スタートアップ・ベンチマークのCompassによる、香港のスタートアップ・エコシステムに関するレポート(3/3)

この新たな Compass のレポートは、香港のエコシステムに関する深い分析を行ったグローバルレポート2015のために集められた豊富なデータを用いている。また、中小規模のエコシステムがいかに成長を加速しトップクラスのエコシステムと競合できるかに関しても提言している。

著者:JF Gauthier 氏(Compass)。

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Hong Kong Annual Reports via Flickr by Dennis Wong
Hong Kong Annual Reports via Flickr by Dennis Wong

関連事項

アクティベーション段階のエコシステムは、地元と世界的ステークホルダーたちの交流を促進することにより、世界レベルのノウハウを引き込み、「追いつくための成長」活動へ投資しなければならない。

したがって、香港の最優先事項は、起業家が世界レベルのノウハウに追いつくよう支援することである。(前に論じた通り、投資家は追いつく必要はない。)その時まで、スタートアップは不利な立場に置かれることになるだろう。つまり、大きなグローバル市場機会へと取り組むトップエコシステムにあるスタートアップの、急速に進化するビジネスモデルとテクノロジーにいつも後れを取るということだ。ゆえに、香港のスタートアップはより小規模な地元の機会を任されることになり、後期ステージの大型資本にそぐわない、より遅い成長収益と、より数少ない少額のイグジットを産出できるのみである。

他の優先事項は具体的には、様々な要因のギャップを埋めることが含まれる。スタートアップがハイクオリティな技術系人材と接触できるよう改善する。シード出資のギャップを減らす。サブセクターの戦略(例:フィンテックとIoT)を練り、実践する。そして起業家活動を増やすために思考態度の変化を促進する。

目標

目標は香港経済を多面化し、技術系スタートアップエコシステムの成長に積極的に投資することで長期的な繁栄を確実にすることだ。これは、Hong Kong Startup Ecosystem Report で推奨されているいくつかのプログラムを統合した戦略的なプランを発展させ、ステークホルダーたちによる協調された行動のコンセンサスを構築することで達成できる。

地元のステークホルダーたちの間で実行される戦略と戦術について一度コンセンサスが成立すれば、それ以外のステークホルダーたちはリードするか、共に参加することができる。政府の役割は、各所でなされる取り組みをまとめ、民間企業によって行なわれる活動を促進し、投資するかさもなければ特定の要因のギャップに関する活動を促していくことである。

民間セクターが直接扱えない、多々の課題への取り組みとなる後者は非常に重要だ。しかしいったんエコシステムが成熟して、多額のイグジット案件が定期的に成立すると、若者が技術系の学位を取得してテック系起業家になる動機となり、同時に活発なテック系エンジェル投資家となる高額の自己資本を持つ個人を生み出すであろう。それまでは、政府の努力は不可欠である。

提案

勧められている戦略およびプログラムは、発展初期段階にあるすべての中小規模のエコシステムにとって適切なものである。

Cyberport via Flickr by Jo Schmaltz
Cyberport via Flickr by Jo Schmaltz

短期的な優先事項

A)起業家たちの間で世界レベルのノウハウを強化する
この問題は複雑で、一晩で解決できるようなものではない。レポートの中に詳述される多くの戦略目標である。短期的解決策の一連案は、世界的なアクセラレータを香港へ引き寄せ、トップクラスのエコシステム(例:シリコンバレー、ニューヨーク、ロンドン、シンガポール、北京、深圳)で、香港スタートアップが海外アクセラレータプログラムへ参加できるよう特別に計らう、というものだ。

世界的なアクセラレータは証明されている一つの解決策だ。最新のノウハウと、世界的に最良の実践法を起業家に教えることができるからである。それこそまさに香港が必要としているものだ。さらに、アクセラレータはエコシステム(あるいは産業クラスター)の中で、特別な役割を演じることができる。「Porter氏によると、経済活動は社会活動のなかに埋め込まれている。その『社会的つながりはクラスターを結び付けることになる。』」アクセラレータは専門的そして社会的なつながりとして機能し、スタートアップと地元の投資家、企業団体との関係を強めれば、例えばデモデイなどを通してリーダーたちが彼らのプログラムに興味を持つことになる。多くの地元ステークホルダーが世界レベルのノウハウを持っているため、アクセラレータの活動は起業家がそれに追いつくよう支援することである。

B)トップクラスの技術系人材を利用できるよう改善する
他のいくつかのプログラムはこの課題に取り組んでおり、短期的解決策は、様々な国からのハイクオリティの技術的人材である若い卒業生たちによって移民を増加させることから始まる。格好の対象となるのは、ロシア、旧ソ連圏諸国、東ヨーロッパ諸国、中国本土などである。香港にはそれらのどの国からの技術系人材にも提供できるものがたくさんある。コスモポリタン文化、経済的自由、興味深い社会的活動など、すべての国からの若者にとって魅力的である。IoT関連のスタートアップ(対中国本土を除く)とフィンテック関連のスタートアップを設立するための大きな資産、そしてより強いスタートアップエコシステム(対モスクワ、そして中国本土を除く)などもだ。

海外の技術系人材は香港の起業家活動にも良い影響を与えられる。第一に、この技術系人材の一部はスタートアップを設立したいという望みのもとに来る。そして第二に、一般的な移民は起業家になる傾向が高い。

C)エンジェル投資家のコミュニティを発達させる
シード出資のギャップを埋める最善の方法の一つは、マッチングファンド・プログラムを実行することである。というのも、シードラウンドに利用される資本を直接増やせば、資金調達に成功するスタートアップが順に増えていくからだ。マッチングファンドは公的および私的な資金源、大企業、投資家グループや協会などから資本を得るとよいだろう。

香港政府の最近の施政方針演説によれば、マッチングによる共同投資のための基金を設立するため、20億米ドルを確保するという。香港のエコシステムはシリーズAやBラウンドでもそれ以降のラウンドにおいても資金調達ギャップは存在していないため、これらのファンドは「スーパーエンジェル」企業による資金調達を含め、シードラウンドのために割り当てられたものから利益を得ることになるだろう。

マッチングファンドの管理を、それぞれ経験あるファンドマネージャーのガイダンスの下で、正式に組織化されたグループや個人的なエンジェルに引き渡すことは大きな利益につながる。例えば、コミュニティの中でエンジェル投資の専門知識が確立される。加えて、ファンド間で競争を引き起こすことで、いくらかの投資決定権を認め、資本が最も有望なスタートアップへ流れるよう導く助けにもなる。

D)サブセクターの戦略を発展させ実践する
どのステージにあるスタートアップのエコシステムであっても、技術系サブセクターの急成長の波に乗ることで、成長速度を高めることができる。シリコンバレーはそうやってソーシャルネットワークのとてつもない成長を利用し、アプリケーション、テクノロジー、サービスなどのサブエコシステムを専門化した。

サブセクターに最も重要なユニコーン企業が現れるとエコシステムには予測できないが、今後5年から10年の間に劇的な成長が見込まれているサブセクターで戦略的に取り組んでおけば、ある程度のリーダシップを確保し、強大な影響力を持つことができるだろう。

香港の強みは、長期にわたって戦略的に取り組むサブセクターとしてIoTとフィンテックを選択できることだ。確かにどちらも今後5年から10年の間の急成長が見込まれているとして、一般的に受け入れられている。

そのような戦略的取り組みはリーダーシップを手に入れるために短期的になされるものだ。HKSTPのCEOであるAllen Ma氏がこう述べている。「香港がIoTのハブへと発展するためにはこれからの2、3年がカギとなります。」他のエコシステムもすでにそういったリーダーシップのために位置付けていることを考えると、同様のことがフィンテックにも言える。これは香港の様々な革新プログラムに割り当てられた予算と努力の一部を、IoTとフィンテックに捧げることを意味するだろう。

長期的な優先事項

E)起業家活動を増やし続ける
15年前のシンガポールのように、エコシステムは起業家精神レベルのギャップを埋めることなく成功することはあり得ない。これは難しいことではあるが、献身的な努力によって10年のうちに起業家活動に重大なインパクトを与えることができる。効果的なプログラムを作成することは一般的で、それらの情報は広く利用できる。先述した通り、移民によって人材の不足を埋めることは起業家活動への積極的な影響をもたらしてくれる。

結論

香港は、パフォーマンスといくつかのインプット要素において、トップ20のエコシステムより後れを取っているものの、さらなる資産と最も資本化すべきところの戦略的強みから利益を得ている。香港の可能性は認識され始めており、最近の成長に見られる通り、トップ20のエコシステムのうち5番目の成長速度と同等である。ステークホルダーたちの努力によってカギとなる課題に対処し、世界的にリードするスタートアップとユニコーンを生み出すとともに、技術系スタートアップエコシステムの成長をさらに速めることができるのは疑いの余地がない。

【via Compass】 @startupcompass

【原文】

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