Temp Innovation Fundは会社の「内と外」をつなぐ架け橋になるーー大企業の窓口/テンプHDの場合

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本稿はスタートアップに門戸を開く大企業側の窓口とその実情を探るシリーズ。一回目の富士通に続いて、二回目は1月21日にコーボレートベンチャーキャピタル「Temp Innovation Fund」(以下、TIF)を新たに立ち上げたテンプホールディングス(以下、テンプHD)を取材した。

同ファンドの規模は約10億円ほどで、国内外のHRTech(人材関連技術)の未公開企業(スタートアップ)に対して一件あたり数千万円程度の出資を実施し、ここを通じてスタートアップとの協業も進める。出資企業に対しては、テンプHDが持つ顧客基盤や人材サービスノウハウの提供を通じて彼らの成長を後押しすることになる。

これまでにもテンプHDはグループ企業のインテリジェンスを通じてクラウドソーシングのランサーズやLINEとの合弁による法人設立などここ数年に渡り積極的な外部連携のあり方を模索してきた。TIFの発表に先立ってリリースされたサイバーエージェント・ベンチャーズとの協業事業「HR Support Team」はスタートアップの人材課題を解決する取り組みとして注目を集めている。

<参考記事>

TIFはこういったいわば数年来の「実証実験」の集大成として立ち上がったプロジェクトになる。そしてこの実験を続け、プロジェクトの舵取りを任されたのが加藤丈幸氏、TIF合同会社の代表パートナーを務める人物だ。

ベンチャーの先輩が支援する側に

加藤氏は2013年3月26日にテンプHDが傘下に収めたインテリジェンスの1998年入社組。話を聞くとインテリジェンスから巣立ったサイバーエージェント創業者、藤田晋氏は加藤氏のひとつ上の先輩だったそう。まだ80人ほどのまさに「小さなベンチャー」だった頃のインテリジェンスだ。

加藤氏はその後、同社で18年間に渡り、人材紹介や転職メディア、派遣、アウトソーシングなどHRに関わるあらゆるビジネスモデルに携わることになる。

また社内ビジネスの立ち上げも積極的で、ビジネススクールやペイロール、通信会社との合弁事業など合計6つの立ち上げにも関わった。現在は親会社のテンプHDでグループ全体のオープンイノベーション推進を担当している。TIFはその「窓口」としての機能が期待され、加藤氏はその門を預かる人物になる、という訳だ。

「元々、インテリジェンスとして新規事業も6つぐらいやっていたんです。それで4年ほど前かな、経営のトップ陣で新規事業の起案をする会があったんです。当時はHRTechにはリブセンスやウォンテッドリーなどのSEOやソーシャルといった新しい集客導線を活用する企業や仕組みも出てきた頃です」(加藤氏)。

加藤氏はこういった「新興企業」の波をいち早く感じ取り、経営陣に対して情報提供を始める。ある時は招待制カンファレンス、ある時は新興テクノロジーの勉強会と、手を替え品を替えることで、経営層は徐々に「スタートアップ村」の水に慣れ、飲めるまでになったという。

「第一に狙っているのはファイナンシャルなリターンではなく、一緒にやれたらいいなと思う企業との協業を実現するための窓口を作ることですね。別に出資に至らなくても、私たちが顧客となる場合もあるし、連携の方法はケースバイケースです」。

経営陣に対してスタートアップへの理解を促し、スタートアップ側には出資だけでなく、提携や協力など、いくつかの選択肢を用意して両者をつなぐ。加藤氏はそのコネクターのような役割があるように感じた。大企業とスタートアップは常々「言葉の違い」を問題視される。加藤氏もこんなことを言っていた。

「大企業には基準というかコンプライアンスがあるので、スタートアップの方々がその点を「少しだけ」優先順位を下げてやってくると課題になるでしょうね。例えばランサーズとの協業では弊社のコンプライアンスに沿った厳しい要求を出さざるをえなかったのですが、ランサーズはそれに応えてくれた」。

実際はこれだけでなく、大企業とのやりとりには担当者が異動になったことで契約書だけ残り、無理難題が降りかかった例や、窓口が定まらず、なんども色々な部署をたらい回しになるなどのストレスも耳に聞こえてくる。一方で「スタートアップだから」という理屈を大企業側が受け入れる理由はない。

「外からオープンイノベーションを持ってくると同時に社内の対応能力やHRTechに対する理解度を高めるということも目標のひとつですよ。ホールディングスでは勉強会もやってますし、経営陣や現場が「何かできるかも」という機運を高めないと投資には至らないわけです」。

今回の運営資金で3年から5年ほどのスパンで同グループのオープンイノベーションを推進したいと語る加藤氏。投資ステージについてはシリーズBぐらいまでの比較的アーリーなステージのスタートアップたちと、より具体的な協業を求め、社内との連携を実現したいということだった。

前述の通り、多くの起業家を生み出したインテリジェンス。ベンチャー企業の先輩は大企業となり、今度は新しい切り口でスタートアップ支援に乗り出す。この動きがどのような結果をもたらすのか、引き続き注視したい。

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