
Y CombinatorやTechStarsを発祥とするスタートアップの「アクセラレータープログラム」が日本に入ってきたのが2010年頃だ。デジタルガレージの始めたOpen Network Labを皮切りに、投資系事業者はいくつものプログラムを立ち上げたのは記憶に新しい。私も当時、CNETでキーマンを取材する連載を持たせてもらった。
2012年頃からはその波が投資会社から一般企業に移り出す。皮切りはやはりKDDIの「∞ Labo(無限ラボ)」だろう。この辺りから大企業とスタートアップという組み合わせ、いわゆる「オープンイノベーション」という言葉をよく耳にするようになった。
そして2016年。
私は2月19日に開催するマッチング・イベント「THE BRIDGE Fes」の関係で普段、あまりお目にかかることのない大きな企業の方々とお会いする機会がとんと増えた。なかなか興味深い話を聞ける一方、この新規事業系の話題というのはヒットしてから世に出ることが多く、それ以前は情報があまり表に出ることがない。
そこで本稿では数回に分けて、企業の窓口となっているキーマンやプログラムを取材し、どこにマッチングのチャンスがあるのか、企業はどのような課題を抱えているのか、各社に違いがあるのかーーその辺りを少し掘り起こしてみることにした。
初回は2期目となるアクセラレーションプログラムを立ち上げている富士通。実際にプログラムを受けたスタートアップにも話を聞いた。
各部門との連携をスムーズにさせる役割
プログラム自体は非常にオーソドックスだ。書類審査を通過したスタートアップは、ピッチコンテストで5社程に絞り込まれ採択される。3カ月ほどの協業期間内に、富士通内の事業部門を協業の検討チームを組んで新たな事業創出に取り組む、といった具合。
1期生には福岡で通信モジュールを手がけるSkydiscや、パーソナル・コミュニケーション・ロボット「BOCCO」を生み出したユカイ工学といったIoT、AI、SaaS系のスタートアップたちが参加をしている。プログラム運営事務局の話を聞くと、やや成長期にあるインフラやハードウェア、通信モジュールといったレイヤーの協業パートナーを中心に採択を進めているという印象だった。

実際にプログラムを受けたユカイ工学の代表取締役、青木俊介氏に聞くと「専任の担当者が社内の使えそうな技術やビジネス的に相性の良さそうなところを片っ端から紹介してくれた」とプログラムを振り返ってくれた。
実際、彼のパーソナルロボット「BOCCO」がCEATECで披露した音声認識のデモはここがきっかけだったという。ちなみにデモ用途であればライセンス費用も無償対応してくれたそうだ。
「頻繁にミーティングしたりする部分は人数の少ないスタートアップにとって負担な部分はありましたが、実際にビジネスにつながりそうな感じがしてきてますので、ありがたや、という感じです」(青木氏)。
スタートアップが単独でこういう大きな企業に持ち込みをする場合、まず最初に出くわすのが「どの部門に持っていけばいいのか」という難題になる。大概は人づてで知り合った一担当者を頼りに、各部署をぐるぐる旅することになるのだが、往々にして迷子になってしまう。

今回話を聞いて興味深かったのは、プログラム自体が窓口となりガイドする役割を果たしている、という点だ。どこの誰が持ってきた案件か、という前に「プログラム」自体が共通認識として企業内で機能すれば、部門の人たちも一定の理解を示しやすい。
これはある程度成長期にある企業を採択していることも一つポイントになっているのだろう。
本当の創業期のスタートアップの場合、忙しい部署であれば話を聞く時間もやはり惜しくなってしまう。一方で、すぐに売れる、もしくは商機になると判断できるような内容であれば話は変わってくる。富士通のアクセラレーションプログラムはそういったアーリーからミドル期のスタートアップを対象にしている。
全体的に堅実さが目立つ一方、突拍子のないところからのアイデアにはやや不向きといった印象はある。
事務局の説明では、プログラム参加のスタートアップには社内リソースの他にも富士通の販売チャネルの活用や、双方のシナジーが見込まれる場合にコーポレートベンチャーキャピタルからの出資も検討されるという。興味ある方は現在、ちょうど第2期の募集を開始しているということなので、チェックしてみるといいかもしれない。
引き続きスタートアップに門戸を開く大企業の取材を続ける。もし情報をお持ちの方は直接私までご連絡頂ければ幸いだ。
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