ユニークな戦略で展開する、アジアの7つのスタートアップ・アクセラレータ〜 #ASIABEAT 2016 アモイから

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本稿は、ASIABEAT 2016(亜洲創業大賽)の取材の一部である。

中国という国は、すべてにおいて桁違いの国である。スタートアップのニュースに出てくる統計を見てみると、概ね、日本のスタートアップと比べて、ユーザの数や売上金額が一桁は違う。広い国土と膨大な人口がなせる技だ。コンサルティング会社の Zero2IPO Group(清科集団)の調査によれば、2015年に中国政府系のファンドがスタートアップに投資した資金の総額は15兆人民元(約260兆円)。中国の名目 GDP の約2割に達する数字だ。中央政府から流れた資金は、中国の VC や地方政府を通じて、スタートアップ投資へと流れ込んでいる。中国各地の都市で、雨後の筍のようにスタートアップ・ハブが生まれている背景には、そういう事情があるのだろう。

海を挟んで台湾からもほど近い、中国南部のアモイの街で、17日~18日の2日間、スタートアップ・カンファレンス「ASIABEAT 2016(亜洲創業大賽)」が開催された。日中台韓のメディアなどが手を組み、東アジアのスタートアップ・シーンの活性化に狙いを定めたこのイベントは、2014年に台北市内で開催されてから今回で2回目を数える。世界18カ国からスタートアップ80チーム、投資家100人が一堂に会したこのイベントは、アモイ市政府と同市内に6カ所のコワーキング・スペースを擁するアクセラレータ Atwork(愛特衆創)によって開催された。

1日目にもたれた「スタートアップのシード資金調達と新市場参入」と題されたパネルセッションには、ユニークな戦略を持つアジア各国のアクセラレータのエグゼクティブが顔を揃えた。このセッションに登壇したパネリストは、

  • John Tian/田智勇 氏(中国、Kr Space/氪空間 共同創業者)
  • Yanjun Zhang/張延軍 氏(中国、InnoSpace/創智空間 バイスプレジデント)
  • Norman Chang/張劭謙 氏(アメリカ、500 Startups Investment Associate)
  • Louis Ryu/柳青延 氏(韓国、ShiftAsia CEO)
  • Bikesh Lakhmichand 氏(マレーシア、1337 Ventures CEO & Founder)
  • Noa Muzzafi 氏(イスラエル、Startup East COO)
  • Chikai Huang(シンガポール、JFDI Asia プログラムマネージャー)

…の皆さん、またモデレータは、Atwork(愛特衆創)の CEO である Asics Yao/姚錦程氏が務めた。

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1337 Ventures の Bikesh Lakhmichand 氏

Kr Space は、北京に拠点を置くインキュベーション・スペースだ。もともとは中国のスタートアップ・ニュースメディアである 36Kr(36氪)を母体とするが、2年前にスピンオフし、現在では中国全土に40カ所のインキュベーション・スペースを展開。中国版 WeWork の異名を持ち、今年1月には約170億円のバリュエーションでシリーズAラウンドをクローズしている。

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Innospace は上海で2012年に設立されたアクセラレータで、中国の中では比較的小さな規模ではあるが、ハンズオンに力を入れていることから、一回のバッチでトレーニングに参加するのは10チームということだ。

500 Startups は日本でもおなじみだが、これまで世界中の1,500社を超えるスタートアップに投資をしていて、最近では特に IoT に関連するソフトウェア分野への投資に注力しているとのことだ。

テルアビブの Startup East は、サムライインキュベートのイスラエル拠点 Samurai House in Israel に拠点を置いており、台湾、シンガポール、中国、日本、韓国、東南アジアへの投資機会を模索している。来月にはイスラエル国外初となるオフィスを上海に開設するそうだ。COO の Muzzafi 氏は学生時代に中国語で東アジア情勢を専攻したため、中国の事情にも造詣が深い。

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JFDI Asia はシンガポールを拠点としており、プログラムマネージャーの Chikai Huang 氏は現在、30のスタートアップのメンタリングなどに関わっている。

マレーシアの 1337 Ventures は、設立3年目のアーリーステージに特化したベンチャーアクセラレータで、フィリピンやベトナムなどで毎年2つずつアクセラレーション・プログラムを実施している。

これまでの JFDI Asia に関する記事

ShiftAsia は、日本・中国・東南アジアなどアジア市場に特化したスタートアップを支援するアクセラレータで、CEO の Ryu 氏曰く「アクセラレータというより、投資し協業する組織」。したがって対象とするスタートアップの数も絞り込んでおり、現在、3つのスタートアップと日夜寝食を共にしている。韓国スタートアップと協業したい中国企業を募集中だ。

各国各様のアクセラレータ・シーン

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ShiftAsia の Louis Ryu 氏

上海の Innospace では、スクリーニングを経て選ばれたスタートアップにはシード資金を提供し、3ヶ月のアクセラレーション・プログラムに参加してもらう。プログラム中にはアイディエーション、プロダクト開発、ユーザ体験の改善、マーケティング、ブランディングなどについて、専門家からメンタリングを提供し、適切な投資家やパートナーを見つけられる機会を提供する。これまでに5回のバッチを実施しており、概ねバッチが終了する頃には、典型的なスタートアップのバリュエーションは4,000万〜5,000万人民元(7億円〜8.6億円相当)とバッチ参加当初の10倍になり、次のラウンドの資金調達へとつながっているという。

Startup East の Noa は、いわゆるブラックボックス・テクノロジーを、イスラエルや中国にもたらすことが、同社の目指すところだと話を始めた。

イスラエルの人口は800万人だが、そのような小さな市場では多くの企業がグローバルを目指さざるを得ない。Startup East のメンターはすべてイスラエル人であり、イスラエル人の気質として、失敗は悪いことではなく成功するのに必要なプロセスと考えるので、イスラエルはイノベーションには完璧な場所と言えるだろう。

もともとは本の名前だった「Startup Nation」がイスラエルの代名詞となり、昨年だけでイスラエル国内には17のアクセラレータが誕生した。イスラエル軍がアクセラレータをやっていることも特筆すべきだ。軍が国を創り、国が軍を創る、という言葉さえある。

Startup East の Noa Muzzafi 氏
Startup East の Noa Muzzafi 氏

500 Startups では、ここに関わる人の3分の1はアメリカ国外出身者だ。現在では出資活動もグローバルに展開しており、東南アジアや東アジアで積極的に行っている。JFDI Asia は東南アジアの中心地であるシンガポールに拠点を置いていることから、この地域の人口の60%が30歳未満で、急激に拡大する中流階層人口がスタートアップの成長を助けるエンジンとなっていることを指摘した。

マレーシアの 1337 Accelerator は、東南アジア各国でバッチを実施し、1バッチあたり25チームのスタートアップを選出している。CEO の Bikesh によれば、アジア全体で見たときに、バッチ参加チームの中には、市場は違えど同じようなビジネスを展開しようとするチームがいることがあるので、彼らを引き合わせて互いに株を持ち合わせさせるなどして、市場横断で共同で一つのサービスを作り出すことを促すこともあるそうだ。

東南アジアでは、それぞれの市場に特徴がある。マレーシアはテクニカルな面に強いし、インドネシアはクリエイティブだ。フィリピンはアウトソーシングに適しているし、シンガポールは金融に強いので CFO 人材を調達する、というような、各市場の強みを生かしたグループ組成が可能だろう。


往々にして、国内の市場が大きくないコミュニティにおいて、スタートアップの多くはグローバルやリージョナル(国の域を出た、アジアやヨーロッパなど)の市場を目指す傾向が強く、国内に大きな需要を抱える市場においては、スタートアップの多くは国外に関心を示しにくい。前者は韓国・台湾・東南アジアの諸国など、後者は日本・アメリカ・中国のスタートアップの典型例だ。

今回の ASIABEAT で面白かったのは、国内市場が巨大であるにもかかわらず、中国のスタートアップがグローバル市場に可能性を求めるトレンドが顕著になってきている、という事実だ。グレートファイヤーウォール(金盾)の恩恵に預かり、欧米のウェブサービスのコピーキャットがあふれていた中国のスタートアップ・シーンで、世界に勝とうとするスタートアップが現れ始めたのだ。

中国のスタートアップ・トレンドが世界のアクセラレータやスタートアップにどのような影響を与えていくか——この点については、ASIABEAT の他のセッションでも論じられたので、近日中に THE BRIDGE 上で詳しく取り上げたい。

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