エンジェル投資家の存在と役割−−事業・経営経験を経たエンジェル投資家がスタートアップ・エコシステムを加速させる #tbfes

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「Tech and Life」をテーマに開催された「THE BRIDGE Fes」。100社のスタートアップブースが会場にひしめく中、中央のステージではトークセッションが開催された。ここでは、「日本版エンジェルの出現と役割」と題したプログラムセッションの内容をまとめる。Fesの様子はこちらで一覧できる。

スタートアップ・エコシステムを語る上で欠かせない「個人投資家」の存在。エンジェル投資家の多くは元起業家、もしくは現在も会社を経営している事業家だ。自身の経営経験などをもとに、シード期のスタートアップを金銭面や経営面など多岐にわたるサポートを行っている。

エンジェル投資家が日頃考えていることやエンジェル投資家と起業家の関係などについて、元クックパッドCOOで現在は個人投資家として活動している山岸延好氏、コロプラ取締役として現在も経営に携わりながら投資家としても活動している千葉功太郎氏、モデレーターにグロービス・キャピタル・パートナーズの高宮慎一氏が登壇した。

投資先を決めるポイントは「人」

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コロプラ取締役の千葉功太郎氏

普段、なかなか出会う機会が少ないエンジェル投資家。その投資先もあまり公開されていない。まずは、千葉氏、山岸氏それぞれの投資先やジャンルについて話された。

千葉氏は、現在もコロプラの経営に携わりながら個人投資家として活動。コロプラとしても投資活動をしているため、個人と会社と切り分けて投資を行っているという。

「次の若い起業家につなげたい」という思いで、個人としての投資先はtrippieceやスペースマーケット、スマートニュースやFiNCなど20社への投資を実施。またANRIやSkyland Ventures、Incubate Fund、B Dash Venturesといった15社のVCのLPとして投資にも参加している。

「投資する基準はCEOや人がイケているかどうか。なので会ってその場で投資は判断せず、なんども会って話をしたり、ときには事業に対して課題を渡してそれを短期間でどう解決しようとするかをみている。あと、社会性をもった事業への投資も個人的にはテーマ」(千葉氏)

山岸氏は2015年から投資活動をスタートしたばかり。この半年の投資家経験ながら、すでに入金済み10社、投資合意完了が5社の計15社への投資が決定している。クックパッドを退職してから毎月100人以上と面談している山岸氏。

「投資テーマは幅広い。訪問介護から運送系の人材会社、農業系、動画領域などさまざま。テーマの面白さとCEOの人の個性をみながら、10年スパンの長期的な視点で投資をしている」(山岸氏)

投資する、しないにかかわらず積極的に会って話を聞く姿勢で常に行動しており、時にはスタートアップのオフィスに訪問して日々の様子を観察しながらスタートアップと日々議論しているという。

エンジェル投資家だからこそできるメンタリング

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クックパッド元COO、個人投資家の山岸猛好氏

この数年でエンジェル投資家が増えてきたと高宮氏。千葉氏は「常に目線をあげ、自身の事業がどれだけのビジネスか、高い視点でいてほしい」とアドバイスし、山岸氏は「不安が常にあるなかで、軸をぶらさないよう勇気づけている」と、自身の経験をもとにメンタリングなど精神的な支柱としてサポート。また、シード期はプロダクトもお金も組織も不足している。そうしたなか、自身の経営経験から実務面でのサポートも行っている。

「毎週定例を行い、進捗や課題を一緒に取り組んでいる。投資家はいわば一緒に経営に取り組んでいる仲間。同じ目線で取り組んでいきたい。同時に、クックパッドといういまや5000万人に使われているサービスを数人で作っていた時代から知っている。その過程での挑戦や失敗を経験している。それをもとにアドバイスしている」(山岸氏)

起業家と二人三脚の姿勢の山岸氏に対して、千葉氏は起業家がやりやすい環境づくりに専念しているという。

「基本は放置。メンターはありがたいが、自身の経験からも時にジャマになることもあるからうまく距離感を取りながら適宜コミュニケーションしている。もちろん、次のラウンドで投資したり事業として力をいれて展開するときには深くコミットすることもある。タイミングとバランスを重視していきたい」(千葉氏)

千葉氏はメンターとしてFringe81執行役員の尾原和啓氏や資本政策アドバイザーとしてPrivateBANK代表取締役の佐藤貴之氏らをもとにしたメンタリングチームを組成し、投資先へのアドバイスを効果的にしている。また、投資先のスタートアップを集めたクローズドの合宿を開催。スタートアップ同士の情報交換をもとにしながら次の調達や次の会社ステージに向けたコミュニティづくりにも力をいれている。

自身の事業経験をもとに起業家目線でやりとりをするエンジェル投資家も、まだまだ足りないと語る千葉氏。「イグジットや成功した経験者がもっとエンジェル投資にまわってほしい」と話す。

経営と投資は相補関係

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グロービス・キャピタル・パートナーズの高宮慎一氏

千葉氏のように会社経営と個人投資の両輪を走らせる人も一部いる。そうしたときに、株主の利益相反をうまないよう、千葉氏は個人投資をする際には自社の経営会議で審議を実施。コロプラが投資をしたいと判断したときには優先的に投資し、経営会議でクリアになった後に個人投資を行うなど、会社投資と個人投資の調整を図っている。「こうした手間を踏みながらも着実にエンジェル投資の文化を醸成することに力をいれたい」と話す。

山岸氏は、経営と投資は相補関係があると指摘。

「事業を聞いて本気で投資しようと考えたときにはその事業が伸びるためにアイデアを考える。投資後は経営に参加し事業を成長させるために奔走する。経営と投資の狭間にいるなかで、投資の経験が経営に活き、経営の意識が投資判断にもいい影響を与える。事業と投資のバランスもうまくやればいい効果を生み出す」(山岸氏)

スタートアップだからこそ、夢や理念をもとに人を巻き込め

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最後に、事業経験をもつ二人から、シード期にすべきことについてのアドバイスがなされた。千葉氏は、なんと言っても「資本政策」と指摘。「投資家がすべて良い人とは限らない。複数からアドバイスをもらい、レファレンスを取ること。投資は逆戻りできないからこそ、投資額と比率などをしっかりと考えないとほしい」と重要性について熱く語る。

山岸氏は、「シード期だからこそサービスや製品に集中してほしい」と、スタートアップの根源的な取り組みを指摘。「当たり前な話だけど意外とできていない人がいるシード期だからこそ、常にユーザ視点、より良い製品づくりをやってほしい」と話す。

採用やチーム作りに関しても、千葉氏は「さまざま手法で積極的に声をかけること。優秀な人を巻き込むためには夢を共感できるまでなんども説明すること。採用やリクルーティングは事業の根幹にも関わること」と採用やチーム作りの重要性を指摘。

採用はリソースの3割は割くべきと話す山岸氏。「人がいないとすべて自分がオペレーションし、時間がなくなる。悪循環に陥る。売上や上場ではなく、誰にどんなサービスや価値を提供するかという理念をもとに、ひたすら優秀な人を口説こう」と情熱と時間をかけることの大切さを語った。

「この2年でスタートアップシーンは活況になり、エンジェル投資家も台頭してきた。いいエコシステムができるためにも、スタートアップはやらないほうがもったいない。この波を掴んでチャレンジしてほしい」(千葉氏)

「挑戦する人は積極的に応援する。投資するしないにかかわらず相談事も受け付けたい。エンジェル投資家を使う意識で、積極的に声かけてほしい」(山岸氏)

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