アジアで一番のスタートアップ・ハブはどの都市か、福岡・ソウル・台北・香港の論客が徹底討論〜 #ASIABEAT 2016 アモイから

SHARE:

asiabeat-xiamen-2016-startup-city-comparison_featuredimage

本稿は、ASIABEAT 2016(亜洲創業大賽)の取材の一部である。

アイルランド・ダブリンで、毎年3万人以上の参加者を集めてきたスタートアップ・カンファレンス WebSummit が、今年から開催地をポルトガル・リスボンに移す。「ダブリンには、3万人を収容できるだけのホテルが無いから」とか、「アイルランドで国際イベントを開催すると、入国にビザが必要になる国が多いので国外からの参加者が大変だから」とか、関係者周辺からはいろんな理由を耳にしたが、どうやら、リスボンの政府がお金を払って、WebSummit を誘致したというのが真相らしい。

リスボン政府は WebSummit に年間130万ユーロを少なくとも3年間、つまり、最低でも約5億円相当を WebSummit 側に支払うといわれている。ヨーロッパの主要都市がこぞってスタートアップハブとして名を上げる中で、すでにブランド力のあるイベントを誘致してスタートアップ・ハブを作ろうという発想はお役所的という批判を浴びているが、仮に5億円でスタートアップ・ハブの種まきができるのであれば、それはお買い得な買い物と言えるだろうし、生まれたスタートアップから生まれる税収や雇用を考えれば、回収が難しい金額でもない。

asiabeat-xiamen-2016-broaderview-1

今回、ASIABEAT なるイベントを仕掛けたアモイという街も、台湾や香港に飛行機で1時間かからずに行けるという地の利を生かして、国際的なスタートアップ・ハブになろうとしている。北京や上海に比べ、海外から来る人々にオープンな印象を受けるのは、シンガポールをはじめとする、多くの華僑の故郷がこの地であることからもわかるように、国の外に対して目を向けるアモイ人の気質が影響しているのかもしれない。

3月にアモイで開催された ASIABEAT の中で、アジアの主要都市の投資家や起業家を招いての、都市比較のパネル・ディスカッションがあったので紹介したい。このセッションのパネリストは、

  • 福岡:橋本正徳氏(ヌーラボ 共同創業者兼 CEO)
  • ロンドン:Tak Lo 氏(Venture Partner of Mind Fund
  • ソウル:Sungjae Hwang(황성재)氏(CCO of FuturePlay
  • 台北:Kevin Chen(陳仲璘)氏(Partner of Pinehurst Advisors
  • 香港:Casey Lau 氏(Co-founder of StartupHK

また、モデレータは、フィンランド発のスタートアップ・カンファレンス SLUSH の CSO である Martin Talvari 氏 が務めた。

asiabeat-xiamen-2016-startup-city-comparison_tak-lo
Tak Lo 氏

以前は Techstars London のディレクターを務め、現在は香港を拠点に Mind Fund を運営する Tak Lo 氏は、ロンドンと香港の両方の街の顔を知る人物だ。その立場から次のように述べた。

ロンドンには、2つの街としての顔がある。金融の街、そして、人材の街だ。デベロッパーというべきか、テックタレントというべきか、呼び方はともあれ、彼らをすぐに集められる。興味深いのは、経済が失敗した地域から人が集まってきていることで、スペイン人やポルトガル人のデベロッパーが、比較的安い賃金で雇用できる。それに、ロシアや中東の資本が多くやってきているのもロンドンの特徴。そういうお金は、香港にはやってきていないね。

asiabeat-xiamen-2016-startup-city-comparison_hwang-chen-hashimoto
左から:Sungjae Hwang(황성재)氏、Kevin Chen(陳仲璘)氏、Casey Lau 氏

香港に対するやや挑発的な投げかけに、香港のスタートアップ・コミュニティ StartupHK の共同創業者で、Softlayer のスタートアップ支援プログラム Catalyst Program でコミュニティ・デベロップメントを担当する Casey Lau 氏は、香港の特徴を次のように説明し〝反撃〟した。

ロンドンに比べれば香港は小さな街だし、他のアジアの国に比べても小さい。しかし、成長力は大きいし、起業家精神も強いといえるだろう。香港の一つの利点はスタートアップ・シティーであることで、国際的であること。香港人、韓国人、日本人だけでなく、北アメリカ、ヨーロッパ、アジアから人が来ている。香港を拠点にアジアを飛び回るのは容易だからだ。

香港の市場として見ている起業家はいない。香港を活動拠点として使っているだけだ。そして、昨年からは、ヨーロッパを拠点とするスタートアップ・カンファレンス WebSummit が RISE として、香港で開催されるようになったけど、RISE も香港のカンファレンスというよりは、香港で開催されたグローバルなカンファレンスだ。香港を中国だと思ってやってくる欧米人も多いけど、中国でビジネスするのと香港でビジネスするのは明らかに違う。香港に来るだけじゃなくて、そこからアジアへ、上海へ、北京へ行って、スタートアップを始める人にもっと会いたいね。

モデレータを務めた Martin Talvari 氏は、過去3年間で82カ国に行ったという。その結果、各都市別にインターネット速度、生活費、ヘルスケア、言語、政府へのアクセス、渋滞の頻度、ビザなどの情報を集めた表を作成した(下の写真はその一部)。

asiabeat-xiamen-2016-startup-city-comparison_talvari-matrix

生活のしやすさという点からは、台北はアジアで上位に評価されるのだという。Kevin Chan 氏が台北の利便性をアピールした。

台北はテック・スペースとして知られており、これまでに多くの企業がよいプロダクトを出してきた。優秀なエンジニアも多い。生活に関して言えば、香港やロンドンよりは生活費が安くて住む。空港へのアクセスも便利で、上海へは1時間で飛べる。台湾政府はエンジェル投資を提供しており、これはほぼ助成金のような感じだ。台北に会社を作れば、3万ドルから30万ドルの助成金が得られる。これまでに200社が申請して、資金を獲得した。台湾政府は台北で事業を始めたい起業家にもビザを供給している。もちろん台北には困難なことも多くあるが、むしろ、多くのチャンスがあると言っていいだろう。

asiabeat-xiamen-2016-startup-city-comparison_talvari-hashimoto
左から:Martin Talvari 氏(モデレータ)、橋本正徳氏

福岡に本拠を置くヌーラボの橋本正徳氏は、福岡の特徴として、空港からの市内へのアクセスが圧倒的に近く、住居やオフィスの賃料も東京に比べ、圧倒的に安くて済むことを指摘した。

韓国から参加した Sungjae Hwang 氏は、ソウルの良さを次のようにアピールした。

とにかく、インターネット速度は速いと言える。コーヒーショップの多さも、他の都市と比べて最高レベル。そして、ソウルの中心部には、美容整形外科が多いことで有名なわけだが(笑)、政府が開設したスタートアップのためのスペースが20以上もある。他の都市と比べても、ソウルのコストは安いだろう。特に言えるのは、特許を出願するのにかかるコストから1万ドル〜2万ドルと安いこと。これはアメリカの約3分の1のコストで、知的所有権や技術を少ない金額で守りたいスタートアップにとっては、理想的と言える。

モデレータの Talvari 氏が6人のパネリストに、もし今住んでいる都市に住めなくなったら、どこに住みたいかと質問したところ、サンフランシスコ、シアトル、インドネシア、ロンドン、パリなど、それぞれ口々に声を上げる中、Casey Lau 氏が興味深い指摘をした。

アジアはどこに行ってもお金があると思う。お金が最も重要だという Tak Lo 氏の考えには異議を言わざるを得ない。もっとも重要なのは人だ。だから、もし香港を去らなきゃいけないときは、サンフランシスコに行こうと思う。それはシリコンバレーに行きたいからでも、ライフスタイルを好んでいるからでもない。エコーチャンバー(訳注:同じ考えや思想を持った人が共鳴していくコミュニティ)があるからだ。これが一番大丈夫だと思う。つまり、アイデアを試すエコシステムがあり、人々をつなぎ、やりたいことが真っ先にやれる。香港以外で資金調達した多くの香港スタートアップも、結局、香港に戻ってくるのは、そこに人がいるからなんだ。

筆者も多くの人から「どの街が、スタートアップ・ハブとして一番面白いですか?」という質問をよく受けるが、その答えは東京でもなければ、シリコンバレーでもない。すべての街には、ユニークなアドバンテージがあるからだ。しいて言うなら、世界のどこへでも、いつでも出かけていけるだけの機敏性を確保しておく、ということだろうか。

名前は失念したが、とある有名な投資家兼起業家は「スタートアップの CEO ともなれば、起業から数年後には、業務の多くを他のメンバーに任せ、CEO 自らは世界中に営業や提携に出かけるのが仕事」と言っていたし、ソフトバンクの孫正義会長も、出張先であれ「自分の今いる場所が本社」と言っていた。国境を越えて、いろんな拠点でビジネスができる WeWork のようなサービスが存在する今日、起業家に街に立ち寄ってもらうことを意図した「アントレプレナー・ツーリズム」のような発想が出てきてもよいのかもしれない。

bunnyteam-in-tokyo
日本語版インターフェイスの立ち上げのために、2015年にチームごと東京に滞在して開発をしていた VoiceBunny のメンバー。関連記事はこちら

<関連記事>

----------[AD]----------