通算2,200万ドル以上を調達しながら、サイト閉鎖に追い込まれたテックメディア「Gigaom」が示唆するもの

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Via Flickr by Kevin Krejci. Licensed under CC BY 2.0.
Via Flickr by Kevin Krejci. Licensed under CC BY 2.0.

先月、Wall Street Journal をはじめとするメディア各社は、シリコンバレーを代表するテックメディア「Gigaom」が正式に閉鎖されたと伝えた。

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2006年、Business 2.0 の記者として活動していた Om Malik は自身が運営していたブログ「Gigaom」をIT専門ニュースサイトに拡大・改編し、現在の Gigaom を誕生させたのは約10年前のことだ。

Gigaom は BuzzFeedVox のような爆発的なトラフィックを生むことはなかったが、内実があり、深みのある記事に毎月600万人が訪問するサービスへと成長し、カンファレンスや専門調査分野でのビジネスモデルを拡張し、2014年には True Ventures から800万ドルを資金調達した。

しかし、Gigaom は、3月9日午後5時57分(アメリカ太平洋標準時)債務不履行によって操業停止を決定した。TechCrunch や Mashable などとともに、アメリカのITジャーナリズムの一角を担った Gigaom の没落は、多くのファンに衝撃をもたらした。Gigaom の代表的な記者である Mathew Ingram は、次のように主張した。

資金状況が良くないことは承知していたが、このように急に中断されることとは思いもしなかった。組織が小さく、特定の分野に完全に集中すれば、成功することができるだろう。逆にものすごく大きくても、成功することができる。しかし、(大きくもなく、小さくもなく)中途半端な位置を占めている場合、崩壊するしかない。

彼は Gigaom の失敗の原因が、不明確な Gigaom ブランドの位置付けにあると分析した。

今回は Gigaom でリサーチャーとして活動していた Michael Wolf の「Gigaom: The Life and Death of a Venture Funded Media Startup」の寄稿に基づいて、Gigaom が凋落していった要因を分析してみたい。

無理な資金調達による収益の圧迫

Michael Wolf によれば、2009年、Gigaom は、3つのビジネスモデルに基づいて事業を成長させた。メディア・コンテンツ、カンファレンス、専門分野リサーチによる有料コンテンツだ。当時、Gigaom は415万ドルの現金を保有していた。人材構成はまだメディアを中心に構成されており、資本金がほとんど投資で構成されているため、Gigaom の経営陣は、短期間で収益を急伸長させなければならないプレッシャーに苦しんだという。当時、毎月200〜300万UVを保有していたGigaom は、トラフィックを高め、有料コンテンツの購入コンバージョン率を高めるために組織を拡大し始める。 メディアと編集領域に集中していた人材構成を再編し、マーケティングおよびセールス担当者の補強が行われた。

Michael Wolf は、Gigaom が短期間で収益を上げるプレッシャーのために、既存の読者層のニーズを十分に満足させることができず、Gigaom のユニークな価値が薄れ始めたと主張する。Gigaom のコアな読者層は技術に興味のある人たちだったのに、収益上の論理から、強制的にターゲットをベンチャー投資家に転換せざるを得なくなったのだ。

2011年には Paid Content を買収、その買収代金とオフィス運営費や不動産運営に関わる固定費、また間接費に含まれるイベント運営の人件費などがコスト構造を悪化させた。

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2008年の Mobilize での Gigaom チーム。前方、左から4人目が Om Malik。Michael Wolf の Medium から。

ビジネスモデル発掘の失敗

韓国のベンチャーキャピタリストは、テクノロジーメディアやスタートアップメディアへの投資を避ける傾向が強い。しかし、ベンチャーメディアからメディアグループに成長した良い例は、簡単に見つけることができる。

1990年代後半、韓国日報の記者を中心​​に作られた経済メディア Money Today(머니투데이) は10年が過ぎた今、毎年10%を超える成長率を記録している。Money Today は2013年、連結売上高基準700億ウォン台(70億円台後半)を記録するメディアグループに成長した。

メディアスタートアップとしての成長と飛躍の時期に、専門分野のリサーチに特化した Gigaom とは異なり、Money Today は、伝統的な広告戦略に基づいて、芸能(Star News=스타뉴스)、放送(MTN)、有料コンテンツ(The Bell)、雑誌(MoneyWeek)、ニュース(News1)、IT専門誌(ZDNet Korea)などを新設したり買収したりし、メディアのプレゼンスを高めることに注力した。

CPMベースのバナー広告クリック率が落ちていく状況の中で、従来の広告戦略を発展させるよりも、中途半端にB2Cベースの有料広告モデルに移行しようとした戦略が失敗し、Gigaom に致命的な傷を残すことになった。

Gigaom はクリーンテック、IoT、クラウドコンピューティングなどバーティカルに領域を分類、そのための専門分野調査サービスを提供しようとしていた頃、BuzzFeed はモバイルプラットフォームに注目し、動画ベースのネイティブ広告を実験し始めた。その結果、BuzzFeed は全世界で111番目にトラフィックの高いサービスへと成長した。

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ベータ版で運用していた、専門分野調査サービス「Gigaom Pro」のウェブサイト。

Om Malik は、なぜ True Ventures へと去ったのか

筆者が考えるところで、Gigaom 没落の最大の原因は、創業者 Om Malik の不在である。

Gigaom はサービスを停止するまでに総額 2,230 万ドルの投資を受けており、昨年2月に Gigaom が True Ventures とコンソーシアムから800万ドルの出資を受けた時、Om Malik が True Ventures に参加することになった。

つまりこの8ヶ月間、Gigaom はキャピタリストの論理で運営されてきたのだ。Money Today のホン・ソングン(홍선근)会長は以前に行われたインタビューの中で「言論活動より重要なことは、一つの企業として自立すること」という趣旨の話をしている。実際、ホン氏は、Money Today のメディア力を高めていく過程で、執拗に広告収入を安定化させることに集中したという。

時には、資本と常識の論理を嘲笑して世界を変えると叫ぶこと。誰もが自分のもとを去っても、自分が推し進めるビジネスモデルに確信を貫けることもベンチャーのCEOに求められる素養だが、Om Malik には、あまりにも簡単に資本の論理に手を上げたような、物足りなさが残る。

Web 2.0の精神を継承した、Om Malik の Gigaom と Jonah Peretti の BuzzFeed の成功と凋落の物語は、私たちに多くの示唆を与えてくれた。BuzzFeed の Jona Peretti は、1979年に出版された David Halberstam 著「メディアの権力」(日本語版は、筑紫哲也・東郷茂彦・斎田一路ら各氏による共訳。原題は、The Powers That Be)の内容を引用して、Time、CBS、New York Times などの報道メディアが、かつて小さなスタートアップとして創業し、現代のようなメディアとして確立するまでの過程と、一世を風靡して消えていった報道メディアの凋落の過程を説明した。彼はメディアとして、普遍的に持つべき価値と革新し続けなければならない理由を列挙した。BuzzFeed は現在、約10億ドルの企業価値を記録して、テクノロジーベースのメディアグループへと成長し続けている。

以上、Gigaom が凋落した要因を分析してみた。この話はテックメディアというバーティカル領域だけでなく、スタートアップにも重要な問題を投げかけている。無理な投資や数字に惑わされないこと。明確でスケーラブルなビジネスモデルを構築し、そのためのコアコンピタンスを築き上げていくこと。あまりにも当然のことだが、長生きするのに必要な、決して容易ではない旅である。

【原文】

【via BeSuccess】 @beSUCCESSdotcom

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