アトピーで悩む同じ境遇の人を助けたいという思いが動かすコミュニティ「untickle」、CEOの野村千代さんにインタビュー

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untickle(アンティクル)のCEO 野村千代さん
untickle(アンティクル)のCEO 野村千代さん

先日ピックアップ記事で取り上げたニュースによると、ユーザーがGoogleに入力する20件に1件の検索キーワードは健康関連にまつわるものなんだそう。信頼できる決まった行き先がないため、とりあえず検索してみる。運良く参考になる情報が見つかることもあれば、まったく見つからずに途方に暮れることもある。

昨年9月末にアプリを先行リリースし、今年2月にウェブ版として登場したのが「untickle(アンティクル)」です。アンティクルは、アトピー患者さんに特化して、前述のような課題を解決してくれる「みんなのアトピー対策共有サービス」。アトピーに悩む、または悩んだことのある当事者によるコラム記事が集まるメディアと、アトピーの人たちが情報交換ができるSNSです。

「アトピー患者さんは、日常のさまざまな場面で症状に悩まされています。例えば、手にアトピーの症状があると料理をする時に辛いんです。野菜を茹でている時に手がかゆくなったり、お皿を洗うと痛かったり。些細なことほどお医者さんは教えてくれなかったりするので、経験者が効果的だった対策などを共有する場になっています」

自分のアトピー症状に合った対策が探せないなんておかしい

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アンティクルを立ち上げた野村千代さんは、韓国と日本のハーフ。2010年に大学を卒業し、韓国の貿易ベンチャーやEコマースなどで事務や営業の仕事に就きました。ところが、2社ともアトピーが悪化してやむなく退職。企業で働くことが難しくなったため、その後は個人事業主として韓国スタートアップの日本ローカライズなどのコンサルティング事業を行ってきました。

個人事業主として活動していた2013年5月、またしてもアトピーが悪化して寝たきりに。当時は韓国にいましたが、日本に帰国して療養生活に入りました。アトピーによって生活を変えることを余儀なくされて来た野村さんは、今後のためにも改めて書籍やネットでアトピーについて勉強することに。ところが、情報が錯乱していて、その時の自分の症状にあった対策を見つけることすらできませんでした。

「こんなのおかしいと思いました。運が良ければたまたまいい情報に巡り会えるかもしれないけれど、運が悪ければどんなに必要な情報でも探し続けなければいけず、その間も苦しさは続きます。錯乱している情報を整理して、それを必要とする人にちゃんと届くようにしたいと思いました」

アトピーの症状が落ち着いてきた同年夏、アンティクルを立ち上げるための活動を開始。エンジニアでもデザイナーでもない野村さんは、まずはワードプレスの個人ブログで、自分が調べたアトピーに関する情報などを発信していくように。同じくアトピーで悩む人による訪問が徐々に増え、共感者が自らも記事を書いてくれるようになって今に至ります。

「まずはブログで発信することから始めて、その後、SMS主催の「さぽこら」というビジネスプランコンテストに声をかけてもらってアイディアをブラッシュアップしました。その後、Open Network LabのSeed Acceleratorのプログラムを経て、構想から1年くらいをかけてサービスのリリースに至りました」

強いオフラインのコミュニティをオンラインに

通常、新しいSNSを作ろうとすると、人をどう連れて来てどう盛り上げるのかが最初で最大の課題です。一方、アトピー患者さんに特化するアンティクルでは、野村さんも交流が深いという強いオフラインのコミュニティがオンラインに持ち込まれています。オフラインでもオンラインでも、「アトピーに悩む同じような境遇にいる人を助けてあげたい」という思いがユーザーを突き動かしています。

「これまでも、ミクシィコミュニティ、またTwitterでアトピーの情報を発信する専用アカウントを作って情報交換をしてきました。アンティクルならブログより簡単に自分の体験を共有できると、情報を投稿してくださる方が増えています。また、コミュニティ上でプロフィールとしても機能するアトピーカルテを使えば、部位や程度などから似た症状の人に届きやすくできやすいことも受け入れられています」

アンティクルを運営する上での最大のこだわりが、中立であること。アトピーの世界には、色々な派閥があると野村さんは話します。医師会が決める標準治療を選ぶ人もいれば、それに限界があると感じて新しい方法を率先して試す人、またアトピーには漢方が一番だという意見も。そんな様々な意見や対策に対して、アンティクルはあくまで中立な立場を取り、どこにも染まらないというのがポリシーです。

「私たちがアンティクルで実現したいのは、散乱する情報を整理することです。色んな意見があっていいと思いますし、特定の意見や治療法をすすめることは決してしません。色々な切り口で情報を整理してあげることで、アトピー患者さん一人ひとりの症状や状態に合わせて可能な選択肢を提示できることを目指しています」

コマース連動を視野に、まず目指すのはユーザー数1万人

運用開始から約半年が経つアンティクルですが、オンラインとオフラインでユーザーフィードバックを得ながらサービスの改善を続けています。アトピーで悩む同じ境遇の人を助けたいと投稿する以外にも、後から症状を振り返る備忘録としてアンティクルを活用する人も出て来ています。

「家族や親戚にも起業家が多いため起業自体はずっと身近なものでしたが、自分で起業するのは初めてです。アンティクルのリリース当初、まずはMVPを出そうとなるべく簡易にしたんですが、実際に出してみると足りない機能のリクエストが沢山届いて反省しました。また、アトピー患者さんにはリテラシーが高くない方も大勢いらっしゃるので、ちょっとした言葉の使い方や伝え方などにも気をつけて日々改善を続けています」

アンティクルは現在、日本と韓国のメンバーから成る6名のチーム。日本には全国600万人のアトピー患者さんがいると言われていますが、韓国でもアトピーは深刻な社会問題なのだと言います。偶然、アンティクルを見つけてくれた韓国のアトピー患者さんがサービス内容に共感し、韓国での認知拡大に向けて協力してくれています。アンティクルを見てみると、既に日本語と韓国語の対策が投稿されています。

「まず目指しているのは、半年後の会員数1万人です。アトピー患者さんの1万人のコミュニティはまだ日本にはないのでそれを実現したいです。アンティクルの機能としては、将来的にはコマースを加えることを考えています。対策には、特定のメーカーの保湿剤や食材などをすすめるものもあるので、そこにEコマースを紐づけて利便性を提供していきたいです」

知らないことが強みになる分野や事業は確実に存在しますが、アンティクルの場合、ファウンダーの野村さんご自身が当事者であることがどこまでも強みになるでしょう。アトピーに頭を悩ます人が迷わずアンティクルのサイトやアプリを開く。そんな日が、そう遠くない未来に訪れるのかもしれません。

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