
筆者がベルリンでメッセンジャーアプリの「Wire」に出会ったのは昨年の冬のことだった。当時ローンチしたばかりのWireは、その音声通話の音質の良さがスタートアップコミュニティのあいだで話題になっており、洗練されたビジュアルデザインも注目されていた。
とはいえ、日本ではLINE、韓国ではKakao Talk、そして全世界的にFacebookメッセンジャーやWhatsappなど、メッセンジャー市場は一見飽和状態のように見えるのも事実だ。このスペースに「今さら」入り込むことなんてできるのか。こうした疑問を抱いている人は少なくないのではなかろうか。
そんななか、先日ベルリンで開催されたテックフェスティバル「Tech Open Air」でWireのCo-Founder、Jonathan Christensen氏のトークを聴く機会があり、彼らの戦略についてより理解することができた。

デバイスと通信インフラの発達によってよりパーソナルなコミュニケーションが可能に
Christensen氏はメッセンジャーアプリの歴史に触れ、いかにデバイスとネットインフラの発達とともにメッセンジャーが進化してきたかについて語った。90年代後半に人気だったICQやその後世界を席巻したスカイプなど、時代を象徴するメッセンジャーというのは常に存在してきたが、その背景としてデバイスと通信インフラの状況が大きな影響を与えてきた。ちなみにChristensen氏はWireを立ち上げる前はスカイプに在籍していた経歴をもつ。
Christensen氏は時代の変化とともにメッセンジャーが実現できること、またユーザーが期待する価値も変化していくと語る。デバイスの情報処理速度、そして通信インフラが以前よりも大きく進化するなかで、メッセンジャーによって「パーソナル」かつ「感情豊かな」表現が可能になるという。
パーソナルなコミュニケーション方法として、Wireが数週間前に取り入れたのは「スケッチ機能」だ。ユーザーはWireの画面上で簡単なスケッチを描き、それをお互いに送りあうことができる。スタンプのようにユーザーが既存のものから選ぶのではなく、自らオリジナルのスケッチをつくれることで、よりパーソナルで気持ちがこもったメッセージを届けることが可能になる。

スタートアップが疎かにしがちなセキュリティへの真剣度
パーソナルなコミュニケーションが可能になるとともに、懸念が高まるのがプライバシー、セキュリティの問題だ。データ流出や他ユーザーによるアカウント乗っ取りなど、メッセンジャー業界ではセキュリティに関する問題がたびたび浮上するが、Wireは「パーソナルなコミュニケーションを提供にするからこそ、セキュリティも非常に重視している」という。
「多くの規模の小さなスタートアップとは違い、私たちはセキュリティに対して多大な投資をし、とても慎重に考えています。フルタイムのセキュリティ専門家がいますし、外部企業に依頼して誰がどういう状況でデータを見れるのかという点を監査してもらっています」とChristensen氏は以前英ガーディアン誌のインタビューでもコメントしている。
デザイン / UIへの徹底したこだわり

そして最後に、Wireで特徴的なのはそのとがったデザイン、ユーザーインターフェイスだ。ビジュアルデザインは洗練されており、そしてモーションデザインに徹底的なこだわりを見せている。
今回のテックフェスティバルにあわせて、Wireは自社オフィスで「UI Motion」をテーマにミートアップも開催した。ミートアップでは、UIデザイナーのCristobal Castilla氏が発表。「ユーザー各自の個性が表現できること」「ユニークな経験が実現できること」「モーションデザインを取り入れることで、アプリに身体性を付加すること」など、Wireがデザインの上で重視している点を共有してくれた。
トーク後、Castilla氏にWireのデザインへのこだわりの背景をたずねたところ、ファウンダーの一人がデザイナーであること、またデザインチームは5名体制だがフラットなチームで、メンバー間でとにかくたくさん話し議論を深めることが大事にされていると教えてくれた。
パーソナライゼーションに高度なセキュリティ、そして最新のUI。その時代におけるメッセンジャーに課せられた役割を分析した上で練られたWireの戦略が、メッセンジャー業界を動かすことになるか。その可能性は多いにありそうだ。
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