4月18日、東京・外苑前のマイネットオフィスに、二人の CFO が登場した。
一人は、昨年11月に上場した Square の CFO サラ・フライアー(Sarah Friar)氏。もう一人は、日本でも続々と店舗を展開しているBlue Bottle Coffee の COO & CFO(最高執行責任者&最高財務責任者)デイビット・ボウマン(David Bowman)氏だ。
サラは、マッキンゼー・アンド・カンパニーを経て、ゴールドマン・サックスへ入社。ゴールドマン・サックスでソフトウェア部門のアナリストとして活動した後、テクノロジー業界へと足を踏み入れた。
デイビットは、ボストンコンサルティンググループにて、主に小売や消費者向けのパッケージ商品の業界のプロジェクトリーダーとして活躍したのち、ブルーボトルコーヒーに入社。
両者ともに、金融業界やコンサルティング業界からテクノロジー業界へと転身し、CFOへと就任した背景を持つ(スタンフォード大学にてMBAを取得しているという点も共通している)。
輝かしいキャリアを持つ二人のCFOが、資金調達から採用、経営における意思決定のプロセス、ブランドに対する考え方など、スタートアップを成長させていくうえで欠かせないポイントについて語った。モデレータは、THE BRIDGE Co-founderの池田 将が務めた。
ブランドはシンプルであれ
まず、二人のCFOに投げかけられたのは、「ブランド」について。印象に残るブランドを展開しているスタートアップのCFOたちは、どのようにブランドのことを考えているのだろうか。
サラ:ブランドにはあらゆる側面で一貫性が必要。ブランドは何によって成立するかを考えなければなりません。Squareの目的は、スモールビジネスのオーナーに、経済的にエンパワメントすること。ユーザは小さい企業かもしれませんが、私たちがエンパワメントすることで、大きい企業のように大きな展望をもってほしいと思っています。社員にとっても、朝目覚めたときに、より高い目的に向かい、社会にチェンジをもたらそうとするような気持ちをもってほしいと考えています。
思想や社員に求めるスタンスについて語った後に、サラが強く言及したのは、シンプルさについてだった。
サラ:ブランドは完璧なものにしたいと思っています。まず、ユーザにとってシンプルであり、理解しやすいこと。そして、クリーンなイメージを与えるものであること。ただ、シンプルにすることはとても難しいことです。そのため、私たちは足し算よりも引き算をすることに時間をかけています。
デイビット:私たちにとってブランドの定義が難しいので、ブランドのコンセプトづくりには苦戦しています。ブランドといえば、色やロゴ、名前だったりするわけですが、私たちの場合顧客の経験がなにより大事になります。ブランドだけを考えるよりも、広く会社としてのあり方を考えていきたいと思っています。Blue Bottle Coffee で「他にはない経験」を提供するためには、色々な要素があります。
デイビットが語るブランドにおける大事な要素は、サラと共通するものだった。
デイビット:私たちは、コーヒーを中心とした経験をしてもらうことを大切にやってきました。顧客は私たちのお店に足を運んだ際に、これから何を体験するかがはっきりしています。Squareと同じく、Blue Bottle Coffee もシンプリシティを追求してきたのです。
資金調達以外のCFOの役割とは何か
池田:デイビットさんは、CFOでありながら、COOも兼任されています。COOとして、ユーザーエクスペリエンスを追求することと、CFOとして利益を追求することにコンフリクトは生じない?
デイビット:CFOもいろいろですからね。私たちには、ユーザのために経験を作り出すという大きな夢があります。これは長期的に取り組む夢です。ただ、CFOとしては会社の利益を確保する必要もある。短期的にだけ考えて、長期的な利益を逃してしまうことも心配しなくてはなりません。昨年、私たちはあるチャネルを外しました。近いうちは利益が出るが、長期的には良い結果にはならないと判断したからです。これは、私が中心になって行った決断でしたが、難しいものでした。
池田:投資家からは利益を求められるかと思いますが、長期的な姿勢に対して、どうやって投資家に説明してますか?
デイビット:私は「説得」のような言葉は使いません。今はこうなっています、という結果をお見せして、そこに長期的な価値を見出してもらえるかどうか。私たちは、リテールのコーヒー店舗というビジネスをやっていて、コストを上回る収益を出している。現在のキャッシュフローがさらなるビジネスの展開につながるというストーリーを見てもらうこと。
サラ:Squareは、社員全員が株を持つ会社のオーナーです。私たちは、日々かいさhに行き、何をしなければならないかを考えます。困っている顧客がいたら、何に困っているか。日本への展開をするときには、何をしなければならないか。インフラやリスク対策のチームもいます。会社として、いま何をしなければならないかを考え、行動するのがエグゼクティブの役割です。そして、その結果の責任はCFOである私にあります。
そうサラはCFOの責任についてコメントした後、組織づくりに関してこう語った。
サラ:若い会社では、自分の仕事が毎日変わることは珍しくありません。会社の年月が経ってくると、少しずつ役割が固まってきます。私たちの役割には、メンバーができるだけ長く、柔軟に動き回ることができ、クリエイティブにやっていける会社であり続けることというものもあります。色々な部門から、色々なアイデアが出てくるのがSquareの強みでもありますから。
資金調達に備えてCFOがやるべきこと
池田:会場から、資金調達以外の時期に、CFOが何をすべきかという質問が来ていますが、これについてはどうお考えですか?
サラ:一般的な話からすると、常に準備をしています。常に会社の価値を高め続けます。実際に、もっと資金が必要になったときに、普段の努力とうまくシナジーが生まれると良いわけです。調達に向けたストーリーを作ることが重要です。投資してほしい投資家のことを常に考え、予め関係を構築しておくこと。そして、自分たちのストーリーを伝える。ビジネスを常に育て、次の段階のためにどのくらいの規模の資金が必要なのかを考え、具体的な投資家を想定しておくこと。
デイビット:サラの言うとおり、次のビジネスのための調達の準備を行っています。常にビジネスを大きくしていく。投資家の方々とは、インフォーマルな形で相続けたりしています。どこで調達するべきなのか、というタイミングが非常に重要で、ビジネスを大きくしていく中で戦略的な判断をすること。
サラ:付け加えておくと、資金調達が簡単なことのように聞こえたかもしれないけれど、本当に大変だから(笑)。私たちは去年IPOしたばかりだけれど、精神的にも、身体的にも資金調達は大変でした。
スタートアップの採用ではパッションが大事
池田:採用について、どんなことを重視していますか?
デイビット:スキルが必要な仕事もありますが、色々なバックグラウンドがあっても良い仕事もあります。大事なのは、ハートです。面接のタイミングで、相手から熱量が伝わってくるかどうか。信念が感じられるかが大事なんです。私たちの会社は、ゼロから作り上げてきているので、情熱が必要なんです。明確な判断基準はなく、ニュアンスで感じているだけなので、必ず正解するわけではありませんが、情熱を大事にしていますね。
サラ:私が採用のときに見ていることは3つです。「スマートさ」、「会社に対する忠誠心」、そしてこの2つほど重視していませんが、「経験」です。レジュメを見るときに、1年半〜2年ほどで頻繁に仕事が変わっている人は忠誠心が足りないのではと考えます。まだキャリアの長くない若者の場合は、芸術やスポーツなど何かに打ち込んだ経験があるかどうかで根気強さを見ています。根気強さのある人は会社への忠誠心もありますから。経験は最初の半年頑張れば、かなり成長します。なので、経験に関して重要度が落ちます。これまで私が採用で間違った選択をしたのは、経験に重きをおいたときがほとんどでした。
会場からの「状況は変化するがストーリーはどう捉えるか」「CFOはどのタイミングで必要か」という質問に対して、サラはこう語った。
サラ:状況とともにストーリーは変わります。変化することがあったとしても、「毎日、なぜ会社に行くのか」というブランドや会社の核となるものは変わりません。それを大切に。
「CFOがどのタイミングで必要か」という質問に対して、デイビットは、
デイビット:スタートアップは、プロダクトがマーケットにフィットし始めると、成長していきます。成長し始めてすぐにCFOが必要になるわけではありませんが、社内で誰かが財務的なことを担当する必要が出てきます。CFO的なレンズが社内にあることは、会社として决定をしていく上で必要なものだと思います。
と回答した。イベントは最後に、「起業家はタフな仕事だけど、これだけ世界を変えたいと考えている仲間がいることは素晴らしいことです。共に頑張っていきましょう」という二人からのメッセージで締めくくられた。
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