これから世界を制するのはオープンソースソフトウェアだ

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John Vrionis は2006年からLightspeed Venture Partners のゼネラルパートナーを務める。アーリーステージの企業とコンシューマーテクノロジーに主に投資をしている。 DataStax、MuleSoft、Cloudbees、Docker など、多くのOSS企業に出資をしてきた。Lightspeedのサマーフェローシッププログラムのファウンダーも務める。

via Flickr by “A Health Blog“. Licensed under CC BY-SA 2.0.
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Lightspeedは過去10年間、オープンソースソフトウェア(OSS)ビジネスに積極的に投資してきた。最近は、オープンソーススタートアップをピッチする起業家も非常に増えてきており、競争もより激しくなっている。私たちは、OSSビジネスおける利益や資金調達の増加傾向の測定を試みており、今回、ここ数年の間の数字をまとめてみた。結果は圧倒させるようなものであった。

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明らかにオープンソースソフトウェアの人気は上昇してきている。この5年の間のOSS企業への投資額は、その前の5年間と比較してほぼ10倍増加している。しかし、VCや起業家だけがOSS企業に殺到しているわけではなく、すべての業種、規模の企業が記録的な数でOSSを使用している。

今年1,300の解答を得た年次発行の「オープンソースの将来」という調査においては、対象となった企業のうち78%が内部でオープンソースソフトウェアを使用していることが明らかになった。2014年の調査では、オープンソースプロジェクトに参画している組織が存在すると回答した企業は50%であったが、今回は64%と上昇している。この傾向を見ると、その理由を問いたくなる。

これまでのソフトウェア

25年強前、企業向けにつくられたソフトウェアのほぼすべては「トップダウン」で売られていた。豪華なスーツを着た高級な営業担当者が、経営幹部とワインや夕食を共にするために世界中を飛び回り、自社のプロプライエタリなソフトウェア製品を、あたかも新たな世界観であるように布教して回っていた。営業担当者がうまくやれば、CIOは自らの組織にその新しいソフトウェアを購入する決定を「下し」、バイスプレジデントや開発者は単にそれを使うのみである。購入する決定を下さなかった場合は、何も起きない、ただそれだけである。

およそ10年前、革新的な製品とそれに適合したビジネスモデルの両方を兼ね備えたスタートアップの潮流が巻き起こっていた。SolarWinds, AppDynamics, Splunk, New Relicといった企業は、Web経由でダウンロードできるフリーミアムな製品を開発し、バイスプレジデントや開発者のレベルのIT担当者に対して即座に価値を提供したのだ。これらの会社は、製品が使われる前から高級な営業担当者に費用をかけたりはしない、という点で大きく異なっていた。

フリーミアムな製品という方法をとることによって、顧客の初期エンゲージメントを測定し、採用に興味がある顧客にだけ有償での改良版を使用するように働きかける、というやり方が可能になったのだ。このやり方は、従来なされてきたプロプライエタリな、布教的なやり方よりもはるかに効率的(言わば、高級でない)なやり方であった。オープンソースソフトウェアビジネスはこの方向性への進化のステップである。

意思決定力の破壊的な変化

開発者のみなさん。Steve Ballmer氏の情熱的な(そして、汗臭い)ひとりごとを覚えているだろうか? 彼は当時正しかったが、今ではさらに正しいといえる。過去20年において、IT組織における意思決定の力は本質的な変化を遂げた。以下は私が起業家との会議でよく描いている絵である。ITの世界がどのように進化してきて、よいスタートアップはこの進化を利用するために製品戦略や市場参入計画をどのように変化させてきたのか、ということをこの絵は表している。

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CIOやバイスプレジデントといった層の人たちは、会社が何のソフトウェアを使うかを決定するのは自分たちだ、といまだに考えているが、現実には、開発者がかつてないほどの決定権を持っているといえる。どんな組織も、ソフトウェアをよりよく、より早く、より安くつくるという熾烈なプレッシャーにさらされている。開発者は電光石火のごとく行動し、大規模にもスケールするソフトウェアを開発するように要求されている。

新しい課題を素早く解決しようとしたり、仲間から勧められたものを活用したりする開発者の営みの中で、オープンソースソフトウェアはIT環境に持ち込まれている。組織の中での利用は素早く広がり、バイスプレジデントや経営幹部が気づく前にしっかりと根付くことはよくあることである。このことこそが、OSSビジネスを最高のビジネスモデルたらしめているのである。

最高のスタートアップは改宗者に聖書を売る

新しい宗教を布教するのは大変な仕事で、なおかつ大きなコストがかかる。このことはプロプライエタリなソフトウェアを売ることと本質的によく似ている。一方で、信ずる者たちに清書を売るのははるかに容易だ。OSSビジネスはすでに改宗した者に聖書を売るようなものである。

営業担当者は採用に向けた見込みが十分なときに顧客に接する。多くの場合は、電話やEメールで顧客に接することができる。このやり方は全体の経営効率や営業力を大きく改善するため、長期ビジネスの観点で非常に大きなプラス効果がある。

さらに良い点がある

開発者がITに関する決定権をより強く持つ、という変化の潮流や、長期に渡る効率的な営業マーケティング、という利点に加えて、OSSビジネスにはさらに独特の優位性がある。それは、製品と市場の適合を無償で実施できる点である。どういうことか?以前に言ったことがあるが、スタートアップからものを買うのは、相当困窮している人たちである。スタートアップの初期段階で起業家がやるべき一番の仕事は、どの市場セグメントが足がかりになるかを見出すことである。実際、多くのスタートアップはこの足がかりを見つけられずに失敗する。

プロプライエタリなソフトウェア企業にとっては、最初のセグメントを見つけるために多くの予想を立てる必要がある。起業家たちはどういう人が最初の見込み顧客になるかの仮説を立ててきた。彼らを見つけだしてインタビューし、無名のスタートアップと連携するというリスクを取ってでも解決したい悩みを抱えている人を探す、という活動に大きなエネルギーを費やす。そういう人が見つかることもあるが、多くの場合は見つからないものである。

OSSビジネスは顧客を見つける過程を完全にひっくり返してしまう。オープンソースソフトウェアは野に置かれ、興味がある人からの引き合いはすぐさま企業に届けられる。起業家たちは実際のデータと利用ケースにより、技術的、ならびに営業マーケティング的リソースをどこに集中すべきかを判断することができる。これはとてつもなく役に立つし、重要なことである。想像するまでもなく、データによって、限られた資源の中で優先順位を付けやすくなる。

豪華なスラックスを履いたソフトウェア担当者からものを買いたくない、という現代的な開発者に対しては、オープンソースソフトウェアは文化的に合う。人は何かを買う前に試してみたくなるものである。欲しいのは柔軟性とスピードである。似たような者からの買い入れやフィードバックが欲しいものだ。

オープンソースソフトウェアは使ったり、中を見ることは誰でも自由にできるため、プロプライエタリソフトウェアよりもはるかに柔軟だ。そして、著名なオープンソースプロジェクトの周りには大きくて活発なコミュニティが構成され、信頼性は高くなる。ひとつの組織に制御されるプロプライエタリなものと比較して、コードの改善や安定化の速度ははるかに速い。

問題はなにか

OSSは企業のマネタイズの機会を失わせる、という理由で、多くのVCはOSS企業に大きく投資する価値を感じていない。無償で入手できるソフトウェアになぜお金を払うのか、と彼らは言う。そして、IPOがほとんど存在しないということを、その言い分の証拠として引き合いに出す。

理解すべき重要な点がある。それは、すべてのOSSビジネスが同等に作られているというわけではないということである。よいビジネスというのはどんな種類のビジネスであっても、徐々に営業レバレッジを示していく必要があるものである。営業レバレッジは、必要経費よりも売上の方が速く増加していくときに発生する。OSSプロジェクトのサポートを販売するだけのビジネスには営業レバレッジは発生しない。サインした顧客をサポートするために1:1の割合で人を追加していく。実態として「人ビジネス」であり、粗利益や純利益は低く、評価額もそれに応じたものになる。

将来ITの柱となるOSS企業というのは、成功したOSSプロジェクトを営業、マーケティング、技術的優先順位付けのために使い、プロプライエタリな拡張を含む製品やビジネス戦略を持っている会社である。セキュリティ、運用管理、インテグレーション拡張などがあり、サポートがついてくるエンタプライズ向けバージョンというものに顧客は喜んでお金を払うということを、こういった企業は理解している。

そしてまた、性能改善のような手段でプロジェクトを支援しておくことで、こういった種類の機能性をプロプライエタリに持っておいてもコミュニティから孤立したりすることはないということも、こういった企業は理解しているのだ。

乞うご期待

OSS企業のIPOの成功の波はやってくる。組織の中の力学は変わり、明らかに開発者が決定権を持つようになってきている。世界で通用する起業家たちは、製品と市場の適合を見つけることや、コミュニティを活用すること、成長するために効率的な営業マーケティングの原動力をつくることなど、OSS企業が収益を上げるためその優位性を活用する方法をよく理解している。

過去5年で40億米ドルを集めた31の会社すべてが勝利を収めると言っているわけではない。まだコツをつかめていない企業もある。しかし、独特で、極めて革新的で、長距離型で勝者になり、エンタプライズソフトウェアの次の大きな柱になるであろう企業もこの群のなかに存在している。乞うご期待である。

【via VentureBeat】 @VentureBeat
【原文】

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