Quai de Valmy, Paris January 2013 (Source: Wikimedia Commons )
THE BRIDGEウェビナー はニュースや新しいトレンドを詳しく解説するウェブセミナーです。
THE BRIDGE で「ファッション 」のカテゴリで検索してみると、さまざまなスタートアップの名前が表示されますが、その多くはこれまで、Eコマースや O2O の一部として語られることが多かったように思います。人工知能やウエアラブルデバイスなど高度な技術のコンシューマライゼーションにより、これらをファッションビジネスに適用したファッションテックがにぎやかになりつつあります。
THE BRIDGE でも以前紹介 したスタイラー の小関翼さんが先ごろ、ファッションテック分野のスタートアップを網羅したカオスマップを発表されました 。このマップをもとに、今回は小関さんに、日本や世界のファッションテックのマクロトレンドについて解説いただきます。
スタイラーの小関です。ファッションの提案ができる O2O アプリ「STYLER」を運営しています。以前は Amazon に勤務しており、ライフスタイル領域で日本発のイノベーションを起こすことを目指して、今年3月にスタイラーを設立しました。
まずは、現在のファッションテックのトレンドを教えてください。去年から今年にかけて、特に勢いづいているアプリやサービスの分野、廃れていっているビジネスモデルはあるでしょうか。
パーソナライズ(Personalize)がキーになっています。今回の Fashion Tech Map のB2BでもB2Cでも、データをいかに活用して一人一人のお客様に合った服を作るか、売るかといったものが多いですよね。ただ、これはファッションだからと言って特別視する必要はなく、他の産業でも同じです。もともと僕がいた金融だって一人一人に合った資産運用を提案すべきだし、衣食住の「食」と「住」もそう。特定の業界を特別視するのは逆に物事の本質を見落とすと思います。
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僕自身は第三の波が来ていると思っていて、第一世代は洋服をインターネットで販売していた。でも、ファッションは売り手と買い手で情報の格差が大きいので、第二世代はその格差をコーディネートやビジュアルで補っていました。MapだとVirtual Stylistのところですね。第三世代はコミュニケーションが積極的に介在します。既に現実は先行していて、
タオバオ(淘宝)など中国のECはチャットの組み込みが普通 になっています。そこで値切ったりもするそうです(笑)。
なるほど。サードウェーブはコーヒーだけじゃなく、ファッション界にもやってきているわけですね。チャットを使ったEコマースは以前、THE BRIDGE でもタイのEコマースを取り上げたときにも
触れました 。他にも、いくつか教えてもらえますか?
なるほど。生き残り策ですか。話は変わりますが、例えば、フィンテックならロンドン、ハードウェアなら台湾のように、ファッションテックをやるならここ、のようなスタートアップ・ハブは世界に生まれてきているのでしょうか?
スタートアップ・ハブについては、東京や大阪などの日本の都市にもチャンスがあると思います。ただ、デコーデッド・ファッションの創始者リズ・バセラー(Liz Bacelar)が東京に来た時も言っていましたが、東京でデコーデッド・ファッションを開いた理由は、コンデナスト・ジャパンに呼ばれただけで、中国に呼ばれていたら中国で開いていました。そして、デコーデッド・ファッションはニューヨークやロンドンの方が先行して誘致に成功しています。
日本のファッションテックの潜在的な可能性は高いと?
日本は一国内で生産から消費まで分厚いファッション・ビジネスが存在するので有利なんですよね。下の図は経済産業省が2014年に発表した、各地域のファッション産業の価格別ピラミッドです。下からファストファッション、ミドル、ラグジュアリーです。基本的に所得に応じていて、日本はミドル価格帯のブランドを多く楽しんでいます。
出典:経済産業省「日本ファッション産業の海外展開戦略に関する調査」2014
来年、東京でファッションテックのイベントを開催されるとか。
はい。ファッションテックの事業者が主体となったイベント、Fashion Tech Summitを2016年1月に開催して、東京をファッションテックのハブ化することに貢献したいと思います。
ファッション・テックにおける、オープン・イノベーションの事例(ファッションメーカー × スタートアップ)などの事例があれば、教えてください。
これは有名な話ですが、バーバリー(Burberry)が2008年に「Runway to Reality」という、コレクションをインターネットを介して生中継し、かつ直後に注文も受け付けました。
成功を収めた 当時のCEOアンジェラ・アーレンツ(Angela Ahrendts)は、今は
アップル(Apple)の副社長 です。これらの老舗ブランドでもウェブの知見を活用していることを考えると、ファッション・メーカー × スタートアップが今後拡大してもおかしくないと思います。
最近のファッションテックで言えば、
Polyvore の Yahoo による買収 が大きな動きの一つだと思っています。買収額は2億ドル以上と言われています。このケース、または、他のケースでもいいのですが、小関さんの見解をお聞かせください。
正確な買収額については存じ上げないので金額の多寡は触れませんが、ファッション市場の規模やPolyvoreが抱えていると言われている月間2000万人のユーザーを考えると、
良いディール だったのではないでしょうか。また、今後もファッションに知見のある企業を取り込むケースが増えるかもしれません。というのも、アパレル企業がウェブの知見を取り込むのが難しいように、ウェブ企業がファッションの知見を得るのも難しいんですよね。
今年東京で開催された新経済サミット2015で登壇 する、Polyvore の創業者でCEOのJess Lee氏(右)。左は、メイクアップ・アーティストで世界的 YouTuber の Michelle Phan 氏。
そうすると、M&A というのは双方にとって良い選択肢であると。
ええ。以前、人工知能の研究者として著名な東京大学の松尾豊さんと
Deep Learning(深層学習)について対談 したのですが、FacebookやInstagramといった大手SNSでも、ファッションを画像解析するのは難しいんですよね。アップされる画像はユーザーがお洒落をしている時の服装だから、普段の格好を読み取ることが難しい。むしろファッションサービスやインストアでのユーザー行動が購買にとっては重要かもしれないですね。
なるほど、ありがとうございました。知見に富んだ小関さんならではの分析、ファッション業界に疎い私にも、世界のファッションテックの状況が垣間見られたように思います。これからもまた、いろいろ教えてください。2016年1月の Fashion Tech Summit も楽しみにしています。
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