文字判読が難しい人のためのウエアラブル「OTON GLASS」、使いやすさを追求して文字認識とクラウドソーシングのハイブリッド対応へ(インタビュー)

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このところ、日本内外のスタートアップ・イベントをハシゴしていると、各所でロボティクスに関するパネル・ディスカッションが組み入れられていて、必ず話題に上るのは「アシモフのロボット工学三原則」だ。これは何もロボティクスに限った話ではない。スタートアップが生み出すあらゆるプロダクトは、世のため人のためのものではなければならないのは改めて言うまでもない。

昨年、ドコモ・ベンチャーズの第3期インキュベーション・プログラムを卒業した「OTON GLASS」も、まさにそんな世の中に役に立つプロダクトの最たる事例と言えるだろう。情報科学芸術大学院大学(IAMAS)の学生で、OTON GLASS を開発する Particular Design の代表を務める島影圭佑(しまかげ・けいすけ)氏は、自身の父が失読症を発症したことから、その父の日常生活の支援をモチベーションに OTON GLASS の開発に着手した。

ちなみに、失読症(またはディスレクシア)とは学習障害の一種で、視力はもとより、知的能力、理解能力などには全く問題が無いものの、文字の読み書きに著しい困難を抱える障害だ。近年では、Tom Cruise や Steven Spielberg が失読症であることを明らかにしており、欧米では全人口の1割程度の確率で発症すると言われている。文字が読めない、読みづらいということ以外には障害を伴わないので人々の認知が低かった可能性があるが、文字を意思伝達の手段として用いる社会においては何かと不便である。

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左から:山岸昂介氏(主にソフトウェア担当)、宮元直也氏(主にハードウェア担当)、島影圭佑氏(代表)、 志水新(しみず・あらた)氏(プロダクトデザイン担当)  写真提供:NTTドコモ・ベンチャーズ

もともと、OTON GLASS は NTTドコモが提供する文字認識 API と連携し、スマートグラスに内蔵されたカメラで画像を捕え、クラウドで認識した単語情報を音声合成しユーザに戻す形を取っていた。人が全く介在しない形で失読症の人々をサポートできるプラットフォームなのだが、これには現在の技術では限界があったと島影氏は説明する。

ユーザテストをしてわかったことがあります。例えば、病院で自分の順番を待っていたとき、受付番号を知りたかったとします。でも、iPad を対象物に向けて、その部分を拡大しようとする行為そのものが、まわりにいる人々の目には不自然に映る。

ユーザからは「使いたくない」という声が聞こえてきました。そこには健常者にはわからない発見がありました。(島影氏)

開発当初、Partiuclar Design のチームは、文字認識の精度を上げることに邁進していた。しかし、どんなに精度の高いセンサーで視線を正確に追ってみても、人には個人差があり、対象物を見極める上で優先度をつけにくく、どのような文字の認識精度を上げていけばいいのかわからなかった。しかも、文字認識には一定の時間がかかるので、ユーザが対象物を凝視してから音声回答を得られるまで待つ必要があり、ユーザのストレスとなっていた。

そんな中、彼らは、デンマークに拠点を置くスタートアップ BeMyEyes の存在を知ることになる。視覚障害者が映像をライブで送信することにより目の見えるヘルパーと共有、ヘルパーがインターネットごしに何が映っているかを音声で教えてくれるというクラウドソーシング・プラットフォームだ。

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BeMyEyes には欧米言語のユーザが多いようだが、日本語に対応できるヘルパーを増やしたり、視覚障害者のみならず失読症の人々を助けるソリューションとして活用したりするなど、Particular Design は、OTON GLASS と連携できる局面が少なくないのではないか、と考えている。

例えば、OTON GLASS を BeMyEyes のユーザに最適化されたハードウェアとして使ってもらうなど、既存のコミュニティにいる人たちとコラボして OTON GLASS を開発していきたい。

アクセシビリティフェスとかにも出展してみたところ、(視野中央が見えづらくなる)緑内障患者の人たちからも OTON GLASS を使ってみたい、という声が多数寄せられた。(島影氏)

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Otonglass Prototype 2013(2013年に開発された初期試作品)

果たして、OTON GLASS は、機械による文字認識からクラウドソーシングによる人力認識へピボットを図るのか? 筆者のこの問いには、ハードウェア開発を担当する宮元氏が答えてくれた。

機械による文字認識をやめるというわけではありません。視線の捕捉や文字認識の技術も進歩していくでしょうから、徐々に人力認識と機械認識のハイブリッドにしていく、という感じです。

Particular Design では CREST に採択された大阪府立大学の研究者らを中心とする文字認識技術の研究チームと連携、失読症に悩む人々のほか、さまざまな学術経験者やスタートアップと連携して、OTON GLASS の開発に勤しむ計画だ。

また、一般的にハードウェアのスタートアップにおいては、資金調達に加え、マーケティング手段の一つとして Kickstarter や Indiegogo などで早い時期からクラウドファンディングするケースが少なくないが、OTON GLASS ではまず、テスターとしてプログラムに参加している失読症の人々の問題を解決できるプロダクトの完成を目指し、その後、必要に応じて、資金調達・生産体制・事業展開について考えていきたいということだった。

Yusuke Asakura of Mixi
Image credit: Stanford University

OTON GLASS の開発にあたっては、ドコモ・ベンチャーズのインキュベーション・プログラムの中で、元ミクシィCEO の朝倉祐介氏がメンターを担当、Particular Design のチームに与えた影響は少なくなく、彼らから朝倉氏に対する感謝の念は非常に大きいもののようだ。

最後に、Particular Design の今後の成長への期待について、朝倉氏からも応援のコメントをもらうことができたので掲載しておきたい。

昨年の Docomo Innovation Village では選考段階から参加させていただきましたが、OTON GLASS については、「お父さんがもっと快適に過ごせるようなプロダクトを作りたい」という島影さんの熱意に心を打たれたこともあり、強く推しました。ご自身の実生活での体験や動機から開発されるプロダクトは、他の誰かが作るより、使い手にとってきっと優しい物になるんじゃないかと思っています。

OTON GLASS が島影さんのオトンや、同じ症状を持つ人達の生活を一変させるようなプロダクトに成長することを期待しています。

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