているものを手にすることが出来るという具合だ。

これは企業側と消費者側が双方向でコミュニケーションしなければ回らない仕組みだが、SnapAskがこの役割を果たしていることになる。

このように、「コミュニケーション」というキーワードが大日本印刷にとって重要な意味を成し、北米進出の原点ともなる考えとなっている。

「リスク」を知るためのプロダクトローンチ

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では何故、彼らはわざわざ人員を割いて北米進出したのだろうか。

サンフランシスコに来ている日系企業の多くは、北米スタートアップに出資して自社ビジネスと連携するという形をとるため、市場にわざわざプロダクトを投入すること自体に頭をかしげる人もいるかもしれない。

聞く限り、今回のSnapAskローンチも最終的に北米スタートアップに投資するための一貫らしいが、明らかに他企業とアプローチが違う。

「多くの日系企業はリサーチャーだけ米国に置き、新しいスタートアップ及びテクノロジー情報を本社に伝え、本社がその情報を基に投資を考えるということがメジャーなやり方です。しかしそれはあまり上手く行かないと思っています。やはりスタートアップの人達の気持ちがわからなかったり、プロダクトを開発していく工程がわからなければ投資活動は難しい。その点、苦労やプロセスを学んだ上で、将来的にスタートアップに接触していくというのが私達の方針です」(平野氏)。

一連のスタートアップのプロセスや現場の人の気持ちを知ることができれば、将来的に投資先を見分けるための目を肥やすことにもつながる。時間はかかるし、人員や資金も多大に掛かるが、私としてはこのやり方の方が賛同できる。

というのもの、日本のみならず中国、韓国の投資家に多いのだが、現地情報を知ったところで500StartupsやYコンビネータ出身のような箔のついたスタートアップにしか、結局のところ投資興味が湧かないのが常だ。

しかし、彼等のようなスタートアップが求めているのはビジネスがピンチに陥った時にでもアドバイスしてくれる頼もしいメンターのような投資家だ。この点は、リサーチだけをしている企業には真似できない。

また、「起業家はリスクを取れ」としばしば言われる。確かに創業当初から大きなリスクのある意思決定をするのがスタートアップだと言えるだろう。そんな起業家に、リスクを取ったことのない投資家が投資するというのは滑稽な話だ。

投資家の真髄は資金を提供するだけではないというのがスタートアップの共通認識。そのため、大日本印刷がSnapAskを通じて、スタートアップを理解しようとするアプローチは、現地スタートアップから望まれる投資家像に近づく最適なルートとなるとだろう。

競合との違いは3つ – 利用シーン、使いやすさ、写真

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UI/UXを見ると、同じくQ&Aアプリのaorbに似ている。私はこのアプリを見た瞬間思ったのだが、どうやら差別化されているようだ。ポイントは利用シーンから考えたところにある。

具体的な利用シーンは日常品を選び取っているところ。しかし一番の使い所であるスーパーで、投稿に時間のかかるアプリは好まれない。だからこそ、カメラを起動→2つの商品を撮影→投稿、の大まかに3つのプロセスしか踏まないように設計されている。

一方、北米ではQuoraがQ&Aサービスの代名詞のようになっている。また、ユーザー同士でチャットをしつつ相談するというサービスが増えている。こちらの人は写真で撮影するという動作が好きと語る平野氏だが、このようなテキスト形式のQ&Aサービスとの違いを出すために写真重視になっている。

課題点としてはターゲットユーザーの確保になりそうだ。同氏も述べていたが、ターゲットユーザーは、お店の中に入って商品を選び取る際に迷うような性格をしている人。このようなユーザーは、属性データではなくて、心理データを基に定義しないとわからない。言い換えれば、年齢や性別だけのデータだけでは、ポテンシャルユーザーにリーチする事は難しい。この点において、マーケティング戦略も高度なものが要求されると思う。

後編はこちら

情報開示:筆者はSnapAsk企画段階で行われたリサーチプロジェクトに携わっていました。

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