世界中から起業家数千人が集った「LAUNCH Festival」〜デジタル・マーケティング・ストラテジストが選んだスタートアップ・ベスト5【ゲスト寄稿】

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江成太一氏

本稿は、江成太一(えなり・たいいつ)氏によるゲスト寄稿である。江成氏は、90年代末から自動車会社、製薬会社、ウェブコンサルティング会社等でデジタルチャネルを使ったマーケティングに従事。現在はウェブコンサルティング・制作会社に勤務し、クライアント企業のデジタルチャネル活用戦略支援を担当している。

江成氏は3月2日〜4日、サンフランシスコで開催されたスタートアップ・カンファレンス「LAUNCH Festival 2015」に参加した。このカンファレンスは、以前、TechCrunch 40(TechCrunch Disrupt の前身)を創設したことで知られるシリアル・アントレプレナー Jason Calacanis によって毎年開催されているものだ。

以前には、2012年の LAUNCH Festival の模様を 0→1 Booster(当時、株式会社mediba 海外戦略部部長)の合田ジョージ氏が寄稿してくれている

※ Fort Mason Center 外観と RushTix のブースの写真は江成氏による撮影。その他の写真については、Launch Media の承諾により、Noisy Savage から提供を受けた。


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スタートアップが新サービスを発表する「ピッチイベント」のひとつであるLAUNCH  Festival が3月2日から3日間にわたりサンフランシスコで行われました。メインステージで発表したのは46社、デモブースへの出展企業は260社以上、登録者11,700人という規模の大きなイベントで、舞台となった Fort Mason Center は若い起業家たちが結集して大いに盛り上がっていました。

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Jason Calacanis

LAUNCH Festival を主催する Launch Media社 のCEO Jason Calacanis はテクノロジー関連の新興企業へのエンジェル投資家でもあり、LAUNCH  Festivalの発表の中にはCalacanis自身が投資する企業も含まれていました。

このレポートでは LAUNCH Festivalで発表された46社の中から、対象とする課題の明確さ、創業者の思い、収益を上げるための仕組み、手法の面白さの観点で筆者が選んだ5社をご紹介します。

REscour

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REscour は、不動産仲介業者または不動産投資業者向けに、物件取引を判断するためのデータや、物件の売買のレコメンデーションを提供するサービスです。

REscour のサイトでは次のようなことができます。

  • 対象の地域の地図を開いて、そこで表示される個々の物件をクリックし、各物件の過去の取引の履歴を調べる。
  • 物件の借り手市場の動きを知るために、対象地域で企業が移転してくる予定があるかなどの企業動向を調べる。
  • その地域に住んでいるのはどんな人なのか、例えば年収レベルなどをチェックする。
  • 不動産投資業者として利用していれば、興味を持った物件の仲介業者にウェブサイトからコンタクトする …など。

不動産投資家が自分の物件データをREscourにアップロードすることで、その一つひとつの物件について売買・投資の助言をしてくれる機能もあります。このサービスを提供するため、REscourは公共機関および民間が提供する50種類のデータを集めて分析しているそうです。

創業者の一人 Jake Edens は全米第二位の不動産会社で働いていた経験があり、その時に経験した煩雑なデータ解析作業を何とかしたいと思ったのが起業のきっかけだとのことでした。実際の課題に根差したサービスであり、またデータの分析というデジタルの強みを生かしているので、大きな成長の可能性を感じます。

RushTix

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RushTix の展示ブースでは、担当者が「ライブパフォーマンス版の Netflixです」と話していました。Netflix は$8.99で映画をオンラインのストリーミングで無制限に見られるサービスですが、RushTix は演劇やコンサートなどのライブのイベントを月額固定$99でいくつでも鑑賞できるサービスです。創業者Jill Bourqueは「ライブパフォーマンスの興奮をもっと多くの人に体験して欲しい、アーティストにより多くの観客を紹介したい」という思いから創業したそうです。

会員になると一つのイベントにつき、二人まで鑑賞できます。鑑賞できるイベントは無制限ですが、一つのイベントを鑑賞し終えてから次のイベントの予約ができるという仕組みです。RushTix のウェブサイトでは様々なイベントの最新情報を更新しています。現在登録されているイベント数は500、サービスの有料会員は400人とのことです。創業者の思いがストレートに伝わるので、応援したいと感じさせるサービスだと思いました。

Abra

アプリを通じておカネを送金する仕組みです。これまでの仕組みでは、例えばアメリカからメキシコへの送金をする場合、5%の手数料と書類への記入などの手間がかかり、またメキシコ側で現金を引き出すためには現金を引き出せる銀行まで行く必要がありました。Abra は、そんなコストと手間を削減してくれるサービスです。

例えばアメリカからメキシコにAbraでの送金する場合の流れは次のようになります。

<送金側>

送金したい人の名前をTomとしましょう。TomがAbraのアプリで「Abra Teller」と呼ばれる、いわば「人間ATM」役の人を探し、実際に会う約束を取り付けます。その後TomはAbra Tellerと会い、スマホにインストールしたアプリ同士を通信させた上でAbra Tellerに現金(例えば500ドル)を渡します。現金を渡すとTomのAbra口座は手渡した500ドル分だけ増えます。Tomはそれを確認して、メキシコの受けてに送金します。

<着金側>

受け手がAbraアプリを立ち上げると送金された金額500ドルが増えています。これを現金に換えるために、受け手は自分の周りにいるAbra Tellerをアプリで探し、実際に会います。メキシコ側のAbra Tellerと受け取り手がアプリを通信して互いを確認した上で、Abra Tellerから受け取り手に現金を渡します。それが完了すると、メキシコ側のAbra TellerのAbra口座は、手渡した500ドル分増加します。

Teller役の人は取引に対して手数料(例えば1%)を要求でき、その手数料の一部をAbraが収入として得ます。Teller間の送金にはビットコインを活用しています。

海外送金の苦労という課題に対して、金融の仲介業者を使わない送金の仕組みを作るという壮大な実験をサービスとして動かしてしまうパワーに驚きました。Abraは、今回の LAUNCH Festivalの優勝者に選出されています。

PreHire

LAUNCH Festival 2015 のハッカソン・セッションで優勝した PreHire のチーム。
LAUNCH Festival 2015 のハッカソン・セッションで優勝した Prehire のチーム。

求職者が実際に仕事ができる人材なのかどうかを評価するには時間も労力もかかり、しかも確実にその能力を見極めるのは難しいものです。PreHire はカスタマーサービスのオペレーターの採用に焦点を当て、求職者に仕事のシミュレーションをしてもらうことでその人のスキルを評価するサービスです。

具体的なサービスとしては、お客様対応のメールの内容や書き方が適切かどうかを評価する仕組みと、音声を認識して会話のスピードや正確性などの電話での対応力を評価する仕組みがあります。アメリカでは人材のスキルレベルのバラツキは大きいと思われるので、このような標準的な評価ツールの価値は大きいと思います。

HandUp

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HandUp では、企業などがホームレスの人の社会復帰支援のための寄付を集めることができます。HandUpは活動を行うためのソフトウエアの開発と提供に専念し、ホームレスにどんな支援をするかという部分は支援活動を行っているNGOが担当するという役割分担となっています。

HandUp はソフトウエアを有償で提供する営利企業であることも驚きですし、またとてもシンプルな活動に特化しているスタートアップであるHandUpが設立から1年半で投資家から85万ドルを集めたという規模感にもびっくりしました。HandUpは昨年の LAUNCH  Festival で発表した会社で、今年は「卒業生」としての発表でした。


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彼らのピッチを通じて、ウェブやモバイルの仕組みを構築する技術力の高さには感心しました。今回のイベントで発表されたサービスは、初めてお披露目したものか、過去数か月以内に立ち上げたものです。それにもかかわらず、インターフェースのデザインも動作も洗練されていました。

LAUNCH Festival でのピッチしたスタートアップ各社の発表の共通点として、標準的なサービスを作りスケール拡大を狙おうという意図と、色々なアイデアを試し、結果は市場に判断してもらおうとする合理性を感じました。日本でのビジネスでは、お客様一人一人にきめ細やかなサービスを提供しよう、中途半端なものは売らないようにしようと考えがちなので、私にとって今回見聞した内容はとても新鮮でした。

創業者が自分の体験に根差した課題意識を持っていたり、「これをやりたい」という強い思いを持っている企業ほど強く印象に残りました。創業者の思いが強いほどサービスも魅力的になるという点は万国共通なのかもしれません。

新しい仕組みを作りだすパワーとこの中から大きく成長する企業が生まれてくるのではないかという期待を大きく感じた3日間でした。

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会場となった Fort Mason Center
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Fort Mason Center の脇から、サンフランシスコ湾を望む。

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