KK FundのゼネラルパートナーAlan Kuan Hsu(徐冠華)氏が見る、2016年の東南アジア・スタートアップ市場

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Above: Kuan Hsu, general partner at KK Fund Image Credit: Kuan Hsu
KK Fund のゼネラルパートナー Alan Kuan Hsu 氏

Kuan Hsu 氏はシンガポールを拠点とする KK Fund のゼネラルパートナーであり、Channel News Asiaのテレビ番組 Start-UP シーズン3のジャッジとメンターも務めている。GREE Venturesの元プリンシパルであり、台湾生まれのローカルスーパースターは東南アジアの市場から Start-UP の撮影まで飛び回り、同時に様々な取引に関わっている。

Kuan 氏と同じくゼネラルパートナーであり、以前日本のベンチャーキャピタル会社 IMJ Investment Partners のパートナーでもあった斉藤晃一氏はこの地域のシードラウンド、またプレシードラウンドのスタートアップに重きを置くため、今年初めにKK Fund をローンチした。Kuan 氏も斉藤氏も共にシンガポールを拠点としているが、頻繁に東南アジア、北アジア、時にはアメリカにを旅をする。KK Fund は2つ目のファンドの資金調達の真っ只中にある。

Start-UPは、Apprentice(BBC で放送)と同類の勝ち抜き方式のテレビ番組であるが、8から10のエピソードに渡って、ローカルのスタートアップチームが難題(例えばクラウドファンディングなど)に取り組む過程を追う。3か所のブートキャンプから最終的に8チームが選ばれ、グランプリを競う。現在ミャンマー、ジャカルタ、シンガポールで進行中である。全部で60チーム近くが参加している。

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投資綱領をつらぬく

だが、この記事はそのテレビ番組についてのインタビューではない。

Kuan 氏は VentureBeat のインタビューの中で次のように語った。

この『東南アジア』のスタートアップのエコシステムが一般の人々にもよく知られるようになってきたと思います。この種の技術的発展はシリコンバレーのみで起こり得ると考えていた人々が、ここ東南アジアでも起こっていることを理解し始めているのです。

KK Fund の投資綱領は、初めて機関から出資を求めているアーリーステージのスタートアップをターゲットとしている。これらアーリーステージのスタートアップは、ビジネスモデルはまだ具体的でないことが多く(あるいはおそらくピボットに直面する)、そのためチームのクオリティの方がより重視される。ラウンドごとの投資額は10万米ドルから25万米ドルの間が相場である。

ファウンダーやチームに圧倒されるあまり、理想のアイデアだけの段階で KK Fund が彼らに出資をしたこともあるが、そういった例は出資案件の大半を占めない。Kuan 氏によると、こうしたアーリーステージで出資をするべきかどうかを決定するための最良の指針は、その起業家の過去の経験や経歴である。

「シリアルアントレプレナーの方が大概は良いです。基本的には」と彼は言う。KK Fundの投資先の一つ、マレーシアに拠点を置くKaodim は、最近11月にシリーズAで400万米ドルを調達した。KK Fund は、消費者の視点を持つスタートアップを好んでいる。東南アジア以外では、台湾と香港の市場に興味をもっている。

KK Fundの投資綱領は変わらないでしょう。特に、新しい投資提供であふれかえっている時に多くのファンドに起こるように、投資綱領をぐらつかせたくないのです。『資本展開が間に合わないし、リミテッドパートナーに結果を出す必要もある。』と考えるファンドもあるでしょうが、以前に経験もない、良く知らない投資綱領を試すべきでしょうか。勝負の途中で賭けを変えるのは、危険です。

GREE Ventures 東南アジア事業のベンチャーキャピタリストとなる前、Kuan 氏はアメリカのマッキンゼーで経営コンサルタントとして働いていた。そしてテクノロジー、メディア、通信分野のM&A投資銀行家としてニューヨークのゴールドマンサックスで経験を積む。やがてシンガポールに引っ越し、Temasek Holdings のプライベートエクイティファンドで働いた。

Above: KK Fund portfolio companies
上:KK Fund のポートフォリオ企業

騒がしくなりつつある地域で、抜きん出るために

彼の本拠地である台湾については、こうコメントしている。

残念ながら、台湾のスタートアップへの資金提供はかなり難題です。ハードウェア以外のスタートアップのための支援拠点は無きに等しい、というのが一般的な評判だと思います。ハードウェアに関してはもちろん、 TSMC、MediaTek、Asusなどのおかげで、台湾は世界的に知られています。しかし、ソフトウェアに関しては同じような成功例はないのです。

しかしながら、状況は著しく進化していて、Appier、EzTable、Gogoro、VM5といったスタートアップが台頭してきたため、「国際的なベンチャーキャピタリストは台湾市場を無視できなくなっています」とも続けている。

KK Fund は、マーケットプレースとeコマースの実行者への投資を継続する。まさに、そのエリアこそ「成長カーブの真っ只中にある」と信じているからだ。東南アジアで増加している中流階級の波に乗っている、金融包摂、ロジスティックス管理、教育工学のスタートアップなども、彼らのファンドにとって魅力的なターゲットである。

今までに、Kuan 氏と斉藤氏はマレーシア、シンガポール、インドネシア、フィリピンで複数の投資を行い、現在はタイでの投資をクローズしようとしている。またベトナムのような、他の市場も注目している。

地元の言語でコミュニケーションが取れない場合、ベトナムは難しい場所です私はそれを個人的に経験しました。マレーシア、タイ、インドネシア、フィリピンなどの市場と比較しても、独特です。

規模はまだ明らかになっていないが、同社の2つ目のファンドは来年の初めに締め切られる予定である。しかし、いよいよ飽和してきた東南アジアの投資シーンにおいて抜きんでることができるかどうか、課題は残る。

多くの新しい参入者も含め、すでにたくさんのファンドが業界にあります。私たちがどのような価値を提供するのかを示し、他とどう異なるかをリミテッドパートナーに理解してもらわなくてはなりません。

スタートアップのイグジットがなかなかできない地域で、今までに Kuan 氏はすでに3つの投資を行っている。しかし彼は、成長を維持できないバリュエーションで、シリーズAラウンドを調達した東南アジアのスタートアップが多くいることを予見する。かなりの高確率で、それらのスタートアップがシリーズBの資金提供を望むとき、苦労し始めるだろう、と。「2016年は何が発展するのか、興味深い年になりそうです。」

欧米における誤解

欧米の多くの人にとって、東南アジアはどんなチャンスが眠っているのかが見えないミステリアスな場所のままだ。ほとんどのカジュアルな投資家にとっては、あまりに独特で開拓が難しいからかもしれない。しかし経験の浅い投資家の多くにとって、あまりに異質で舵取りが困難なようだ。結果として、実際にはたくさんあるチャンスがあるにもかかわらず誤解を抱き、「大きな魚はいない」と決めつける人も出てくる。

KK Fund にとってそれは愚かな考え方であり、存分にアービトラージを進める予定である。

東南アジアに注意を向ければ、シリコンバレーでは見られない数々の問題があります。シリコンバレーには、銀行未利用者層、新興市場、2020年までに4億人にまで急増する中流階級がネットに流れ込み、携帯などでネットショッピングをするようになる、などの問題は起こりません。シリコンバレーはそうした問題に目を向けてはいません。

2010年に南アフリカで始まったモバイル金融サービス、M-Pesa は、シリコンバレーから発信されていない、ローカル市場で解決した例の一つである。アジアでより多くのユニコーン企業が生まれさえすれば、その考え方が変化するというわけでもない。世界のこの地域、そして他の新興市場だけに存在する問題に対処するような、根本から新しいビジネスモデルの出現が求められるのだ。

私たちのように、東南アジアの起業家に目を向ける人々は、うまくいけば、そうした新たなビジネスを支える助けになるでしょう。

最後に Kuan 氏はこのように述べた。

【via VentureBeat】 @VentureBeat

【原文】

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