「『be organically lean』であることが最高のチーム環境」ustwo中村氏が語るLeanであることの大切さ[Lean UX Japan Conference 2015]

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Image by loftwork on flickr
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4月11日、『LEAN UX Japan Conference 2015~LEAN UXが拓く未来~』が開催された。「LEAN UXについて考える1日」をテーマにした同カンファレンスは、日本でLEAN UXを実践・普及させることを目的としたイベントで、Lean UXとその概念であるLean Startupの思想を学び、育てることを重視している。

ここでは、「創造と共創」をテーマに、2014年にベストApp&ゲームやApple Desin Award を受賞した『Monument Valley』を運営しているデザインスタジオのustwoでプロダクトデザインを行っている中村麻由氏が語る「オーガニック LEAN UX」のセッションをまとめる。

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ustwoは、2004年に設立したロンドン発のデジタルデザインのスタジオで、現在ではニューヨークやシドニーなどグローバルに展開をしており、26カ国の国籍の200人以上が集まる組織だ。しかし、そんなustwoもはじめから順調だったわけではない。設立当初はUIデザインを中心だったが、2010年頃からアジャイルやスクラムのプロセスを導入し、UXデザインナーの採用、ユーザ中心設計(UXD)を軸とした動きへと組織全体が移行していった。

「組織の振る舞いが変わってくる中で個人にも実はストレスがかかっていて、仕事でうまくいかなかったりメンバー同士のコミュニケーションに齟齬がでたり、ユーザテストをすることにとらわれすぎて肝心のプロダクトに注力できずにいたりでした。そうした状況のなかで、Leanの思想と優先順位付けやビジョンのつくり方を参考にしたことで、次第にチームがまとまり、円滑に進むようになってきました」(中村氏)

中村氏は、Lean UXの重要な要素として「Agile Software Development」「Design Thinking」「Lean Startup」の3つの柱があるという。しかし、こうした要素を書籍や講義で学び、完璧に実践していこうとするあまりに躊躇したりする「やり方」を求めるのではなく、あくまでLeanは思想であり、個人や組織としての「あり方」として存在するものだ、と指摘。日々の振る舞いのなかで気がついたらLeanが浸透していき当たり前のものにしていくこと、「be organically lean」であることが重要だと語る。

どこにいて、どこを目指して向かっているか

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中村氏は、これまでにustwoで取り組んできたLeanのポイントをもとに5つのポイントを話した。1つ目は、組織の方向性を知ることだ。そのためには、チームを知ることが大事だと中村氏は語る。

「状況を冷静に理解して集中して対処すために、プロジェクト、組織、ユーザ、市場、知識、チーム、クライアントなど、プロジェクトの状況やいま一番何が大切かに対して気づきを持つことです。そのために、ustwoでは昨年からプロジェクトマネージャーのポジションを廃止し、プロジェクトを客観的に見れる“コーチ”と呼ばれるプロジェクトから一歩引いた存在を置き、チームのマネジメントそのものはチーム自らが作り上げるという考えを浸透させました。コーチは適宜アドバイスやアシストをしながら、周囲が見えなくなっていたものを落ち着いて考えられるようになります」(中村氏)

また、物理的に距離がある場合はハングアウトを使いクライアントの顔を見えて10分ほど話をしたりするという。こうした朝のスタンドアップで気をつけることは、相談ではなく優先事項を確認すること。少しの時間を設けながら同じビジョンに向かってプロジェクトを進めていく仕掛けを作ることが必要だという。

ビジョンなしにはピボットはできない

しばしば企業の経営やプロジェクトの方向性の議論において使われる「ピボット」だが、中村氏はピボットはビジョンなしにはできない、と指摘する。

「本来、ピボットは軸足がないとできません。固定された左足、それはつまりビジョンです。ビジョンを明確化し、それを固定した上で、進むべき方向性の修正を図らなければいけなません。そのためには、Whyからはじめ、自分たちが信じられるビジョンを固めるための時間を十分取ることが必要です」(中村氏)

ustwoでは、プロジェクトの多くがクライアントワークだが、ビジョンワークショップではクライアントも交えたビジョンワークショップを行う。そこでは、何を作りたいか、どんなインパクトを与えたいか、プロジェクトを通じて変化を起こしたいことなどを一日かけて行う。そうしたワークショップを通じ、クライアント側としてやるべきこと、uwtwoとしてやるべきことを明確化する。

「ビジョンワークショップはちょっとしたところでもできます。例えば、今のプロジェクトが成功して何かの賞をもらったが、それはなぜか、を考えてチームと話したり、その製品に対してユーザがどういった反応やどんな言葉を投げかけているのか、といったことを話すだけでも、そのプロジェクトのビジョンがチーム内で共有され、方向性を一致させることができます。そうした思いを共有し、理解することによって、プロダクトに集中することができます。このスタートがうまく切れれば、プロダクトの質や作業の効率化も図ることができます」(中村氏)

体験して共有すること

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チーム内においてさまざまなものを共有することで文化が育まれる。チームプレイの根底には、自分がメンバーを大切な人たちであることを認識することからはじまる。同時に、そうした理想の環境を作り上げる要因に、自分自身がいることを忘れてはいけない。

「チームに飛び込むことと、信じること。この二つを大切にしましょう。後ろを支えてくれる人がいるということの信頼関係が、なにものにも代えがたいものです。チームが環境をつくっています。そのための小さな仕掛けは、いくらでも考えつくことができます。他部署との交流や、自分が普段気になってることや面白いと思ったことを共有したり、社内の壁に勝手に張り出したり。小さな仕草の積み重ねが、自然と社内の文化に影響を与えるものです。また、チームだけでなくクライアントも巻き込むことも必要です。クライアントと自社との関係において、信頼関係をどう構築するか。巻き込みをつくり自分たちを信じてもらうために、何かを一緒に体験することはとても重要です」(中村氏)

セオリーとハンズオンのバランス

あらゆるものを自分たちで体験し、その実践の上でプロジェクトを進めていくということは重要だが、時間や予算など有限のリソースのなかにおいて自由と縛りのバランスをどうつくり上げるかが常に課題だ。プロジェクトマネジメントを廃止し、セルフマネジメントにしているからこそ、プロジェクトを進めていくためのルール付けを明確にしていく必要がある。

「ustwoでは、時間を区切り強制的に優先順位をつけるようにしています。限られた中で最大限のパフォーマンスを発揮するためにも、ブレない軸が必要です。ミーティングのアウトカムを明確にするなど、時間を大切にしてちまうs.ルール付けをしていたからこそ、Monnument Valleyではいつでも何かあればユーザテストが始まります。チームメンバーはみな遊び好きで、好奇心旺盛な人たちで、そうした遊びのなかからユーザの動きを常に把握する癖をつけています」(中村氏)

限られたリソースと自由な発想を両立させるために、ustwoではいつでもスケッチをつける癖をつけている。とにかく書き出しながら自由なアイデアを導く習慣をつくっている。

「大切なのは、強制的な優先順位や、ここさえできればクリアできるという線引を設けること。そして、その引いた線への最短距離はどこか。あらゆるもののMVPを考える意識をもつと良いかもしれません」(中村氏)

失敗の捉え方

デザイナーやエンジニアは、ついつい完璧な仕事を求めがちだ。しかし、Lean UXにおいてはその考えとは真逆で、最低限の動作や機能をもったMVPで検証を図ったり、途中経過でフィードバックを受けたりする。こうした、常に「見せる」という行為を当たり前にすることが必要だと中村氏は指摘する。

「何をもって完璧とするかは人それぞれ。だからこそ、その終わりのないものを考えるためにも常にユーザテストをしているという発想にならなければいけません。ustwoでは常に人に見せることを当たり前にするために、ポストイットで壁に貼ってすぐ人に感想を求めたりします。デザインやコードの途中経過を見せることで新しい気づきを得ることもしばしばあります。客観性を得るチャンスだという考えに転換することが必要なのです」(中村氏)

誰でもかれでも、何かあればユーザテストを実施してみること。他にも、役に立つかどうか分からないものも、あえて計るということが、実は気付かないところでヒントになることもあるかもしれないという。monnument vallyでは、「monnument vally number 」と題して、monnument vally がリリースするまでの間に行ったさまざまなメンバーの行為(プロジェクトの時間数やバグ修正の回数といったものだけでなく、プロジェクトの合間に行ったゲームの時間、食べたピザの枚数なども)を記録している。その数字を眺めることだけでも、プロジェクトのときのさまざまな経験もよみがえる。同時に、色々な視点からプロジェクトを見ることによって、失敗と成功の考え方が導き出せるかもしれない。

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