Gareth Wilson氏はFog Creek Softwareの役員である。同社は設立15年のソフトウェア開発企業で、Stack Overflow や Trello など多くの成功を収めているスピンオフ企業を生み出している。

次に成功するスタートアップを見極めるのが難しいため、多くのベンチャー企業は、無駄の多い「数打ちゃ当たる」戦略を取ってしまう。そして、時には1000以上の投資をして、運良く大きなスタートアップが成功し、失敗した投資分も取り戻せるほど儲かることを祈る。
対照的に、既に良く知られた会社のスピンオフは、投資リスクが低い。これは、投資家が親会社の評判、インフラ、実績などをはっきりと理解しているためだ。創業者にとっても、一からスタートアップを始めるよりもスピンオフを指揮する方が利点がある。スピンオフであれば、VCからの資金調達をより容易に、かつ好条件で受けることができる可能性が高いからだ。
スピンオフ が VCを惹きつける理由
スピンオフとは、既存の会社から作られる新会社のことだ。企業活動では一般的なことで、毎年アメリカ国内だけでも約50社のスピンオフが生まれており、しばしば他の形態の企業の誕生数を上回ると知られている。学術界でも一般的で、大学が研究成果を実用化することを選択したり、同様の成功実績がある場合に、他の企業よりも108倍、IPOする可能性が高い。
しかし、そうであるにも関わらず、スピンオフはスタートアップ企業では一般的ではない。スタートアップが通常一つのアイデアに固執し、最も成功すると考える一つのアイデアに展開していく傾向があることを考慮すれば、これは驚くべきことではない。
しかし、投資家にとってスピンオフがしばしばより魅力的なのには多くの理由がある。投資家が投資先のスタートアップを検討する際に、どのようなスピンオフの形がすべてのチェック項目を満たすに値するのかを以下に見ていこう。
1. 大きなビジネスチャンスがある
スピンオフは既存の業界知識を駆使しながら、どこにビジネスチャンスがあるのかを見極めることができる。なので、新チームは大変な仕事がスタートする前に、そのプロダクトの市場がどこにあるのかを既に理解している。
たとえば、SitePointは、ウェブ開発者のために作られたコミュニティサイト(Alexaで1281位)で、オンラインチュートリアルや活字本のようなコンテンツを作り出している。このウェブサイトを運営する創業者のMatt Mickiewicz氏とMark Harbottle氏は、ウェブサイトの売買に関する議論スレッドをまとめる機能に対する需要が非常に多くあることに気付いた。
需要がとても多いため、彼らは書き込みに課金を始めた。この直感的な判断で成長に拍車がかかり、最終的にこのスレッドを独立した製品にすることを決定した。こうしてFlippaが生まれ、現在、オンライン上でのウェブサイト売買の主要な場所となっている。
続いて、別の人気サイトSitePointの討論スレッドが元になって、創業者らはデザインの討論の場、99designsをスピンオフとして立ち上げた。この99designsはこれまでに4500万米ドルを調達し、世界で急速に拡大している。
直近では、Mickiewicz氏はデザイナーや開発者と協力して仕事をしていた経験をベースにして、現在では求人サイトHiredとして知られるDeveloperAuctionを作るに至った。Hiredは7000万米ドルを調達し、事業の一層の拡大のためにスタートアップ3社を買収した。
SitePoint から分かった市場のチャンスは、最終的に成功したいくつかの関連したスタートアップスピンオフを立ち上げる上で非常に重要なものであったことが証明されたのだ。
2. 実現可能性の高い製品をつくれる
スピンオフを作った会社が高い評価を受けたことで、投資家は、スピンオフが良いということを以前よりも容易に信頼できるようになった。基本的には、新製品はオリジナルの製品の延長として始まる。試行錯誤を重ね、テスト済みの技術が基本にあるということだ。また、製品が満足いく品質に達するまで、既存会社の資源を使って製品開発を支援できる。
たとえば、音楽業界で急成長しているソフトウェア会社のReverbNationからスピンオフしたAdWerxなどがそうだ。一見すると、全く関連していない製品のように思えるが、不動産業者の広告ツールであるAdwerxは、会社の資源を使ってスピンオフ、市場進出前にアイデアを考え、テストし、洗練させた。投資家の一人は、ReverbNationがこのスピンオフビジネスを生むのを見て、親会社のシリーズCに投資しようという気になったと語ったほどだ。
3. 優秀な経営チームがある
投資家はいつも、契約を結ぶ前に信頼できる有能な経営チームを求めている。ベンチャーキャピタリストのMark Suster氏は「個人的に重視するのは、経営が70%、製品が30%ですね。しかし、どのような投資家であれ、経営チームが素晴らしい印象を残せない限り、投資を呼び込むのは奇跡に近い話でしょう」と語っている。
適任な人物がCEOを務めていること、業界での有能な社員がいること、なめらかに動く機械のように機能するオフィスがあることは、アイデアを信用してもらう上でお金に代えられない価値がある。
Quiet Logisticsなどはその好例で、Bonobos、Ministry of Supply、M.Gemi.などのブランドの10億以上の価値がある商品を配送しているサードパーティ物流業者である。この会社のチームは、倉庫ロボット会社Locus Roboticsをスピンオフさせた。Locus Roboticsは、Quiet Logisticsを支援したのと同一の投資家から600万米ドルを調達した。それは、Quiet Logisticsの経営チームに対する信頼によるものだった。
しっかりした基盤のある会社は、独自条件を交渉できる
そして、スピンオフは投資家だけでなく起業家にとっても有益だ。スタートアップが投資家にとって魅力的に見えれば見えるほど、その会社は独自に条件を交渉できる。これは、Fog Creekで実際に経験したことで、弊社がタスク管理のスピンオフ、Trelloを設立した時の話だ。
4億米ドル強のスピンオフ、Stack Overflowのような過去の実績の力で、Trelloを設立した後に以前に取引していた投資家の支援を再度受けることができ、弊社独自の条件を出すことができた。
さらに、弊社の社内リソースが十分にあったおかげで、より大きなトラクションが得られるようになった最後の段階に到達するまで、投資家に頼る必要がなかった。その結果はこうだ。Trelloの共同設立者Joe Spolsky氏は次のように語っている。「大きな関心を得られたおかげで、Stack Overflowに投資してくれた投資家に支援してもらうだけで済み、しかも自分たちの望む値段や条件を得ることができた。」Trelloは即座に1030万米ドルの資金調達ができたのだ。
スタートアップスピンオフの成功は、大企業にも知られるように
スタートアップのスピンオフによる成功は、大企業にも知られるようになった。例えばAOLは、スピンオフ文化の要素をAlpha製品グループに組み込み、実験的なプロダクトを次々と生み出すことを目指している。
「一つの大きなアイデアに大きな賭けをして失敗し、ダメになってしまうのではなく、小さなアイデアをたくさん集めて、2~3ヶ月をかけて一つ一つの小さなアイデアを最小限の実現可能性のある製品にします。そして、その製品を市場に出し、利用者が気に入ってくれるかを見てみたいのです。」
資金調達には冬が到来し、VCは賢い投資をより少ない回数で試みる中、スタートアップスピンオフの手法は、これを利用しようとしている起業家にとって非常に貴重なものだと証明されるだろう。
【via VentureBeat】 @VentureBeat
【原文】
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