企業文化やチームの作り方を先輩女性起業家に学ぶーー「女性×起業」がテーマの「SoGal Summit」に400名が集結

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SoGal Summit 2015の公式ウェブサイト

3月28日(土)に開催された「SoGal Summit」に参加してきました。SoGalというのは、「SoCal」(Southern California)と女子を意味する「Gal」を組み合わせた造語。ロサンゼルスを中心とした南カリフォルニアの「女性×アントレプレナーシップ」をテーマにしたイベントです。

参加者の95%が女性を占めるSoGal Summit

南カリフォルニア大学で開催されたSoGal Summit
南カリフォルニア大学で開催されたSoGal Summit

開催場所である南カリフォルニア大学の講堂には、SoGal Summitに参加するために約400名が集まりました。USCは起業家の育成と排出に精力的な私立大学で、アントレプレナーシップにまつわる60を超える授業と、独自のインキュベータープログラムを運営しています。

米国の全ビジネスの30%を女性が所有していると言われるものの、ベンチャーキャピタルから出資を受けた企業のうち、女性CEOはわずか3%。SoGalをオーガナイズする Pocket (Yiqing) Sunさんは、「若い女性に自らの探究心やアイディアで世界を変えるための一歩を踏み出してほしい」という思いで、今回、初めてのリアルミートアップの開催に至りました。

「イベントの企画自体が私にとって初めての経験で、着手したのは1月中旬でした。周囲にはそれじゃ時間が足りないと言われたけれど、これも起業と同じで、とにかくチャレンジしてみようと思ったの。若いからこそ、周囲のみんなが成功を願って応援してくれるから」

男性が大半を占める一般的な起業イベントとは異なり、SoGalの参加者は95%が女性です。女性と一言で言ってもとても多様で、年齢、人種、起業経験などさまざまなバックグラウンドの人が集まっていました。私が参加した一部のトークの中から、スピーカーの言葉をいくつかピックアップしてご紹介します。

居心地が良くなり過ぎたら次に進むサイン

「Fireside chat」と題された最初のトークで登壇したのは、シリアルアントレプレナーのEva Hoさん。現在は、2500万ドルを調達し、初期ステージのデータや分析プラットフォームに特化して出資するSusa Venturesを創業しています。それ以前は、GoogleでYouTubeのマーケティング責任者、またロサンゼルスを拠点とする位置情報プロバチイダー「Factual」などを共同創業してきました。

彼女がGoogleを辞めたのは2008年のこと。ちょうどこれから動画が面白くなるタイミングでの決断でした。周囲からは、絶対に残った方がいい、これから動画は来るんだからと止められたそう。そんな反対の声を押し切って、彼女がGoogleから次のジャーニーに進んだ理由はシンプル。

「Googleに5年間いて、居心地が良くなり過ぎていたの。Evaという自分のブランドが、Googleという企業そのものになっていた。パーティに参加しても“Google girl”だったし、Evaって誰なんだっけって。心地良過ぎることで、直感的にこれは次に進むタイミングだと感じたわ」

Googleでそのまま働き続ければ、給与もいいし、キャリアとしても申し分がない。でも、環境に慣れ過ぎて、もはやエキサイティングには感じられなかった。キャリアへのアプローチの仕方は人それぞれですが、Evaさんは素直にその時の直感に従うことで節目節目の意思決定をしてきました。「自分をスケールさせるための最大の方法は?」と自ら問うことで進み、今の場所にたどり着いたと言います。

パネル:「アイディアはあるけれど、この後どうする?」

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「I Have an Idea, Now What?」の講義室

複数のパネルディスカッションが開催された中で私が参加したのは、「I Have an Idea, Now What?」(アイディアはあるけれど、この後どうする?)と題されたパネルディスカッション。

このパネルを選んだのは、以前から記事や友人の話などで耳にしていた「laurel & Wolf」のLeura Fineさんの名前をパネリストの中に見つけたから。その他のパネリストは、イギリス発の「Headspace」のディレクターを勤めるShona Mitchellさん、「USC Annenberg Innovation Lab」のErin Reilyさん、「Goldhirsh Foundation」のTara Rothさん、そしてモデレーターで「Stiletto Gal」のHillary Gadsbyさんの計5名。

皆さんがそれぞれ起業していたり、また若いスタートアップのメンターをやっていたりして、様々な経験から具体的な話が聞けて興味深かったです。メンターという存在の大切さ、ネットワーキングの重要性、チームや企業カルチャーの作り方、資金調達の最適なタイミングなどについて議論がされました。

名刺交換より、飛行機で隣り合わせた縁が勝る?

登壇したパネリスト
「I Have an Idea, Now What?」で登壇したパネリストたち

まずは、メンターとネットワーキングの大切さから。「とにかく沢山の人に話した方がいい。話すことで相手に色々質問されて、それに答えていくうちにアイディアや考え方が洗練されていくから」と話すErinさんに対して、Leuraさんは「聞くことが大切」だと指摘。ちなみにロサンゼルス拠点のlaurel & Wolfは、一律価格でインテリアデザイナーが部屋のインテリアデザインを提案してくれるもの。

「私自身がインテリアデザイナーだったけれど、テクノロジーの知識はゼロだった。だから、最初はテクノロジー業界の知り合い全員にメールやLinkedInなど思いつく限りの方法で連絡をして意見を聞いたわ。とにかく聞くことを大切にしたの。みんなのストーリーを聞くことで、サービスを構築するために必要なことを理解することができたから」

また、HeadspaceのShonaさんは、スタートアップの初期段階で見つけるべきは、どんな馬鹿な質問も恥ずかしがらずに聞ける相手を見つけることだと。シャイになることなく、「これについて教えて」と素直に聞ける、信頼できる人を周囲に集めることの重要性を指摘。

では、人とはどう出会うべきなのか。それなりの規模のスタートアップシーンがある都市なら、毎日何かしらのミートアップが開催されてるはず。こうしたネットワーキングイベントに参加することが一つ。でも、laurel & WolfのLeuraさんは、経験上、名刺交換よりもランダムな出会いの方が多くをもたらしてくれたと振り返ります。

「いかにもなネットワーキングの場ではなくて、例えば飛行機でたまたま隣に乗り合わせた人だったり、SXSWでUberを相乗りした人だったり、偶発的な出会いの方が活きているかもしれない。お互いに自然な状態で会っているから、「仕事は何してるの?」なんて具合に話が弾んで、より親身になってサポートしてくれる気がするわ。常に目を開いて、オープンであることが大切だと思う」

友人のパーティで出会い、意気投合した共同ファウンダー

Laurel & Wolfのウェブサイト
「laurel & Wolf」のウェブサイト

良いチームを作るには、超優秀な営業マンである必要があると話すLeuraさん。有能な人材に対して、「今の給与を半分にカットしてうちに来てほしい」と口説く必要があるのだから。同社は現在22名のチームで、そのうち17名が女性、5名が男性というテクノロジーを駆使する企業としては珍しい構成比率です。

Leuraさんが、共同ファウンダーのBrandon Kleinmanさんと出会ったのは、香港からたった1日だけロサンゼルスに来ていた友人の誕生日パーティでした。Leuraがサービスのアイディアを伝えると、「僕も長年いろいろな家具を買い足していくうちに、統一性のない部屋になっちゃって困っている」と共感してもらうことができ、まずはコーヒーでも飲むことに。

その前日、マーケティングを得意とする彼から、翌日のミーティングで話すべきトピックスが送られて来ました。Leuraはその内容一つ一つにコメントして早速フィードバックしたところ、Brandonさんに彼女の本気度が伝わり、翌日のコーヒー一杯は6時間の長丁場に。すごい勢いと情熱で自分のアイディアを力説する彼女のことを、彼は「トルネードのよう」と表現したんだとか。

同社の強みは、ファウンダーのLeuraさん自身がインテリアデザイナーであることで、デザイナーやサプライサイドの話がわかること。消費者には複数のデザイン案を一部屋299ドルからの一律の価格設定で提供し、この一連のプロセスをテクノロジーで合理化しています。「市場をすごく理解していたからこそ、このサービスをスピーディに形にすることができた」と振り返ります。

企業カルチャーは始動1日目から作られる

身体をジムで動かすように、頭のエクササイズを提案する「Headspace」
身体をジムで動かすように、頭のエクササイズを提案する「Headspace」

スタートアップを始めた初日から重要となる企業カルチャー。「私はサンフランシスコのスタートアップのようにビールと卓球テーブルは用意しないから、すごく意地悪なCEOかもしれない(笑)」と冗談を言いながら、Leuraさんは「オープンでまるで家族のようなチーム」を作ることを心掛けていると言います。

オフィススペースも、半分はまるで家のような作りでリビングルームやラウンジが。また、チームで一緒に身体を動かすことも忘れません。サルサダンスやトランポリンなど、初めてやることでちょっと普段の安心感の枠から踏み出すようなアクティビティを共有するためだとか。他にも、月2回、ユーザーが自社サイトを操作する模様をひたすら画面に写して一緒に見るなど様々なコラボレーションを育んでいます。

ファウンダーは、本当に自分の好き勝手に企業文化を作ることができると話すShonaさん。彼女が絶対的に大切にしているのは、失敗に対する寛容さ。

「自分で企業文化を定義して、それを自らが体現することが大切。失敗が恥ではない「no shame culture」にすること。メンバーが、失敗を恐れて提案することを怖がるような環境は絶対にダメだから」

またチームに迎え入れるべき人材について、USC Annenberg Innovation LabのErinさんは2つのことを大切にしているそう。

「まずは、自分より賢い人を採用すること。自分が相手をプッシュして最大限にチャレンジさせるのと同じように、相手にも自分に対して同じことをしてもらわなきゃお互いに成長できないでしょ。もう一つは、多様性のあるチームを作ること。自分が不得意な部分を認識して、その穴を埋められる人材を見つけることね」

お金以上のものをもたらす資金調達とは

KickstarterやIndiegogoといったクラウドファンディングが存在する今、アイディアの可能性やニーズを確認することがいつになく容易になりました。Taraさんは、だから最初はできる限りブートストラップするのがおすすめだと話します。その上で、サービスをスケールしていくタイミングになったら、その際にふさわしいパートナーを検討すればいい。

2015年2月にシリーズAで440万ドルを調達したlaurel & Wolf 。マネタイズのモデルがしっかり確立されている同社にとっての資金調達は、お金を調達する以外の意味がありました。彼女たちが調達したのは、「スマートマニー」。それぞれ専門分野を持つVCから調達することで、コネクションやネットワークを活かせると考えたから。そのため、ロサンゼルス、サンフランシスコ、ニューヨークと場所も様々、つまり強みも異なるVCから調達しています。お金より人で選ぶ資金調達でした。

Leuraさんがそうであるように、起業するなら自分自身が「Beyond passionate」である必要があると話すShonaさん。

「自分が超情熱的でなければ始まらないわ。まずは自分がフルコミットすること。新しく事業を始めるのに、もしライフスタイルが変わらないなら何かがおかしいはず。優雅な生活がしたいなら起業の道なんて選ぶべきじゃない」

Shonaさんの意見に対して、横で頭を大きく縦に振ってうなずくLeuraさん。彼女も資金調達をする前はブートストラップでlaurel & Wolfを立ち上げたため、その大変さを身を持って実感しています。

「最初の頃は、家賃を払うため、生活するための最低限の仕事はしなきゃいけないかもしれない。でも、それ以外のリソースは全てスタートアップに注ぐべきだわ。自分がビジネスを最優先しなければ、人も集まってこないもの」

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サンフランシスコから誕生するスタートアップが技術主導なら、ロサンゼルスから生まれるスタートアップは消費者主導かもしれません。そして自身も消費者であり、消費者とのコミュニケーションに長けた女性がより活躍しやすい土壌なのかも。

SoGal Summitは、ITに限らず、自分で何かを立ち上げたい女性を後押ししてくれるコミュニティだなと感じました。学生やその他の若い女性が、まだアイディアでしかないタイミングでそれを相談する相手がいて、相談に乗りたいと積極的に支援を申し出る起業経験を持った女性がいる。来年、また再来年とイベントに参加して、この女性起業家コミュニティが成長して行く姿を見守りたいと思います。

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