なぜ米国で教育系スタートアップが生まれやすいのか、解説します【ウェビナー】

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Image by NEC Corporation of America on Flickr
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以前掲載した「Facebook、公共教育向けに個人の学習状況を把握するサービスを開発」という記事ですが、大変多くの読者に読まれ、コメントなども多く大きな反響を呼びました。一方、なぜ今回のFacebookのサービスなどのように、米国では教育系サービスが次から次へと誕生するのでしょうか。MOOCsなどのオンラインのオープンコースも米国からスタートしたり、積極的にテクノロジーを教育の現場に導入したりする動きも盛んです。

こうした米国における教育系スタートアップが誕生する背景について、日本で学校向けSNS「ednity」を展開している佐藤見竜さんに、解説をいただきます。

聞き手の江口
こんにちは。まずは、佐藤さんの自己紹介をお願いします。
ednityの佐藤さん
こんにちは。Ednityの佐藤です。教師と生徒、生徒同士の学校に関するやりとりに特化したSNSサービスの「ednity」を運営しています。
聞き手の江口
なかなか知られていないかもですが、すでに国内のさまざまな教育現場でednityは使われていますよね。
Ednityの佐藤さん
そうですね。日本の公立校で初めてBYODによるiPadの購入を義務化した千葉県の袖ヶ浦高校などで活用されるなど、公立、私立問わず使っていただいています。
聞き手の江口
改めてednityについてもお伺いしたいと思っていますが、今回は先日THE BRIDGEでも話題だったFacebookの教育向けサービスの件ついて解説いただきたいのですが。
Ednityの佐藤さん
先日Facebookが公教育向けのプロジェクトを発表した、って内容のやつですね。
聞き手の江口
そうです。SNS上でもかなりコメントが付いて、読まれた記事となりました。
Ednityの佐藤さん
Facebookが公開したのは、個々人の学習状況を把握するPersonalized Learning Plan (PLP)というサービスでした。これは、生徒が先生と長期目標を定め、その目標を達成するための日々の学習計画を視覚化し、その状況が分かるようにするというものです。また、そのための教材や宿題といったコンテンツをオンラインで個々人毎に配布していきます。生徒個人の学習状況を把握し、長所と短所を理解した上で、最適な教育コンテンツを提供し成長を促すことが狙いです。
聞き手の江口
このサービス、実はかなりの時間をかけて開発されたみたいですよね。Facebookとしてもかなり熱心に取り組んだサービスだということが伺えます。
Ednityの佐藤さん
実は、Facebookのマーク・ザッカーバーグ氏は教育分野にすごく熱心で、Startup:Educationという非営利の教育団体を設立し、そこからPanorama Educationなど3社ほど教育系の企業に投資をしたり、個人でもAltschoolに出資したりしています。Altschoolでは、2016年には出資金をもとにカリフォルニアとマンハッタンの計6ヵ所にまでスクールが拡大するようです。ザッカーバーグ個人がそれだけ教育に熱心なので、企業として取り組むサービスもそれだけ力の入ったものだと思いますし、ただのサービスではなくしっかりと公教育に使われることを念頭に設計しているものと言えますね。
聞き手の江口
マーク・ザッカーバーグ氏がそこまで教育分野に投資をしてるとは思いもよりませんでした。
Ednityの佐藤さん
ちなみに、FacebookだけではなくGoogleも先日Classroomを公開したりしています。すでにAppleやMicrosoftも教育分野に参入しており、近年世界をリードするシリコンバレー出身のテック企業が、こぞって教育分野に熱心に取り組んでいます。

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聞き手の江口
なるほど。その背景にはどういったものがあるのでしょうか。なにかアメリカ特有のものがあるのでしょうか。
Ednityの佐藤さん
その背景として、これはみなさん当たり前に思うかもしれませんが、アメリカは多民族国家で様々な人種や文化圏が共存している国です。
聞き手の江口
移民も多いですしね。
Ednityの佐藤さん
はい、特に南部はメキシコ系移民やアフリカ系移民のアメリカ人が多いことから貧困率が高く、アメリカは所得格差の大きな国となっています。
聞き手の江口
親の所得と子どもの大学進学率の因果関係などが研究で明らかにされたりと、所得格差は教育格差とリンクしていますよね。
Ednityの佐藤さん
同時に、アメリカは地方分権が進んでいる国で、各州の権限が強く、学校や自治体によって教える内容や教えるやり方も自由とされています。学校によって教育の質が全然違うので、卒業後の生徒の学力もバラつきがあり、家庭の所得が高い地域と低い地域とで大きな開きが見受けられます。
聞き手の江口
なるほど。経済格差と地方分権が、アメリカの教育格差を引き起こしたといえますね。所得格差はいわば情報格差にもつながったりします。所得問題と教育問題も含めたさまざまな社会課題に対してどのようなアプローチで解決するかが問われている時代と言えますね。

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Ednityの佐藤さん
はい。そうした所得格差による教育格差を埋めるために、アメリカで卒業後の学力格差を解消する仕組みが導入されるようになりました。それは、Common Core State Standardという全米共通の学力基準が2009年に発足しました。
聞き手の江口
日本で言うところの学習指導要領みたいなものですか?
Ednityの佐藤さん
それに近いかもですね。いままでなかったのか、と驚く人もいるかもしれません。しかし、なかったからこそ自由な教育方法が確立されたと言えるかもしれません。この仕組みは、2014年に施行されました。つまり、コモン・コアは教えるやり方は自由だけど、教える内容はある程度統一しようね、という考えです。コモン・コアの動きは、EdSurgeで働いている友人の上杉周作さんが以前に詳しい記事を書いていたので、ぜひそちらを参照していただければ、詳細がわかるかと。
聞き手の江口
コモン・コアが発足したということは、これまでやってきた教育現場の人たちも大変ですね。
Ednityの佐藤さん
そうなんです。これまで通りのやり方や教育内容だと、この基準に満たない学校や自治体が多数出てきました。そこで、学校や自治体がこのギャップを埋めるためにテクノロジーを活用することが積極的だ、というのがいままさにアメリカで教育系スタートアップやさまざまなサービスが多数生まれている理由と言えますね。このあたりの行政や教育現場の動きを追いかけることで、新しいサービスのアイデアの着想のヒントが得られるかもしれません。
聞き手の江口
実際にコモン・コアが導入がされて1年経っていますが、アメリカではどのような反応が起きてるんですか?
Ednityの佐藤さん
つい先日出た資料によると、カリフォルニアで3〜8年生と11年生の320万人がコモン・コアテストを受験し、英語が44%、数学が34%の到達だったという数字がでていて、実際の結果に大きなギャップが出たことが明らかになりました。
聞き手の江口
34%とか44%が到達ってことは、半分以上が基準に満たない学力だった、ってことですか?
Ednityの佐藤さん
そうなりますね。また、経済的ハンディキャップのない生徒とある生徒では、基準到達の割合に2倍以上もの差がでたとのことで、ここでも所得と教育格差が浮き彫りになったと言えます。ニューヨーク州などでは親がコモン・コアテストに反対して子どもを試験に受けさせない、という動きもあるみたいです。色々と世論でも議論がなされている真っ最中ですね。
聞き手の江口
ありがとうございます。なんとなく、アメリカ独特の教育現場が抱える課題が少し理解できました。次回に、最近のEdTech企業の動きもぜひ解説いただきたいと思っていますが、まずは本日はここまで。ありがとうございました。

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