スタートアップを立ち上げることは特別なんかじゃない。誰も君に借りなんかつくっちゃいない【寄稿】

Jon-Westenberg起業家、ライター、コメディアン、そしてクリエイターでもあるJon Westenbergさんによる寄稿記事です。Jonさんの活動は、ご本人のWebサイト、またTwitter(@jonwestenberg)でフォローできます。本記事は、Mediumに投稿された記事をJonさんから許可を得て翻訳したものです。元の英語記事もどうぞ。


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スタートアップがいまクールだってのはわかってる。超注目されているのは確かで、その存在はメインストリームのスポットライトの下に見事に躍り出た。20歳かそこらの若い奴が、仕事を辞めて10億稼いだなんて話を目にしない日はない。

君もその仲間入りをしたいと思ってる。だろ?なんとも言いようのない、スタートアップとやらいう存在をつくりたいと思ってる。ゴールドチケットを手に握る超天才になりたいと。

君はTVドラマ「Silicon Valley」の見過ぎなのかもしれない。または、快適な中級階層から億万長者に成り上がった白人の若者についてのストーリーを耳にしすぎたのかもしれない。

そんな奴はくたばっちまえ。

スタートアップが何かを知ってるか?それは事業だ。実に単純でシンプルだ。

それは、何十年も前、オーストラリアにたどり着いた何十万人という移民がしていた仕事と何ら変わらないし、それに勝るものでもない。彼らは店を開き、そこで何かを売った。

スタートアップは魔法じみたものでもなければ、魅惑的なものでもない。iPhoneアプリを開発していて、事業のドメイン名の終わりに「.ly」とか「.co」がついているからと言って、世界に羽ばたくための無料チケットを手にしたわけじゃない。

スタートアップをやっているからといって、君が他とは違う特別なスノーフレーク(雪の結晶)だということにはならない。

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1. 誰もスタートアップの創業者に借りなんぞつくっちゃいない

そこそこの頻度で目にするんだ。若い創業者が家賃を支払うために寄付を受け付けるページを開設してるのを。なんたって、彼らはスタートアップを立ち上げることに集中していて忙しいから。

自分が選んだキャリアが持つ美徳によって、あたかも世間が彼らに借りでもつくったかのように。

違う。そうじゃない。君らが尊敬する有名企業の創業者は、自分たちが何かをつくりることに集中できるようにと、他人から援助してもらうことを期待していたと思うか?

これは慈善事業なんかじゃない。世間には、君に敬意を払う義理はないし、許しを乞う必要もなければ、寄付をする必要もない。

君がスタートアップの外の世間を、まるでコラテラルダメージや、早々と降参した人間のように扱う時にも同じことが言える。

ディスラプションは、「世界をより良くする」という意味を持つ言葉ではない。もし君が実際に世界をより良くしていないのなら、世間は君に何も借りをつくっちゃいない。

こういう姿勢や態度の節々には、「権利」の主張の臭いがプンプンする。

2.スタートアップは事業の最高形態ではない

これには驚く人もいるかもしれないが、スタートアップは決してビジネス革命における一流の形態などではない。

ただ、スケールできる事業、プラットフォーム、デジタル資産、またはアプリがあるからといって、単純なデザイン事務所より優れたビジネスモデルを保持していることにはならない。

それがスケートボードをつくってる会社よりも優れたモデルだとも限らないし、コンサルティング会社や配管工事会社より優れているわけでもない。スタートアップの典型的なディスラプションとスケールに基づかない、その他のどんなモデルや構造、プロダクトを持つ事業にも同じことが言える。スタートアップという形のほうが他より優れているなんてことはない。

事業は事業。これが事実だ。それぞれに異なるゴールがありえる。ゴールが違うからと言って、一つが他より優れていることを意味するわけではない。

100万人のユーザーを目指すプラットフォームをつくるなら、そしてそのゴールを達成したなら、それは素晴らしいことだ。

でも、一生懸命立ち上げた街角の店が、5万ドル(1ドル100円の単純計算で500万円)の売り上げを稼ぐのに汗水流し、それを達成した時、君の事業が彼女の事業より優れていることには決してならない。

3.スタートアップは究極のキャリアなんかじゃない

僕は、世界中で最も優れたデザイナーは、Jony Iveだと思っている。僕の意見に賛同する人は多いだろう。でも、彼はAppleを創業したわけじゃない。スタートアップをつくったわけじゃない。

彼がしたことは、そこで働くことを愛して止まない会社で仕事に就くことだ。

そして彼はその仕事をこれ以上なく、素晴らしくやって遂げた。優れたプロダクトをデザインした。彼はたくさんのお金を稼ぎ、何百万人という人たちに影響を与えた。彼がスタートアップをやるために仕事を辞めなかったからといって、彼のキャリアに対する尊敬の念が減るだろうか?そんなことはない。

創業者や起業家がより優れた人間だという考えには危険がはらむと思う。会社を自分で立ち上げたから、自分の人生のほうが他より優れ、価値が高いと考えるのは。事実そうではないのだから。

誰かのキャリアに価値があるかどうかは、彼や彼女が自分が誇りに思えるプロダクトやプロジェクトをつくったかにある。それだけだ。スタートアップを始めない人間に価値がないだなんて、どこにも書かれていない。

君が創業者で、安心して仕事を任せられる優れた働き手を、起業家と同じくらいに尊敬できないなら、君に言いたいことがある。君の会社に明るい未来はない。

なぜなら、その優れた働き手こそ、君の会社を素晴らしいものにしてくれる唯一の存在だからだ。彼らのキャリアを尊重できないなら、そこには長く険しい道が待っている。そして、彼らは じき去っていくだろう。

4. スタートアップはアートに勝らない

世界はスタートアップを中心に回ってなんかいない。僕たちの生活に大きく影響しているからこそ、そう考えたい誘惑を感じるのはわかるが、実際にはシリコンバレーから程遠いところで見つかる価値は山ほどある。

僕たちの社会にはアーティストが必要だ。ライターも必要だ。歴史家も必要だろう。人間の状況や進化を記録していく人たちの存在が必要だ。そして、人類がどこから来て、何者で、どこに向かっていくのかを学ぶ人たちが。

社会において、アートは非常に重要な役割を果たす。テクノロジー、起業家精神、STEMなどだけに価値を置き、アートをないがしろにすることは、誤った自己中心性を象徴している。それだけ、スタートアップの世界が超自己中だということだ。

君は、何千人という芸術大学の卒業生、生徒や見習いより優れているわけじゃない。彼らは、社会における倫理、情熱、自由を得るための意志といった社会を形成するための素材や思想を生むことに貢献しているのだから。

5.スタートアップは平等でもなければフラットでもない

スタートアップが特別なものだと思っているなら、周りにいるストレートで若い白人男性以外の人間に意見を聞いてみるといい。その意見は君の目覚めとなり、自分が身を置く業界が、どれだけめちゃくちゃなになれるのかに気づかせてくれるだろう。そこには大量の差別がある。

テクノロジー業界やスタートアップの世界には、性差別や人種差別が絶えない。そこは、完璧からは程遠い。スタートアップを立ち上げて100万ドル以上の資金を調達できた黒人女性の人数を知ってるか?自分で調べてみるといい。一つや二つ、学ぶことがあるかもしれない。

こういう問題に直面する業界に飛び込む時、スタートアップは何も特別なものではないことを受け入れる必要がある。スタートアップをやることは何も特別なんかじゃない。

君は、他の業界と同じくらいに、何層にも深く分かれた差別が存在する場に足を踏み入れ、関わろうとしているのだ。

・・・

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いますぐやめろと言ってるわけじゃない。君が失敗すると言っているわけでもない。僕は単に、傲慢さは災いであると言っているだけだ。そしてどんなギリシャ神話の中でも、傲慢さは最終的に破壊の道をたどる。スタートアップは世界で最高だと君が信じる時、その傲慢さは姿を表す。

より優れた道。より気高い道。他より価値の高いライフスタイル。

もちろん、それは素晴らしいものかもしれない。現に、僕の人生は複数のスタートアップの存在によって便利になっている。そして、彼らと関わることを嬉しく思っている。今後も、少なくとも近い将来は、そうした創業者やスタートアップと一緒に仕事をし続けるだろう。

でも、傲慢さという問題があることを認める必要がある。自己中心的になり、他の人、他の全てより自分たちが優れていると信じていることを認識し、改める必要がある。

もし君が創業者なら、地に足をつけ、そうした誤った考えに染まったり、自分が特別だという錯覚に陥ったりしてはいけない。傲慢で嫌な奴にならないために。

本質的には、スタートアップをやること自体に何の誤りもない。僕自身、創業者に会ったり、彼らと仕事してどこか素晴らしい場所にたどり着いたりすることを楽しんでいる。でも、頻繁に遭遇する「俺たちには権利がある」的姿勢は何かが違っている。

スタートアップの創業者であることは君を特別な存在にするわけじゃない。自分を特別だと信じることは、とてつもない失敗、非倫理的な意思決定、PRの大惨事、失敗に終わるプロダクト、幻滅した従業員、君に敵対する人々に繋がるものだ。

(翻訳:三橋ゆか里)

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