学会の中と外をつなぐ研究者向けクラウドファンディングサイト「academist」

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クラウドファンディングといえば、国内であれば ReadyforやCampfire、海外ではKickstarterやIndiegogoなどのプラットフォームが有名だが、面白いプロジェクトや社会的意義の高いミッションに挑戦したい個人やチームが資金調達する方法としてかなり浸透してきた感じがする。

academist(アカデミスト)は、そんなクラウドファンディングプラットフォームの一つで、研究者によるプロジェクトに特化したサイトだ。約2年前にスタートしてから、これまでに研究者によって22のキャンペーンがローンチされた。

「研究者ってかっこいい!」研究の魅力を伝えるためのプラットフォーム

academist の代表取締役社長、柴藤亮介さんはこのクラウドファンディングサイトをローンチしようとしたきっかけとして「魅力的な研究者の追究する研究内容を、社会にもっと発信したかった」と語る。

当時、大学院で物理学を研究していたのですが、横の研究室が研究している内容が分かりませでした。研究分野が細分化されすぎていて、同じ理論物理でも枠組みがちょっとずれると、隣の研究者が何をしているかが分からなかったりします。物理でもこんなに分からないということは、生物や化学などはさらに隣の研究者の研究内容が分からないだろうと思いました。

そこで、いろいろな研究分野の学生が集まって発表するプチ学会のようなイベントを開催。「自分が面白いことをイキイキと話す様子や、まだ誰も分かっていないことを問題提起して、追究している研究者の姿はとてもかっこいいなと思いました」と柴藤さんは振り返る。

世間に知られていない研究者の魅力を発信するサイトを作りたい、もっと研究内容を社会に発信したいと考えるように。とはいえ、研究者が自身の研究の魅力を発信するサイトはトラフィックを集めにくい。そこで、研究者がよりよく発信すればリターンを得られるような仕組みとしてクラウドファンディングを思いついたそうだ。

上:academistのチーム、左から左から山内奏人氏、 松本響希氏、鳥居佑輝氏(取締役会長)、柴藤亮介氏(代表取締役社長)
上:academistのチーム、左から山内奏人氏、松本響希氏、鳥居佑輝氏(取締役会長)、柴藤亮介氏(代表取締役社長)

トップの研究者もクラウドファンディングに注目

ローンチから約2年が経ち、これまで20以上のクラウドファンディングキャンペーンがacademist上で立ち上げられた。中でも大きな成功を収めたプロジェクトの一つが、373万円の支援額を集めた、京都大学理学研究科附属天文台の台長である柴田一成教授による挑戦「太陽フレアの機構と宇宙天気予報の研究」だ。

柴田教授は、研究費用の新しい調達方法としてクラウドファンディングのコンセプトにすぐに共感してくれたそうだ。学界での経験豊富なトップ研究者が、クラウドファンディングという資金調達方法に共感を示してくれるのは正直意外な気もするが、クラウドファンディングへの共感が得られている理由の一つとして、国から大学などの研究機関に交付される研究費が年々少なくなっている現状があると柴藤さんは言う。

国からの研究費はどんどん少なくなっている現状があります。特に天文学や考古学など経済効果がすぐに見込めないところにはお金がつきにくくなっています。なので、別の資金調達方法としてクラウドファンディングでお金を集めたいという気持ちがあるのだと思います。
毎年、大学に交付される運営費交付金は大体1兆円ありますが、その額は年間1パーセント減っています。つまり100億円ずつ減っていることになります。100億円あれば教授を何人雇えるかと考えると、それだけアカデミアの多様性が失われるのではという危機感を現場の方は抱いています。

謎の多い深海生物「モヅル」の標本などーーユニークなリターンが注目を集める

こうした現状から、研究者からも注目を集め始めているクラウドファンディングだが、実際にキャンペーンをやっても支援が集まらないのではと不安を抱く研究者も少なくないと思う。あまりに研究分野がニッチであればなおさらだ。

柴藤さんは、支援を集めやすくするポイントは次の3点であると言う。

  • 研究者が魅力的である
  • 研究テーマが個性的で面白い
  • リターンが素敵(マグカップなどのグッズ、サイエンスカフェで研究者の話を直接聞ける、など)

また、文章だけで研究内容を発信してもその研究の面白さは伝わりにくいため、プロジェクトを登録する際には動画でも研究について発信してもらっているとのこと。より研究者の人となりが見えることも重要のようだ。

実際、一度発信してみれば、自分のニッチな研究の「ファン」が意外といることに驚くかもしれない。たとえば、京都大学のポスドク研究員の岡西政典氏の挑戦「深海生物テヅルモヅルの分類学的研究」は、ネット上の「テヅルモヅル」ファンを惹きつけた。

テヅルモヅルとは、ヒトデの仲間の深海生物とのことで、腕が何度も枝分かれするため小さな木のような不思議な形状をしている。未知の部分が多く、生物学研究の基礎となる種の分類も不明瞭とのこと。そこで、岡西氏は近年のDNA分析などの手法を用いてテヅルモヅルの謎に迫るべく、キャンペーンを立ち上げた。

もちろん筆者もテヅルモヅルという深海生物のことは聞いたことなどなかったが、その謎について聞けば聞くほど、なぜだか興味が湧いてくる。そして、もっともインパクトがあるのはそのリターンで、3万円の支援者にはモヅルポロシャツやモヅルパーカーの他に、乾燥したモヅル標本が提供されるという。このユニークな内容がツイッターなどで注目を集め、キャンペーンは無事に成功したそうだ。

学界というのは外から見ると起きていることが分かりにくく、中と外との距離は大きかった。だが、こうしたクラウドファンディングの取り組みによって、その距離は縮まっていく可能性も大きい。いかにクリエイティブに発信し、ネット上で「ファン」を巻き込んでいくか次第で、研究の進展は変化するのかもしれない。

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