カイロのスタートアップシーンは今(後編)ーー注目の現地スタートアップにインタビュー

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カイロで開催された地域最大規模のスタートアップイベントRiseUp Summitのフィナーレ
カイロで開催された地域最大規模のスタートアップイベントRiseUp Summitのフィナーレ

スタートアップシーンが徐々に盛り上がりを見せているMENA(中東、北アフリカ)地域。地域最大規模のスタートアップイベント RiseUp Summit への参加を通じて、学んだこと、感じたことを前回は「元大学キャンパスをテックハブへと変えた「スタートアップの父」とは?」でお届けした。

今回は、具体的に地域でどのようなスタートアップが注目されているのかを紹介したい。

Slickrーーソーシャルショッピングができるファッションeコマース

今回は、私にとって初めてのカイロ訪問だったので、MENA地域のスタートアップとほとんどコネクションがなかった。なので、とりあえずイベントで出会った人々に「この地域で注目されてるスタートアップはどこ?」と聞いていった。ある若い女性の「私は Slickr」をお勧めしたいわ!というコメントがきっかけで、Slickrのコーファウンダーである Maria S. Munozさんに話を伺うことにした。

Slickrのコーファウンダー、Maria S. Munozさん
Slickrのコーファウンダー、Maria S. Munozさん

SlickrはファッションのEコマースプラットフォームにSNS機能を追加させたもの。ユーザー同士フォローし合うことができ、コメントを付け合うことができる。こうしたソーシャルなつながりを作ることによって、サイト上の滞在時間とリターン率を高めることが狙いだ。8ヶ月前のローンチ以降、カイロの90のブランドがプラットフォームに参加して、7000名のユーザーを惹きつけた。10代後半から30代の若者がターゲットだ。

一方で、カイロならではの課題も共有してくれた。インターネット普及率は40パーセント程度であり、銀行口座を持っていない人口も多い(正確な数は不明だが、人口の35パーセントが銀行口座を持ち、94パーセントの決済は現金で行われるというレポートもある)ため、オンラインでの買い物はまだ人々にとって一般的なものではない。こうした状況下でもっとも普及しているEコマースサイトはJumiaであり、1500人もの従業員を持つ同社は新興国市場でビジネスを立ち上げることに長けている、ベルリンに拠点を置くインキュベータRocket Internetに支援されている。

Munozさんは、カイロのスタートアップシーンについて「とても勢いがあるし、将来の可能性も大きい」と語りつつも、自身の事業については「カイロでやっていくには限界がある。ファッションが熱いロンドンに事業を展開する予定」と話してくれた。

Cash Bashaーー現金のみでAmazonで買い物ができるようにしたい

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Eコマースに関連して、Cash Bashaも紹介したい。クレジットカードや銀行口座を持っている人が少ないことが、Eコマース普及の一つのネックになっていることを書いたが、Cash Bashaは、まさに決済手段として現金だけしか使えない状況であってもAmazonでの買い物を可能にするサービスだ。ローカルの提携ショップまたは自宅で現金を支払い、その確認がされたら、Amazonでの購入手続きが進められる。

欧米や南米の新興国を中心に展開しているAmazonは、MENA地域には未進出である。だが、Amazon.comやAmazon.co.uk にある、地元で買えないような商品はカイロの人々にも人気だ。手数料や税金が上乗せされるものの、需要は大きいようだ。Cash Bashaは、そんなAmazonで買い物したい人をサポートするサービスなのだ。

Kotobnaーー誰もが作家になれるプラットフォーム

「村上春樹の大ファンなんだ。アラビア語でも出ているし、エジプトでも彼は人気だよ」と日本人の私を見かけて声をかけてくれたのは、Kotobna.net のファウンダー、Mohammad Gamalさんだ。Kotobna.net は、電子ブックプラットフォームだ。

Kotobna.netのファウンダー、Mohammad Gamalさん
Kotobna.netのファウンダー、Mohammad Gamalさん

「エジプトで本を出版したいと思ったら、選択肢は二つだけだ。一つは大きな出版社から出す。でもこれは有名な作家でないとできない。知名度がなければ、小さな出版社にあたるしかないが、彼らはただお金をとって本を印刷するだけで、マーケティングも流通もやってくれないんだ」と、Gamalさんはエジプトの出版業界の課題について指摘する。そこで、誰でも自分が書いた本を簡単に出版できるような、オンラインの出版プラットフォームの必要性を感じ、自ら立ち上げることにした。

2015年4月にローンチしてから、200の書籍がKotobna.net上に登録され、ユーザーは6000名、ダウンロードは1万1000件に達したという。面白いのはプライシングで、著者はサイトに登録するために年間8ドルを支払い、売上の60パーセントを受け取る。そして、個々の本の値段は、多くのユーザーが購入すればするほど、つまり人気に応じて徐々に上がっていくのだという。

Gamalさんによれば、アラビア語圏において、モバイルで読書をする人々の数は、スマホの普及に伴ってここ5年で6倍ほど増えたという。また、このサービスはアラビア語を読む人すべてをターゲットにしているため、エジプトだけに限る必要もない。アラビア語圏全体の市場シェアを少しずつ伸ばしていきたいと、語ってくれた。

Transi.Toーーカイロの公共交通機関の情報をモバイルで検索

Transi.Toは、カイロの公共交通機関マップを提供し、市民が効率的に市内を移動できることを目指すアプリ。このアプリが生まれた背景には、カイロでは公共交通機関のマップやスケジュールが整備されておらず、渋滞もひどいという深刻な状況がある。さらに、もっとも大変なのは「公共交通機関のデータが不足していることです」と、ファウンダーのHoda Mahmoudさんは語る。そのため、現在のアプリのデータはクラウドソーシングで取得したものを使っている。

Transi.Toのファウンダー、Hoda Mahmoudさん
Transi.Toのファウンダー、Hoda Mahmoudさん

確かに、筆者も実際に体験してみて分かったのだが、カイロの交通事情はかなりカオスな状況だ。約1800万もの人が住むカイロは常に渋滞がひどいし、バスの運行状況も、そもそもどれが市営のバスなのかさえも初心者の私には分からなかった。Uberの人気が出るのも納得である。公共交通機関のデータが整備され、それがモバイルでさくさくと検索できるようになったら、どれだけ便利になることだろう。

また、Mahmoudさんは女性のファウンダーならではのチャレンジについても語ってくれた。もともとGoogleに勤めていた彼女は、スタートアップに専念したいといってGoogleを辞めたときに、両親から「安定している職をなぜ手放すのか」と反対されたそうだ。また、男性の方が信用が得られやすい社会であるため、女性ファウンダーは特に事業が安定するまでの初期の頃は苦労することが多いとも話してくれた。そのため、立ち上げ時にはビジネスの場には父親に同伴してもらう女性ファウンダーもたまにいるとのことだ。

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今回ご紹介したのは、まだローンチまもないスタートアップだが、ドバイでスタートし中東のUberとして注目される Careem や、エジプトの採用プラットフォームとして注目される Wuzzuf、死亡情報を知らせるプラットフォームEl wafeyat などは、その成長が特に注目されている。Careemは、先月11月にシリーズCで6000万ドルを、WuzzufもシリーズAで500 Startupsなどから370万ドルを今年8月に調達している。

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