本稿は、Choon Yan (CY) Tan 氏による寄稿である。なお、英語のオリジナル記事は彼の Medium のほか、Braintree ブログ、e27 および Tech in Asia で発表された。
Choon Yan (CY) Tan 氏は、PayPal および Braintree のアジア太平洋におけるスタートアップ・アクセラレータ、インキュベータ活動を牽引している。銀行テクノロジーの経験を持つほか、Google では、Android および Chrome 製品のデータ分析の専門知識をもとに、カリフォルニアで Google のサプライチェーン・インテグレーション・チームを牽引していた。
日本の Open Network Lab、マレーシアの MaGIC、シンガポールの Startup Bootcamp などの主要アクセラレータで決済最適化のメンター、Echelon や TechCrunch などのアジアのスタートアップ・カンファレンスでスピーカーを務めている。(これまでの寄稿はこちら)

東南アジアに25年住み、Braintree_Dev で Startup Advocate の立場からスタートアップのメンターを2年間勤め、筆者はこの地域で大きな変化と成長を目の当たりにしてきた。
まもなく発足する ASEAN 経済共同体(AEC)を受け(編注:2015年12月31日発足)、東南アジアでは投資家の動きが活発化している。ASEAN 版 EU の異名を持つ AEC では、東南アジアの諸国が経済の統合を目指し、統合されると市場の GDP は2兆5,700億米ドルに上る。
多様ながらも、ビジネス機会に満ちた市場
東南アジアは極めて多様な市場だ。11カ国に6.2億人が住み、それぞれが異なる言語や宗教のもとで暮らしている。AEC の狙いは、域内貿易を活発化し、世界経済に東南アジアを組み入れることだ。
東南アジアの中でも、最も裕福な経済を持つ6市場は、シンガポール、マレーシア、タイ、インドネシア、ベトナム、フィリピンで、いずれも一人当たり GDP が2,000米ドルを超えている。IMF(国際通貨基金)は、このうち上位5つの市場の経済成長率が今年5.2%に達すると予想しており、これは欧米よりも高い数値だ。
東南アジアでは若年層が多くを占め、全人口の6割が15〜34歳だ。これら若年層は新技術に素早く適用するため、プロダクトのコモディティ化を加速させる。
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テック・スタートアップの可能性を信じる各国政府
東南アジアの各国政府は、成長力のあるスケーラブルなスタートアップが、経済を担う次世代の柱になると考えており、彼らスタートアップの将来に多くの資金を投じている。
マレーシア政府は、アクセラレータ兼コミュニティ・ビルダー MaGIC に資金を投入した。MaGIC のオープニングには、アメリカのオバマ大統領が参列したことで新聞の見出しを賑わせた。1,140万米ドルの資金を使って、マレーシアの地元スタートアップを成長させるとともに、決まった拠点を持たない世界のテック企業に対して、マレーシアを魅力的な目的地にすることが MaGIC のミッションだ。
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お隣のシンガポールも、積極的な成長計画のもとにある。シンガポール政府は、他の投資家らとともにスタートアップに77万米ドルを出資しており、起業家に対しては17.8万米ドルの補助金を出している。シンガポールを拠点とする投資家の中には、恩恵に預かれるところも出てくるだろう。1,000万シンガポールドル(約709万米ドル)を外部投資家から調達すれば、NRF(シンガポール国立研究財団)から、最大で1,000万シンガポールドル(約709万米ドル)の dollar-for-dollar マッチング(投資家から調達したのと同額を NRF が拠出)を受けることができる。
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世界からの注目
東南アジアは世界中から注目を集め、多くのテクノロジー企業がアジア市場全体を統括する地域本部をシンガポールに置いてきた。Facebook はこの市場に普及を図るのに成功し、Whatsapp、Facebook Messenger、LINE、Viber は、スタートアップがユーザを獲得するためのソーシャルメディアやコミュニケーション基盤として機能している。
Rocket Internet 傘下の Lazada のほか、eBay、Alibaba(阿里巴巴)、楽天といった世界的なコマース企業は、オンラインショッピングの拡大、つまり、より多くのユーザにオンラインショッピングに慣れてもらうために大規模な投資を続けている。Braintree でさえ、当初のサービスエリアでった北米やヨーロッパから、シンガポールやマレーシアへと進出を図り、これらの国々でも、企業がストレスの無いコマース体験をユーザに提供できるようにしている。
国際資本、地域資本へのアクセス
世界的な投資家で VC である 500 Startups は、東南アジアに1,000万米ドル(500 Tuktuks)と1,500万米ドル(500 Durians)のマイクロファンドを設立した。さらに、シンガポールのプライベートエクイティや VC ファンドマネージャーが、シンガポールで管理する資産額は現在、およそ283億米ドルに上るとされる。このうち、2014年は18億米ドルが VC が占めた。
デット・ファイナンスを希望する起業家には、シンガポールの三大銀行である OCBC、DBS、Standard Chartered が、特にスタートアップにフォーカスした融資スキームと銀行サービスを提供している。

モバイル普及の成長とインパクト
IDC の予測によれば、2015年に世界で出荷されるスマートフォンは15億台に上るとされ、これは昨年の13億ドルよりも高い数字だ。Cheery Mobile、Himax、I-Mobile といった新ブランドが、従来からの重鎮ブランドから東南アジア市場を奪取しつつある。
これらの新しいスマートフォンメーカーは、主要ブランドのやや半額という手頃な価格と、スペックの豊かなデバイスで顧客をとらえようとしている。価格の安いスマートフォンは低所得者層がこれらのデバイスを使うことを可能にし、所得平均が上がれば、より高い成長と普及につながる。つまり、HotelQuickly、KFit、Sugar などのモバイル先行のスタートアップは、東南アジアで資金調達し急速に成長できる可能性が高いことを意味している。
将来を見据えよう
考えてみてほしい。マレーシアの GrabTaxi(推定評価額18億米ドル)、ベトナムの VNG(推定評価額10億米ドル)、タイの Lazada(推定評価額12億ドル)、インドネシアの Traveloka(推定評価額10億米ドル)、シンガポールの Garena(推定評価額10億米ドル)、Razer(推定評価額10億米ドル)らはすべて、東南アジアのスタートアップ・エコシステムに根を下ろすユニコーンだ。政府支援、モバイルの普及、世界からの投資、スマートフォンへの転換により、その成長可能性は甚大なものだ。
Braintree は新生のスタートアップに対し、新しい決済手段で将来の可能性をもたらすだけでなく、彼らが世界向けにサービスを提供する上で複数通貨を扱えるようにすることで、彼らが次のレベルに行くのを後押しするのが狙いがある。リスクをとり、未熟で発展途上ながらも成長を続けるエコシステムに飛び込みたいなら、東南アジアを除いて他に無いのだ。
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