ソニーがプレイステーションのVRヘッドセットを399ドルという価格で出したことで、にわかに盛り上がりつつあるVR(仮想現実/と、もうちょっと先のAR/拡張現実)ですが、VentureBeatにこの業界のグル、Tipatat Chennavasin氏のゲストポストがありましたので抄訳しながらご紹介したいと思います。
因みにゲストポストしているTipatat氏はこのVRランドスケープの図を作成した人物で、VR・AR、360度動画のクリエイターでもあり、モバイルゲーム会社を設立した起業家でもあります。
VR・ARに関してはRothenberg VenturesにてVR・AR関連のアクセラレーションプログラム「River New Frontier Accelerator Program」を共同創業したことでも知られていて、投資活動に関しては、国内のモバイルゲームデベロッパー、gumiの代表取締役、國光宏尚氏ら3名で5000万ドル規模のVenture Reality Fund(略してVRファンド)を立ち上げるなど、精力的な活動を続けております。
<参考記事>
そんな彼が予想するVR関連の今年の動きはこんな感じだそうです。
- VRは素晴らしいがまだ道のりは長い
- モバイルが先にやってくる
- シャベルとツルハシを作って売れ
- コンテンツが全て
- ゲーム以外の可能性を考える
- VRの入力装置が全てを変化させる
- 世界中に広がるVRコミュニティ
Tipatat氏によれば、現在、VR(恐らくAR関連もだと思うのですが)関連のスタートアップは世界で少なくとも700社、20万人の開発者がここに携わっているのだそうです。ランドスケープマップにあったのが280社程度でしたから、あそこに含まれていないスタートアップが倍以上いるというのは大変な驚きです。
ただ、まだデバイスも第一世代がようやく出たばかりで、端末価格もソニーのプレイステーションVRが他と比較して低価格だったことは冒頭に書いた通りですが、もちろんながらこれはプレイステーション本体価格を含んでいませんので、結果的にはやはり各社1000ドル程度の価格感になってくるのは仕方がなさそうです。
ここでTipatat氏が注目するのがモバイルVRの世界観、つまりはGoogleのCardboardやSamsungのGear VRといったスマートフォンを代替とするソリューションですね。こちらは既に500万ユーザーにリーチしているということらしいので立ち上がりはやはりモバイルVRからだろうと。
モバイルゲームで培われたアプリ生態系やコンテンツ制作ノウハウなど、同等の考え方で発展的に移行できるものもあるでしょうから、この流れは想像しやすいです。
ただ、スマートフォン・コンテンツで培った技術がそのままこのVRで使えるかというと、やはり無理があるらしく、VRやARにはそれにあった環境が必要になってきます。
ここで彼が次に注目しているのがいわゆる「シャベルとツルハシ」。ゴールドラッシュに遭遇したら金を掘る道具を売れというのは鉄則ですが、やはり開発環境やプラットフォーム、解析など周辺領域でのビジネスが盛り上がるだろうとしていました。
ではコンテンツはどうでしょうか。やはりれい明期ですからこのVR領域で素晴らしいプロダクトを作ることはもちろん、新しいブランドやIPが生まれることも示唆しています。
ソーシャルゲームでは従来のコンソールでは見たこともなかったKingやSuperCellなどの企業が躍進しましたが、これと同様のこと起こるだろうし、また、その種が撒かれるのが去年から今年にかけて、というのは確かに納得がいきます。
またゲームだけでなく、先日お伝えしたVR映画館のような「Not Game」の分野も興味深く、VR特有の没入感という体験性をうまく転用することで、教育や医療、デザインやコミュニケーションなど、その他幅広い分野に影響をもたらすという視点も重要です。
スマートフォンシフトの時にはいわゆる「モバイル」という価値観がUberをはじめとするオンデマンド経済圏や、モバイルコンテンツ・ゲームといったエンターテインメントなどのサービスを生み出しました。VRもヘッドセットだけでなく、新しくコントローラーなどの入力装置を追加しており、スマートフォンが各種センサーやGPSなどの機能を追加することでサービスを拡張させていったのと同様に、体験性を今後拡張させる可能性は十分にあります。
スマートフォンの代名詞と呼ばれるiPhoneの第一世代が出現したのが2007年のことです。3G端末が国内で販売された時、多くの人たちがこれはある一部の人たちのものだと考えていたと思います。そして今来ているVRもまさに同じような雰囲気かもしれません。
個人的には今後、このようなことが起こるのではと予想しています。
- 主にデバイスに必要なパーツや開発環境(シャベルとツルハシの部分)で投資が進む
- VRやAR関連のメディアが登場し、海外情報が山ほど流れてくる(UploadVR等)
- 国内でもボツボツと映画館や娯楽施設でのテスト導入が進み、メディアで見る機会が増える
- VR・AR・MR(ミックスド・リアリティ)のオリジナルOSをどこかが作る
- アプリ経済圏のストアをどこかが作る
- 同時期ぐらいにAR・MRのデバイスが登場
- 現実世界で情報を拡張させることが可能になり、スマホシフトでのコンテンツ組が本格参入
- 市場が爆発してスマートフォンから一気にシフトが進む
デバイスの変化がキモで、恐ろしいほどの資金調達をしているMagicLeapは、このAR・MR向けのデバイスを開発できるメーカーとして評価されていると聞きます。つまり、iPhoneを生み出したAppleのような存在です。確かにそうなったら今の投資金額も安く感じられるほどです。
ちなみにヘッドセット型の没入型デバイスと違い、AR・MRのデバイスは現実を拡張しますので、透過型のデバイス(主にはメガネやコンタクト型)になると予想されています。※この記事の最後にオムロンの網膜直射型試作機の動画を貼ってあります。
ということで、Tipatat氏の2016年VR考察から少し先のAR関連まで現時点での情報を整理してみました。海外では本当にVR・AR関連の話題が多く、かつてのスマートフォン・シフトを感じさせる情報量になりつつあります。ということで引き続き追いかけて参ります。
【via VentureBeat】 @VentureBeat
【原文】
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