スタートアップが大手企業と勝負をする際、重要になるのが「スピード」だ。このスピードは様々な場面で必要とされるが、最近では「企画」という面において、スピードをもって取り組めているスタートアップが、勢いを増している印象がある。
たとえば、アイドル応援アプリ「CHEERZ」。2014年12月にサービスをリリースして以来、「CHEERZ BOOK」という自社でのブックレットフォトブックの出版、自社企画のアイドルイベントの開催、人気若手クリエーター達とのコラボレーション。
さらには、一見アイドルと親和性の高くない他社プロダクトとアイドルとのコラボレーション企画の実施、フランス「JAPAN EXPO」やアメリカ「J-POP SUMMIT」、タイ「CONNECT JAPAN」、台湾「台北漫画博」などの海外イベントへの出展など、わずかな期間で数多くのアクションを行ってきている。
「CHEERZ」の企画はどのようにして生まれ、実行にまで移せているのか。次々と企画が生まれる背景について、「CHEERZ」のプロジェクトマネージャーの伊藤崇行氏にインタビューを行った。

伊藤氏は以前、芸能事務所でthe brilliant greenなどのマネージャーを務め、その後、会社を退職した後、ドカタの仕事を経験するというユニークな経歴をもつ人物だ。
「なんの看板も持たない自分がどう見られるのかを知りたかったんです。体力あるうちに挑戦しないと、と思って。1年くらい現場で色々作業をやらせてもらったら、ほとんどできるようになりましたね」
看板がない状態で、どう勝負するか。そのチャレンジに取り組んできた経験は、今スタートアップという場に来た後も活きていそうだ。伊藤氏は元々、「CHEERZ」の広報を担当している石田雄彦氏と知り合いだったことから、人手を探していたフォッグに入社した。
アイドル市場の課題を体感する
入社後、最初はIT業界のことを学びながらフォッグの別プロダクト「iam」の担当をしていた伊藤氏だが、「CHEERZ」が生まれるタイミングでプロジェクトマネージャーとなった。
伊藤氏の知人がアイドルのプロデュースをしており、その知人から色々と話を聞いたり、伊藤氏自身もライブに足を運び、運営の手伝いを経験することで、アイドル業界やアイドルの現状を知り、まだまだこの市場で何か出来ることがあるのではないか、という気持ちから「CHEERZ」は始まった。
「実際にアイドルイベントを観て、物販の列に並んだり、その熱量を体感してみて考えたのは、この熱量がアイドル市場の中だけでぐるぐる回っているのはもったいないということでした。他の相性の良い分野と組み合わせることで、一般層や音楽業界への露出が増え、アイドル市場に新しいファンを獲得する手伝いができるのでは、と感じました。
実際、市場を見ると、売れているアイドルはサブカル層やファッション層のファンがついてきている。「CHEERZ」では、これまで出会えていなかった領域同士をつなげていくことで市場を広げ、領域同士の橋渡しをしていければと考え、スタートしました」
アイドルと色々なものをコラボレーションさせる
「CHEERZ」はリリースして以来、海外、地方、サブカルチャー、ファッションなど、異なる領域でありながら、アイドルと親和性の高い領域をつなげる動きを積極的にしている。
単体で企画するよりも、アイドルとコラボレーションをすることで面白い化学反応が起こる可能性があります。例えば、ショートカット推進委員会の写真集「0410(ショート)」です。
多くはモデルさんや女優さんがモデルを務めるのですが、今回は「CHEERZ」の中でオーティションを行い、CHEERZに参加するショートカットのアイドルがモデルとして登場する、といった取り組みを行いました。
他にも、アパレルブランドのモデルを「CHEERZ」に参加するアイドルから選んだり、海外のコミケにアイドルを連れて行ってライブ披露をしてもらったり。一見、アイドルと近しくないかも、と思われる所とこそ一緒にコラボレーションをして、ネタを作って注目を集め、相互のプロダクトや市場を活性化させることが出来ると思っています。
「CHEERZ」には約500名くらいのアイドルが参加していて、アプリ内でオーディション形式の企画を行うと、アイドルたちのモチベーションアップになりますし、アイドルファンたちも盛り上がる。オーディションの結果生まれたものはファンたちもチェックするので、コラボした企画自体も盛り上がります」
大事しているのは冷静な企画提案と熱い想い
「CHEERZ」とコラボしているのは、以前から「何かはやりたい」と考えていたが、そのやり方がわかっていなかったという企業たちも多い。そこで「CHEERZ」では、相手が抱えている課題を先にヒアリングし、「CHEERZ」のニーズと組み合わせて企画に落とし込んでいる。
「まず相手が抱えている課題を抽出して、それを解決できる企画に落とし込めれば、お互いにやりたいこととして企画が成立しやすくなるんです」
そう伊藤氏は語る。
そして、伊藤氏が企画・提案と共に重視していることは、自分たちのアイドル市場自体やアプリを運営する上での自分たちの想いを語ることだ。「CHEERZ」は、株式会社Zeppライブによるアイドルライブシリーズフェス「@JAM」と提携を実施している。最初に「@JAM」と提携の話をした際、彼らはプロダクトがない状態だったそうだ。
「今からちょうど一年前、「CHEERZ」がまだリリースする前のタイミングで「@JAM EXPO2014」の現場に入らせて頂いて、運営のお手伝いなどをさせて頂いたんです。アプリがまだ完成していない状態でありながらも「CHEERZ」の実現したい未来にプロデューサーの橋元さんが共感して下さって、チャンスを頂きました。プロダクトリリース後も、色々とご相談に乗って頂きまして、一年越しでついに大きくイベントにも関わらせて頂くこととなりました。」
スタートアップだからこそ、企画に頭を使う
自ら体感すること、課題のヒアリングを行うこと、コラボレーションすること、そして想いを語ること。「CHEERZ」はそうやって次々と企画を生み出している。
「これだけ企画を生み出すのは、スタートアップだからできることだと思います。お金に余裕があったりすると、宣伝費を支払うだけでクリアできてしまう。スタートアップはお金がないので、そこじゃないところで頭をひねって、お互いの利になるような企画をもっていくしかありません」
フォッグには、エンタメ業界出身の社員も多く、日々面白いアイデアが社内で飛び交っている。オフィスの中でも、社内のメンバーで飲みに行ったときにも企画やアイデアの話が出ているそうだ。
頭をひねって企画を生み出し、毎月何かしらのリリースが生まれるようにもしているという。企画から広報までつなげて、自らトピックを生み出していく力は、スタートアップに求められる力なのではないだろうか。
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