本稿は Startup Istanbul 2015 の取材の一部である。
5日(現地時間)、トルコ・イスタンブールで年次のスタートアップ・カンファレンス「Startup Istanbul 2015」が開催され、中東・西アジア、東ヨーロッパ・北アフリカの国々の起業家、欧米の投資家らが一堂に会した。このイベントには世界68カ国から100社のスタートアップが集められ、トップの座を争うピッチ・コンペティションが実施された。ピッチの模様については改めて書くことにするが、Startup Istanbul の中で興味深かったセッションについて取り上げてみたい。
Startup Istanbul 2015 の冒頭には、自身も起業家であり起業家教育に力を注ぐ Steve Blank 氏が登場し会場を沸かせた。
Blank 氏は近年、さまざまな形式のスタートアップが姿を現し始めていることを指摘し、corporate startup(企業内スタートアップ、いわゆる intrapreneur に近いと考えられる)も、social startup(金銭的な見返りよりも、社会的な意義を尊重するスタートアップ)も、いずれもスタートアップだと説明した。
その上で、Blank 氏はスタートアップを「再現可能(or ピボット可能)かつスケールする可能性のあるビジネスモデルを探求し続ける上での一時的な組織体系(temporary organization in search of repeatable (or pivotable) and scalable business model)」と定義づけた。
スタートアップに求められるのは、ディストリビューション・モデルを見出し、ビジネスモデルを見出し、誰が客を考え、 MVP(Minimal Viable Product、実用最小限プロダクト)を作り上げること。企業の90%以上は失敗する。しかし、その失敗におめでとうといいたい。
スタートアップとは、アメーバのように形を変え続けるものだ。増えては消え、時には分裂し、中には消滅することもある。一般企業の四季報と違って、スタートアップのデータベースをメンテナンスするのは、それゆえ大変だったりするわけだが、仮に IPO したとしても、変化し続けることを忘れたり、恐れるようになったら、もはやスタートアップではないのかもしれない。
起業家とは仕事ではない。それは、衝動に駆られるもの(calling)だ。スタートアップの世界では皆、ローカル vs. グローバルみたいな話をする。しかし、どんな国にだって地域市場は存在する。トルコには6,500万人もの人口がいるでしょ。トルコのスタートアップの人たちには、ぜひ、自分たちの地域の情報やアドバイスを、ブログや Wiki を作ってシェアしてほしい。(Blank 氏)
また、政府には助成金などの形でスタートアップにお金をばらまくのではなく、スタートアップの自発的なエコシステム形成を支援してほしいと付け加えた。
続いて、500 Startups からは Dave McClure 氏が登場、世界中の人々がシリコンバレーを目指す中で、むしろ、自分のいる国や地域でスタートアップすることの意義を訴えた。
シリコンバレーなんて、みんな、シリコンバレー以外の地域から来た人たちの集まりに過ぎない。シリコンバレーとは、(場所ではなくて)精神の状態(state of mind)のことを言うんだ。世界中、どこに居たってスタートアップはできる。

500 Durians、500 Tuktuks、500 Kimchi、500 Startups Japan など、世界各地で地域特化型マイクロファンドを続々と発表している 500 Startups だが、この日、500 Startup Turkey の設立と、同マイクロファンドを担当するトルコ現地のベンチャーパートナーとして Erhan Erdogan 氏と、ファンドマネージャーとして Erbil Karaman 氏が就任することを発表した。500 Startups では同社が出資したスタートアップが一定のイグジットを経た後も、その元創業者や関係者を Entrepreneur-in-Residence (EIR) などとして関係を維持し、状況にあわせて、マイクロファンドの運用責任者に抜擢したりしているようだ。
日本からは、先ごろ新ファンド「BEENEXT」のローンチを発表した佐藤輝英氏がファイヤーサイドチャットに登壇した。Beenos の頃から、佐藤氏はトルコのスタートアップに積極的に投資を行っており、この地域の起業家にとっては憧れの存在だ。
佐藤氏はモデレータからの、投資先のスタートアップをどのようにコーチしているか、との問いに次のように答えた。
トルコでもインドでも、私は外国人であり、当地の市場のことは当地の起業家が一番よく知っている。何かをアドバイスすることはできない。
我々ができるのは、起業家と話し、その起業家を信じること。そして、その起業家に情報を与えること。投資先のスタートアップ同士で、自分たちの秘訣をシェアし合えるような環境を作ること。それだけだ。
佐藤氏は以前にも言っていたインドやトルコのEコマース関連のスタートアップに投資を続ける理由、BEENEXT がインドへの投資を活発化させている理由を披露し、聴衆の関心を引いていた。
この記事にもあるように、MENA では総じて起業意欲が高まっており、筆者が会場や周辺イベントで話を聞いた限りでは、特にイランにおけるスタートアップ・コミュニティの隆盛が著しいようだ。クレジットカードやオンラインバンキングなど先進国的なインフラが未整備な市場ながらも、各種インターネット・サービスへのニーズが高まっている、イランの起業家の話によれば、この一年間でイランだけでスタートアップ・アクセラレータが6つ新たに生まれており、Techly や ItIran などといった IT やスタートアップに特化したメディアも立ち上がってきている。
西アジアや中東のスタートアップの多くは、自国でローンチした後、次の活路をイスタンブールやドバイといった地域のハブ都市に求め、欧米をはじめとする全世界向けのサービスを開発して資金調達に成功した後、ニーズに応じて、よりアクセスのよい世界の都市へと飛び立って行く、というシナリオが形成されつつあるようだ。
Startup Istanbul のクロージングの折、司会者にステージ上に呼び出された Startup Istanbul のプロデューサーで、トルコのインキュベータ eToham の創業者 Burak Buyukdemir は「来年は、Startup Istanbul ではなく Startup MENA になるかもね」と語っていた。

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