500 Startupsが日本向けファンド「500 Startups Japan」を立ち上げる理由【ゲスト寄稿】

james-riney_portrait本稿は DeNA の投資部門におけるプリンシパルで、500 Startups の日本向けマイクロファンド 500 Startups Japan の責任者に就任する James Riney による寄稿だ。彼が自身のブログに記載した内容を、本人承諾のもと翻訳転載した。

500 Startups は地域特化型マイクロファンドとして、東南アジア向け 500 Durians、タイ向け 500 Tuktuks、韓国向け 500 Kimchi と並んで、日本向けに 500 Startups Japan を立ち上げることを8日 Tech in Asia Tokyo 2015発表した


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左から:500 Startups マネージングパートナー Dave McClure 氏、インタビュアーの Tech in Asia コンテンツ戦略ディレクター David Corbin 氏、500 Startups Japan 責任者に就任する James Riney 氏

スタートアップのCEOを辞めてベンチャーキャピタリストになったとき(編注:James Riney 氏は、レジュプレスのCEOだった)、私は少し不思議な気分だった。もう車の運転席にはいないのに、ガソリンスタンドを運営し、将来有望なスタートアップに対し、先へと続く起業という道を進むために、彼らのタンクに燃料を注いでいたわけだ。この状態に慣れるまでには少し時間を要したが、私が出資したスタートアップの売上について、直接的な責任は感じていなかった。スタートアップに燃料を注いであげるのは簡単な部分だ(ストレスのレベルという意味で。成功の可能性においては、そうではない)。難しいのは、深い霧がかかって、アボカドサイズの雹が降り注ぎ、風も強く滑りやすい道を起業家にどう案内するかだ。

しかし、そのストレスはやがて興奮に変わる。それは、何かをゼロから作り上げたという達成感から来るものだ。毎日の小さな積み重ねの結果得られる、その力強い感情は大きなインパクトをもたらす。ある日振り返ってみると、心に描いた変化は現実のものとなる。そうだ、あなたはその変化を起こすために、大変重要な貢献をしたわけだ。

起業家の道から離れ、私は次に何をすべきか考えた。人々は私に再び会社をしないのかと尋ねた。私はこう答えたものだ。

まだ決めてない。やるかもしれないが。

実際に行動に移すまでには、多くの道のり、友人たちとの会話、熟慮を要した。何をするにせよ、我々は自らのインパクトを最大化するものを常に選ぶべきだ。インパクトとは、この世界に対する貢献の総和だからだ。そしてインパクトが大きければ、より大きな達成感が得られるだろう。

日本で 500 Startups を立ち上げることは、日本のベンチャー界がこれまでに目にした中でも、最も大きなインパクト与えるだろう。

多くの海外の投資家にとって、日本はブラックボックスである。そして、日本のことを理解している人にとっては、その方が多くのビジネス機会が隠れていることになり都合がいい。日本に対する共通した見られ方は次のようなものだ。

  • リスクを嫌う社会。
  • 起業家に対して、資金が不足。
  • 閉ざされた企業文化。

多くの場合、これらの理解はすべて正しい。しかし、物事は変化しはじめた。その状況を説明しよう。

まず、変化の兆しを悟るには、なぜ物事がそのように変化したのかを理解する必要がある。そのために、日本の全盛期だった1980年代を振り返ってみよう。

日本の典型的な就職フェアでは、希望に満ちた多くの学生が安定した職業を求めて長い列を作っていた。

30年前、頭がよく若い日本人の合理的なキャリアパスは、大企業に就職することだった。仕事の出来不出来に関わらず、定期的なボーナスと昇給のある職業を一生保証されたからだ。大企業に勤めることはいいことづくめで、リスクはなかった。

しかし、それは数十年前のことで、多くのことが変化した。80年代後半から90年代前半に生まれた人々は、大企業が全盛だったバブルを経験していない。彼らはいわゆる「失われた10年」に育った。「失われた20年」と呼ぶ人もいる。そして彼らが社会人となった今、その安定した大企業が積極的にレイオフをしている。

大企業はかつてのような生活の安定を提供できなくなった。そして、大企業に勤めることで得られるメリットとリスクの比率は、今日の頭のよい若い日本人にとっては意味が無いものになった。それに加えて、日本人のエンジニアの収入は、シリコンバレーのレベルには程遠い。頭のよい日本人エンジニアなら、大企業に入社するより、起業するかスタートアップに入った方が収入は遥かに伸びる可能性があるわけだ。

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起業家としてのキャリアパスの捉えられ方も変化しはじめた。大企業で究極の安定を経験したことのない若い人々のみならず、起業を通じて素早く富を形成した人たちをも巻き込んでだ。世界中の Facebook 的、Uber 的、Airbnb 的サービスは、驚くほどの数の若い億万長者を送り出してきた。彼らが金持ちになるのを助けたのは、この若者達の両親が入社を勧めた昔ながらの大企業ではない。

こうして進んだ変化がどれほど重要かを知ってもらうために、2008年と2014年を比較してみよう。この期間の間に、大学生の作ったスタートアップ「寮内スタートアップ」の数は、日本のトップの大学である東京大学と京都大学で、それぞれ57%および31%増加した。これらの大学は、誰しもがうらやむ政府、銀行、大企業の職に人材を輩出してきた。同じ期間で大学発の公開企業の数を見てみると、ほぼ倍になっている。

時代は変化している一方で、起業家がアイデアを具現化するのに必要なシード資金の不足は相変わらずのままだ。アメリカ、中国、あるいは、ちょっとしたスタートアップに歯医者が小切手を書いてくれそうな場所とは違って、日本ではエンジェル投資に対する考え方は、まだまだ始まったばかりだ。エンジェル投資の規模が、アメリカの240億ドルに対して、日本は10億ドル1.67億ドル(原文更新に伴い修正)という数字を見れば、その差は歴然だろう。クラウドファンディングでは、この差はさらに大きなものとなる。アメリカでは27億ドルに対し、日本では1,000万ドルだ。

日本では、ベンチャー投資でさえ、あまり大きなものではない。アメリカの480億ドルに対して日本は9.6億ドル、その差は50倍である。簡単に計算してみると、アメリカの750億ドルに対し、日本の起業家には概ね20億ドル12億ドル(原文更新に伴い修正)が用意されていることになる。20億ドルと言えば、シリコンバレーの大型ファンド1つか2つの大きさだ。12億ドルと言えば、Andreessen Horowitz の4号ファンドより小さい(原文更新に伴い修正)。世界第三の経済にしては、この不均衡は大き過ぎる。

ここにこそ、500 Startups がインパクトを与えられる理由がある。我々は、日本でアクティブに投資をする、最初の有名シリコンバレーVCとなるだろう。日本市場に対して深い見識を持ち、かつグローバルにもリーチできる投資家は、日本には他に存在しないだろう。500 Startups の投資により、日本のスタートアップはブラックボックスの中のものではなくなる。彼らは、世界的に認知されたブランド、シリコンバレーの専門知識、世界規模で戦えるネットワークを獲得することになる。500 Startups が、日本のスタートアップ・エコシステムで今までに見たことのない、投資や M&A の世界へとドアを開くのだ。

私にとっては、これがインパクトだ。LP に対して多くのお金をもたらす以外にできることがあるとすれば、日本の起業やイノベーションに形のあるインパクトをもたらすことだ。20億ドルという資金規模を大きなものにしたい。日本のスタートアップがグローバルに戦えるよう、50億ドル、100億ドル、そしてそれ以上にしようではないか。だからこそ、我々はこれを実行するのだ。これこそ、500 Startups Japan のミッションだ。

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