ハードウェアスタートアップの成功の鍵とは?クラウドファンディング、深圳をいかに活用すべきか

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ここ5年で、ハードウェアのスタートアップは、KickstarterやIndiegogoのような人気のクラウドファンディングサイトのおかげで、ハイテク業界における新たな寵児となった。

クラウドファンディングのキャンペーンを通して、ハードウェア起業家は、自分たちの製品に本当に関心を持っている人から直接資金を調達することができる。ハードウェア企業が成功するために、確立された評判と豊富な資金が必要とされたのはもはや過去のこと

。今や良いアイデア、確かな技術、うまく策定されたクラウドファンディングキャンペーンと深圳という名の都市により、ほぼ全ての人たちがハードウェア起業家になることができる。

クラウドファンディング

レバノン人の2人組Bassam Jalgha氏とHassane Slaibi氏はスタートアップ企業Band Industries, Inc.の設立者で、クラウドファンディングとハードウェアを熟知している。

ロボット工学の研究者であるJalgha氏とソフトウェアエンジニアのSlaibi氏は、同じバンドで演奏活動をし音楽への情熱を共有する仲だった。彼らはギターの自動チューナーに市場機会があることに気付き、最初の製品であるRoadie Tunerを製作した。

これはギターを正確かつすぐに(数秒で)チューニングできるものだった。彼らはRoadie Tunerに専念するために仕事を辞め、以来絶えず前進を続けてきた。

「私の行動を両親は喜んではいませんでした」とJalgha氏は笑う。

「しかし私は自分は物作りがしたいことをわかっていました。毎日同じ作業を繰り返すことに嫌気がさしていたのです。」

彼らの賭けはうまくいった。2014年1月、KickstarterでRoadie Tunerの製造用資金として約18万米ドルの調達に成功し、これは目標金額6万米ドルの約3倍だった。

「クラウドファンディングでアイデアと市場を試すことができます」とSlaibi氏は言う。

「あなたのアイデアと製品を買いたいかどうか、人々は自分のお金と共に投票するのです。 」

「私たちはRoadie Tunerの生産に6万米ドル必要でしたが、この金額をたったの4日で調達してしまいました。これはスタートアップにしては驚くべきことです。事前に資金があることは、生産のために借金をしたり追加投資を集める必要がないということです。」

26歳のスタンフォード大学出身のAdam Kell氏は、火気の熱を電気に変換する無線周波発生装置Flamestowerを発明し、同名のスタートアップを共同設立した。こうして生成された電気は電子デバイスの充電に利用できる。Jalgha氏とSlaibi氏同様、Kell氏も2013年にKickstarterでFlamestowerの資金調達キャンペーンをローンチした。

「Kickstarterを使う前は、ウェブサイトでFlamestowerのプリセールスをたくさん行っていました。支払い情報を記録し、商品が発送されるまでは請求しません」

とフォーブス誌の2014年の30歳以下の30名に選ばれたKell氏は述べる。「あそこからはたくさんのトラフィックがありました。」

「私たちはKickstarterを試してみることとし、プロジェクトを立ち上げました。それまで当社のウェブサイトには来なかったトラフィック、つまりそれ以前には獲得できていなかった人々を得ようとしたのです。」

Kell氏の意思決定は吉と出た。キャンペーン終了時には、支援者は6万米ドルを超える資金をFlamestowerに投資し、当初の目標金額の4倍を超える成果となった。

FlamestowerとRoadie Tunerは大人気のクラウドファンディングで多数あるキャンペーンのうちのハードウェア成功例の2件にすぎない。2012年のPebble Technologyの有名な事例では、自身の名前の由来となったスマートウォッチに対し69000名近い支援者から1000万米ドルを超える資金を集めた。

今年には、同社はKickstarterに新たにキャンペーンをローンチし、新世代スマートウォッチのPebble Time向けに2000万米ドルを超える資金を集めた。

他の例では、当時20歳だったPalmer Luckey氏が発明したビデオゲーム用VRヘッドセットのOculus Riftがある。この装置は業界の革新と呼ばれ、240万米ドルをKickstarterのプラットフォームで集めた。その後、Oculus Riftは20億米ドルでFacebookによって買収された

クラウドファンディングには脚光をあびるサクセスストーリーがあるにも関わらず、キャンペーンを成功させることはそうたやすいことではない。

「クラウドファンディングで成功するか否かはマーケティング次第です。素晴らしいプロジェクトがあっても、十分に知られなければ、簡単に廃れて成功できないのです。」

とJalgha氏は言う。

「ローンチ直後の数日間は、メディアに注目してもらえるようマーケティングの押し出しが必要です。ここが成功と失敗の分かれ道なのです」

と彼は続ける。

Kell氏にとって、クラウドファンディングのキャンペーンは役に立ったが、会社の成功にとってそれが全てというわけではない。

「クラウドファンディングのキャンペーンだけで、製品を生産するのに必要な資金を集められる当てはありません。大量生産する製品の場合は特に資金調達の準備が必要です」

とKell氏は言う。同氏はKickstarterのキャンペーンに先立ち、エンジェル投資家からシードラウンドで資金調達済みだった。

「もしシードラウンドで資金調達できていなかったら、Kickstarterで集めた6万米ドルでは資金が足りていませんでした。」

なぜ深圳か?

Kell氏は、多くのハードウェア起業家と同様に、Flamestowerの第1世代を深圳で製造することを選択した。この都市は先進的な製造インフラと豊富な電子コンポーネントにより、国際的な製造業のハブとして知られている。

にも関わらず、深圳は常に製造業界のスターというわけではなかった。長きにわたり「made in China」のラベルは品質の悪い安物と同義であった。しかし中国はゆっくりと着実にこの固定観念を無くしていったのである。

「これは中国企業とブランドにとって良いことであり、『安物で、未熟で、低い技術力』という否定的な固定観念から脱却することである」とFutureBrand Asia PacificのプレジデントSarah Reiter氏はJing Dailyへのインタビューで述べた。

「台湾や日本の数十年前のように、中国は今『現代的で、洗練された、高い技術力』のイメージに移行しつつあるのです。」

2014年の生産過程で、Kell氏は数ヶ月間深圳に住み、できる限りたくさんの人と話し、中国における製造工程と製品開発サイクルについて学習した。

「深圳のエコシステムはとても強力です。深圳で電子製品の生産をするのは意味があります。Flamestowerを構築していた時、当時必要としていた電子部品や、回路ボードのメーカーを見つけられたらと思っていました」

とKell氏は述べた。

「深圳にはこれらが1つの地域にあるのです。これは当社の開発サイクルにとって非常に役立ちました。」

Kell氏は幸運にも、深圳で生産している間は多くの問題に巻き込まれなかった。

「役に立ったことの一つが、深圳で6ヶ月を過ごし、パートナーについて理解を深め、お互いに成功を望んでいると確認できたことです。これこそが最も重要なことであり、そこにいたからこそできたことだと思います。」

深圳の課題

Jalgha氏とSlaibi氏にとって物事はあまり順調に進まなかった。この2人組もRoadie Tunerの製造のために深圳に向かったが、いくつか大きな問題が生じた。

「適切な工場を見つけるのは非常に難しい課題です。私たちはスタートアップでしかないという現実があります。当社の発注単位は5万個などといった大規模ではないのです。有名な工場は当社のようなスタートアップに注意を払ったりはしません。しかし小さな工場ではリソースが十分でなかったりするのです」

とJalgha氏は言う。

彼らが最初に選んだ工場はRoadie Tunerの製造と同時並行で大きなプロジェクトを請け負っており、結局は進まなくなってしまった。

「最初はあの工場の設備を素晴らしいと思っていましたし、彼らも私たちのプロジェクトに注力していました。しかし当社よりも大きなプロジェクトを受注したとたんに私たちには全く目もくれなくなったのです」

とJalgha氏は述べる。「幸いなことに、生産途中でしたが、数日間で工場を変えることができました。」

レバノン人の2人組には言葉の壁による問題もあった。

「中国のサプライヤーのほとんどは片言の英語も話しません。これは非常にやりにくいです。私たちは工場と直接の意思疎通ができず、誤解や連絡ミスの余地が多々あり、中国での製造における問題のいくつかの原因となりました。幸いなことに、全ての問題の解決策を見つけることができ、ほぼ予定通りに製品を市場投入できました。」

とJalgha氏は言う。いろいろな問題があったにも関わらず、Jalgha氏とSlaibi氏は今後もRoadie Tunerの生産を深圳で続けるとの考えだそうだ。これは中国都市の発展したインフラが利用可能なことと、何事にも方向転換が速いためだ。現在、Roadie Tunerは深圳で3度目の生産中ということである。

「深圳では、人々は『時は金なり』を理解しているので、いろんなことが本当に素早く効率的にできます」とJalgha氏は補足する。「中国は製造を理解しており、たくさんの経験を積みとても上手くこなす。新しいデザインを考えついてから2日後にはプロトタイプを製造・発送できてしまうのです。」

製造業の中心地でもコスト上昇が

しかしながら、信じがたいかもしれないが、中国の急速な経済成長に伴って、深圳はもはやハードウェアを一番安価に製造できる場所ではない。

「労働賃金が急速に上がっています。製造業者のコスト増加はとても大きく、労働力という点では年率で10~20%にもなります。価格は、もはや深圳を選ぶ理由にはならなくなりつつあります」

とKell氏は述べ、Flamestowerが将来製品を深圳ではなくエチオピアで組み立てるという可能性もあり得ると明かした。

Jalgha氏はKell氏に同意する。「(深圳で製造することは)多くの面でコスト優位ではありません」と述べる。

「深圳の生活費も高騰していますし、住むのも安くはありません。中国からコンポーネントを持ってきてレバノンで組み立ててもほぼ同じコストになるでしょう。」

Roadie Tunerと事業立ち上げに注がれた血と汗と涙にも関わらず、Jalgha氏とSlaibi氏は疑問を挟むことなく、もう一度やるそうだ。

「ハードウェア事業は大変です。それこそが私たちがハードウェア事業を始めた時に、アクセラレータのHAXLR8Rが私たちに告げたことでした。しかし、完成した製品を手にとって、実現にこぎつけたことを実感できるのは、非常にやりがいがあるのです。」

とJalghaは言う。

【via Technode】 @technodechina
【原文】

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