振動と光の強さで「音」を髪から伝えるーー髪の毛につけることで、ろう者の生活支援を目指す「ONTENNA」

by Yukari Mitsuhashi Yukari Mitsuhashi on 2015.8.26

Ontenna-intro
髪の毛で音を感じる 新しいユーザインタフェース「ONTENNA(オンテナ)」

一見、アクセサリーのようにも見えるこの小さなデバイス。でも、これは、誰ものためのものではありません。「ONTENNA(オンテナ)」は、ヘアピンのように髪の毛に装着することで、振動と光で音の特徴をユーザーに伝えてくれるもの。ろう者の生活を支援するために開発されています。

振動と光の強さで、「音」を髪から伝える

わたしが子どもの頃に通っていたアメリカの現地校には、ろう者の同級生がいました。彼女たちと会話するために、「なに?」「ありがとう」などちょっとした手話はみんなが知っていました。よく覚えているのは、学校の避難訓練。耳を塞ぎたくなるような大きな音で学校中に響きわたる警報も、彼女たちの耳には聞こえません。周囲の様子を見て、何が起きているかに気づく。

これが一人でいる時だったらどうでしょう?それに気づく術がありません。そんな状況を変えてくれるかもしれないのが、ONTENNAです。そのコンセプトは、「まるで、ねこのヒゲが空気の流れを感じるように、髪の毛で音を感じることのできる装置」です。

30dB〜90dBの音圧を256段階の振動と光の強さに変換することで、音源の鳴動パターンをリアルタイムに振動と光で表現。これによって、音のリズムやパターン、大きさなどの特徴をユーザーに伝達してくれます。ろう者がこれを髪の毛につけることで、これまで全く聞こえなかったさまざまな音を「感じる」ことができるようになるのです。

学校の文化祭がもたらした出会い

ONTENNAを開発するのは、今年入社したメーカーでUIデザイナーとして働く本多達也さんです。公立はこだて未来大学では、システム情報科学部情報アーキテクチャ学科で、情報やセキュリティについて学んでいました。当時からデザインやアートへの関心が高く、卒論の研究室では、デザインとテクノロジーの力で社会の課題解決を目指すデザイン室に所属。

本多さんにとってのONTENNAの始まりは、大学の文化祭での出会いがきっかけでした。文化祭で困っているろう者の人を見かけた本多さんは、自ら声をかけて身振り手振りで大学構内を案内しました。すると、別れ際に名刺を渡されて、温泉に行かないか?と誘われたそう。温泉が多い函館ならでは。

「僕が声をかけた方が、NPO法人「はこだて音の視覚化研究会」の会長さんでした。ろう者の方のコミュニケーションにすごく関心を持つようになり、この研究会に入りました。手話を勉強したり、手話通訳師のボランティアをやったり、大学内で手話サークルも立ち上げました」

こうして、大学の研究テーマで、テクノロジーとデザインを用いてろう者に音を伝えることを模索するように。本多さんが大学4年生だった2012年に、今のONTENNAの原型となる研究が始まりました。

未踏の予算と3Dプリンターで作った200以上のプロトタイプ

Ontenna-products-image

大学院でも研究を続け、昨年2014年には未踏プログラムに採択されました。そこで得た予算を使い、また3Dプリンターを活用することで、これまでに200個以上のプロトタイプを作成してきました。こうして出来上がったのが、髪の毛に無理なくクリップできる現在のONTENNAです。

本多さんは、これまでろう者の皆さんと恊働でプロジェクトを進めてきました。今も、最新プロトタイプを生活の中で使ってもらい、フィードバックを集めている最中です。こうしていくつもの課題をクリアしてきましたが、最初の難関はその形状や付ける場所だったと言います。

ONTENNAの一番最初のプロトタイプは、基盤を囲むだけの長方形。角があるため、それが怖い、痛そうという声が聞かれ、少しずつ今の丸みを帯びた形状へと変化。付ける場所についても、「直接肌につけるのは振動が気持ち悪い」「かぶれそうな気がする」などの意見が聞かれました。では、服につけてはどうかと試してみたものの、今度は振動が伝わりにくく感知しづらくなってしまう。

「指先や腕などいろんな部位を試しました。ろう者の方は手話を使ってコミュニケーションをとるので、腕につけるのは邪魔になります。いろいろ試行錯誤した結果、テンションがかかることで振動を感じやすく、皮膚に直接触れない髪の毛にたどり着きました」

ONTENNAには、髪の毛にクリップのようにして付けるものと、イヤリングの形をしたものの2種類があります。最初は前者の形だけでしたが、ろう者には高齢者の方も多く、髪の量も人によりけり。耳にクリップする形にすることで、イヤリングのような感覚で身につけられるバージョンも用意しました。

イヤリングタイプのONTENNA
イヤリングタイプのONTENNA

「初めて蝉の鳴き声を聞いた気がした」

もう一点、ONTENNAを開発する上での難関だったのが、振動の強さです。ろう者の人と、耳が聞こえる人とに実験に協力してもらった時のこと。オンテナを左右に1つずつ計2つ付けた状態で、音がどちらから来るかをボタンで知らせてもらうものでした。すると、ろう者の場合、刺激音があった瞬間にボタンが押され、振動にとても敏感であることがわかりました。

振動は、あまり強過ぎても不快になるし、弱過ぎると気づくことができません。現状のONTENNAは、今いる環境で発せられている音を全て伝える仕組み。そのため、例えば、渋谷など賑やかな場所に行ってしまうと常に振動します。家の中から外に至るまで、音の大きさを伝えるための適切な振動については、まだまだ模索が続きます。

家など普段の生活周辺でONTENNAをつけて生活をしてみたろう者からは、嬉しいフィードバックが寄せられています。ONTENNAを付けることで、インターホンの音と電話の音の違いがわかったり、掃除機をかけていてコードがコンセントから抜けてしまったことに気がつくことができたり(上記動画参照)。音を感じられるようになったことで、さまざまな不便が解消されています。

「ONTENNAを使ってみてくれた女性の言葉がすごく印象に残っています。「学校では、蝉はミーン・ミーンと鳴くと教わったけれど、それがどんなリズムやパターンなのかがこれまでわからなかった。でも、ONTENNAをつけることで、初めて蝉の鳴き声を聞いた気がした」と。嬉しかったですね」

2021年のデフリンピックではONTENNAが活躍?

研究プロジェクトを手掛ける本多達也さん
研究プロジェクトを手掛ける本多達也さん

ONTENNAについて知ったろう者、また聴覚障害を持つ子どもの両親などから、いつ買えるようになるのか?と問い合わせをもらうようなことも増えてきました。

とはいえ、これまでのONTENNAは、デザインや開発など適宜協力を得ながら本多さんが研究レベルで行って来たプロジェクト。量産するまでの道のりはまだ長いことが想像されますが、ラインを持って製造できるような企業との協業なども視野に入れながら、なるべく早く、多くのろう者の手にONTENNAを届けたいと考えています。

長期視点で見た時に、ONTENNのひとつのマイルストーンになりうるのが、2021年に開催が予定されるデフリンピック(deaflympics)です。パラリンピックに比べると認知度が低いかもしれませんが、ろう者のためのオリンピックです。

「少し先になりますが、2021年のデフリンピックで、ろう者の選手にONTENNAをつけて競技に望んでほしいなと思っています。例えば、陸上選手が足を踏み出すリズムやタイミングを練習するとき、ONTENNAをつけることで音を頼りにできるようになることで記録が伸びるかもしれません。ONTENNAによって新たな記録が生まれる、そんな未来がくれば良いなと思っています」

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