LAドジャースアクセラレータ生みの親が語る、オープンイノベーション成功の決め手とは? #tbfes

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本稿は、「THE BRIDGE Fes」の取材の一部である。

昨年は、日本の随所でオープンイノベーション元年という言葉を耳にした。大企業が自らの活路をスタートアップとの協業に見出し始めたのは、スタートアップ・コミュニティにとってありがたい兆候だ。しかし、性格も身体の大きさも異なる二者がただ出会うだけでは、そこから化学反応を導き出すのは容易ではない。お見合い結婚に仲人が存在するように、大企業とスタートアップが関係を深めていく上でも何らかの水先案内人は必要だろう。現在のスタートアップ・エコシステムのスキームでは、一部のインキュベータやアクセラレータがその役を担っているのかもしれない。

一方、インキュベータやアクセラレータは、イグジット件数やポートフォリオのバリュエーションなど、何らかの KPI を持っていることが多いが、これらの値を向上させるためのシステマティックな方法は確立されていない。ちょうどボーイスカウトやガールスカウトで上級生が下級生を引率するように、インキュベーション/アクセラレーション・プログラムから輩出された先輩スタートアップと後輩スタートアップが混じり合う関係が形成されれば効果的とする説があるが、バッチ参加中はオフィスで寝食を共にした〝同級スタートアップ〟同士であっても、卒業後には関係が疎遠になってしまうことが多いものだ。

アメリカに、これまでのアクセラレータとは一味違ったオープンイノベーションを提唱する人物がいる。デジタル広告代理店大手 R/GA のグローバル COO で、R/GA Connected Devices AcceleratorLA Dodgers Accelerator を立ち上げた Stephen Plumlee 氏だ。結果の出せる真のオープンイノベーションを行うにはどうすればいいか、その道の先駆者の目から見た、日本のエコシステムが進むべき方向を語ってくれた。

このセッションのモデレータは、電通ベンチャーズのジェネラルパートナー長谷川勝之氏、通訳は Unreasonable Lab Japan 日本事務局長である竹村詠美氏が務めた。

広告代理店が IoT に特化したアクセラレータ・プログラムを始めた理由

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左から:電通ベンチャーズ ジェネラルパートナー 長谷川勝之氏(モデレータ)、R/GA Global COO Stephen Plumlee 氏、Unreasonable Lab Japan 日本事務局長 竹村詠美氏(通訳)

R/GA はデジタル広告代理店大手で、ナイキ、サムスン、グーグル、マイクロソフトといったフォーチュン500社を主なクライアントとしている。世界中15のオフィスで総勢1,800人の社員が働いており、年内には東京にも進出しオフィスを開設する予定だ。広告代理業を本業としながらも、ナイキなどのグローバル企業に対して、ソフトウェア開発やプロダクト・マネージメントでもサービスを提供していることが特徴だ。

R/GA がアクセラレータ・プログラムを始めたのは2013年のこと。広告会社がなぜアクセラレータを始めたのか、そして、なぜ、IoT に特化したアクセラレータを始めたのかとの問いに、Plumlee 氏は次のように語った。

R/GA はマーケティング・エージェンシーとして知られているが、我々の DNA のコアはテクノロジーだ。200人を超えるプログラマーやデベロッパーが社内に居て、Nike FuelBand や Apple のサブスクリプション型音楽サービス Beats Music の開発に携わった(その後、Beats Music は2015年11月にサービスを終了)。

クライアントからは、アドバイスをしてほしい、ガイダンスをしてほしいという要望があったこと、そして、社内にいる優秀な人材がイノベーションに接していたいという思いがあったこと。この2つの目標を達成するために、3年前スタートアップ・エコシステムに関わるべくアクセラレータ・プログラムを始めた。

広告業界にとって、アドテクは一般的だ。しかし、次なるメガトレンドは IoT に来ると考えている。ナイキなどのクライアントは、フィジカル(有形)なプロダクトをデジタルにインテグレートしようとしているからだ。

R/GA のアクセラレータ・プログラムは、現在のもので第3期目となる。最初の2つは、プログラムの構成やプレイブックを習得するために TechStars との協業で運営、現在の第3期からは独自運営する形をとっている。IoT 分野の中でも、ナイキとの関係ではスポーツやテクノロジーに特化したスタートアップ、ドイツの流通大手 Metro Group と協業する Metro Accelerator では、食品やホスピタリティに特化したスタートアップの輩出に注力している。

R/GA がオープンイノベーションに求めるもの

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オープンイノベーションの狙いは、企業によってさまざまだ。日本では主に、それは、ビジネスディベロップメントの延長線だったり、スタートアップへの投資や M&A への試金石だったりする。R/GA ではアクセラレータ・プログラムの狙いをどこに定めているのだろうか。

我々の目標は、財務的なものではなく戦略的なものだ。したがって、そこに関わる我々の従業員やイノベーションに興味がある。我々のクライアントや従業員も、イノベーションに関わりたいと考えている。従業員、会社、クライアントという3つの軸において、我々のプログラムはうまく行っていると評価している。

R/GA のアクセラレータ・プログラムのポートフォリオには現在45社のスタートアップがいて、今年新たに40社が加わる予定だ。R/GA はこれらのスタートアップを自社のクライアントに引き合わせ、ピッチやセールス機会の創出を提供する。

Plumlee 氏から見て興味深いのは、グーグルやナイキといった大企業と仕事していることが多い R/GA の社員たちが、真面目にスタートアップと仕事をしたがることだ。これが結果的に、R/GA にとっても新しい優秀な社員の獲得や、既存社員の離職率の低下という形で恩恵をもらたしている。プログラムを通じて売上があることも事実だが、むしろ、大企業と長期的なプロジェクトに臨むことが多い R/GA にとって、短期的に結果を出さなければならないスタートアップのマインドセットに接することで、R/GA がスタートアップから学んでいることは少なくないと、Plumlee 氏は語った。

Dodgers Accelerator で実現していること

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Los Angeles Dodgers Accelerator with R/GA – Image credit: Los Angeles Dodgers Accelerator

TechStars との協業を通じてアクセラレータ・プログラム運営のいろはを身につけた R/GA だが、昨年の LA Dodgers とのアクセラレータ・プログラム以降は独自運営の形に切り替えた。TechStars とは違う、よりパートナーと密接に近い形でプログラムを運営することにしたからだ。Plumlee 氏によれば、LA Dodgers はこれまでにも多くの投資やプロモーションを手がけている会社であり、以前からしっかりとした経営戦略や展望を持っているので、アクセラレータ・プログラムを LA Dodgers 向けにカスタマイズしたのだそうだ。

Dodgers Accelerator では、スポーツとエンターテイメントにテーマを特化している。スポーツ、エンターテイメント、テクノロジー、メディアといった広い分野のスタートアップと互いに関われることが狙いだ。Dodgers Accelerator に参加したスタートアップは、プログラムの1日目から LA Dodgers とトライアルやパイロット(試験サービス)に着手することができ、LA Dodgers を通じて、野球業界のみならず、あらゆるスポーツやスポーツゲームの企業に紹介してもらうことができる。提供できるアセットは、何より R/GA や LA Dodgers の人材やクライアントのネットワークだ。

プログラムを通じて、既にバリュエーションが1,000万ドルを超えるスタートアップが4社いる。我々は、参加してくれるスタートアップのレイヤーを増やしたいと考えている。シードスタートアップのみならず、シリーズAラウンド終了後のスタートアップでも、我々のプログラムに参加したいというスタートアップは少なくない。

年内の東京オフィス開設を契機に、より多くの日本企業やスタートアップとも協業したいと語る Plumlee 氏だが、オープンイノベーションに希望を見出す日本企業へのヒントを求められ、次のような言葉でこのセッションを締めくくった。

大切なのは、正しいパートナーと協業することだ。そして、そのオープンイノベーションは、戦略的で(strategic)、創造性に富んでいて(creative)、目的のはっきりしたもの(objective)でなければならない。

R/GA は、日本のオープンイノベーションにもイノベーションをもたらす存在になり得るだろうか。日本進出時に改めて THE BRIDGE で詳報をお伝えしたい。

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