学費は出世払い、創業者と開発者に従来の大学に変わる教育を施す「Make School」の河本和宏さんに取材

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Make School 長期プログラムに参加中の河本和宏さん
Make School 長期プログラムに参加中の河本和宏さん

シリコンバレーの短期のアプリ開発者養成スクール「Make School」。遡ること、2015年1月に、このプログラムの夏季プログラムに参加した高橋麻衣さんへの取材記事をお届けしました。2015年にMake Schoolが新たに開始したのが、2年間の長期プログラムです。IT分野のプロダクトを手がけたいファウンダーやデベロッパーにとって、従来の大学に代わる存在になることを目指しています。

そのプログラムに日本から唯一参加しているのが、河本和宏さんです。勤めていたコンサルティング会社をやめて、Make Schoolに参加するために2015年11月頭にベイエリアに引っ越しました。出世払いの学費システムや、就職が決まればいつでも辞めていいなど、新しい教育のあり方を試みるMake School。その実態について、河本さんに伺いました。Make Schoolでの体験を紹介している河本さんのブログもご覧ください。

学費は出世払いの独自システム

image via. Make School
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ー従来の大学を置き換えるというMake Schoolのコンセプトは面白いですね。

はい。その背景に、コンピューターサイエンスの教育を変えたいという思いがあります。大学に通おうにも費用がかなり高く、卒業後も学費のローン返済に苦労している人が少なくありません。Make Schoolの学費は、出世払いです。卒業してから2年間、収入の25%を支払う仕組みです。自分で起業した場合は、これをストックで払うこともできます。

また、スタートアップなどでプロダクトを開発する際に使うWebやモバイルの技術は、従来の教育機関では教えてもらえないことがあります。スタートアップの現場で使われている技術を学ぶことにより即戦力として活躍できるようになるプログラムが組まれています。短期プログラムよりは時間的な余裕があるので、コーディングブートキャンプでは疎かになりがちなデータ構造やソフトウェアアーキテクチャなどコンピューターサイエンスの基礎も、クラスではカバーされています。

ープログラムの大まかな流れを教えてください。

セメスターごとに、モバイルアプリ開発やWeb開発など、特定の対象や言語・フレームワークを学ぶようにカリキュラムが用意されています。各セメスターの期間中に何かしらプロダクトをつくって、最後にはそれをDEMO DAYで発表します。前回はエンジェル投資家や企業のリクルーター、エンジニアなど200人ほどが集まりました。また、プログラムの途中で半年間、企業のインターンとして仕事をする期間が設けられています。LyftやLinkedInなど提携している会社のインターンに応募する、または自分で探すこともできます。

ーインターンシップが終了すると、今度はスクールに戻って学習をするのですよね?

基本的には戻るのですが、インターン先の企業から内定が出る場合もあります。Make Schoolは就職先が見つかればいつでも辞められる仕組みなので、いい出会いがあれば、途中でプログラムを抜けることも可能です。一人前のデベロッパーとしてやっていけるなら、いつ就職してもいい、という方針です。実際、2015年9月開始当初は32人いた生徒が、2016年3月時点で22人にまでなっています。マサチューセッツ工科大学に合格したのに、それを蹴ってMake Schoolに来て、Googleの選考を経て正社員になったような人もいますね。

ーMake Schoolの生徒について教えてください。きっとインターナショナルなんでしょうね。

そうですね、生徒は世界中から集まっています。外国籍の学生の出身国はエジプト、南アフリカ、ガーナ、エチオピア、スロバキア、オランダ、ロシア、カナダ、韓国、インドネシア、日本。スキルレベルで言うと、僕の印象ではMake Schoolの参加前から契約仕事などをやっていて開発経験が豊富な人と、基礎は知っているけれど本格的にプロダクトを作ったことがないような人とが多いです。

Make Schoolは大学に取って代わるプログラムを目指しているので、生徒の主な年齢層は18〜22歳です。高校を卒業したばかりの人、また大学をドロップアウトして来ている人が多いですね。

まずはサマースクールに入るという手も

image via. Make School
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ーそもそも、河本さんがMake Schoolに参加しようと思った理由を聞かせてください。

前職は「Arthur D. Little」の経営コンサルタントとして主に製造業系の企業を支援していました。これまで日本のものづくりは強いと言われてきましたが、今後はソフトウェアが世界を食い尽くしていきます。米国ではGoogleのようなインターネット企業によるハードウェアへの浸食、GEやGMのような伝統的な製造系の企業による大胆なソフトウェアへのシフトなど、目まぐるしい動きが見られます。今起きていること、これから起ころうとしていることを、シリコンバレーの現場で学びたいと考えました。

また、僕は昔からものづくりが好きでロボットなどにも関心があります。大学院では、自動運転車に関わる研究にも携わっていました。何かを自分で立ち上げるのか、就職してそれを遂行するのかはわかりませんが、この道を追求してみたい、ビジネスサイドだけでなくプロダクトサイドも手掛けてみたいと思って手段を探していた時にMake Schoolを見つけました。

ー同じように考える人は大勢いると思いますが、実際にMake Schoolに入ることができるのは一握りです。Make Schoolの選考はどうでしたか?

僕の期には、1,000人の応募があって32人が入学しています。実際には合格しても来なかった人もいるので、倍率は20倍程度ではないかと思います。選考プロセスは、まずレジュメを提出して、通るとインタビューやProblem Solvingの試験(暗号を解いたり、パズルを解いたり)があります。最後にコーディングインタビューが実施され、スクリーン共有のサービスを使って行われます。

基本的にプロセスは遠隔で進められますが、僕の場合は、ちょうどMake SchoolのファウンダーのJeremy Rossmannが来日していたので、最後は対面インタビューでした。選考期間は、レジュメを提出してから2ヶ月ほどだったと思います。

ー振り返って、河本さんが合格した理由は何だったと思いますか?

Googleに就職するような天才エンジニアに比べると、僕のコーディング力は劣ります。こいつ、面白いなと思ってもらえるように、自分がMake Schoolにもたらせる価値をアピールしました。例えば、日本で経営コンサルをしていたので、Make Schoolが日本に進出する際に役立てるような提案をしました。また、過去にロボットや自動運転車の研究に携わっていた時の体験やアイディアなどを話して、ポテンシャルを強調しました。

ー日本からMake Schoolに参加したい人にアドバイスがあればお願いします。

2年プログラムの参加者には、夏季集中型の「Summer Academy」経由で入った学生が多くいます。英語が苦手で面接だけで判断されると自信がない、今はそれほどプログラミングができないけどポテンシャルの高さを示したいという人は、サマーアカデミーに参加してスタッフに認めてもらうのが一番の近道だと思います。過去のサマーアカデミー参加者のお陰で、スタッフの中では日本人の参加者が勤勉でアウトプットも良いことが共通認識なので、チャンスは十分あると思います。

ネットワークの構築と教え合う仲間たち

ーMake Schoolの2年プログラムに参加してみて感じる最大のメリットは何ですか?

一番感じるのは、ネットワーキングの力ですね。実は意外と閉鎖的なシリコンバレーのコミュニティに入っていく際に、学校関係の人脈を活かすことができています。Make SchoolはY Combinator出身企業なので、Y Combinatorに関わるネットワークや、YahooやAppleの初期社員であったスタッフ・関係者のネットワークなど、Make Schoolがなければ僕は完全にアウトサイダーなので、すごく役立っています。

また週に1回、ゲスト講師が来てくれるため、そこからもネットワークが広がっています。「Craigslist」の創業者、Y Combinatorの創業者、国連のVRイニシアティブ担当者など、自分で起業するにせよ、就職するにせよ、貴重な出会いに恵まれています。

ー同じ分野で志を持つ学生仲間の存在はどうですか?ライバルっぽい感覚なんでしょうか?

人を蹴落として先に進むような感覚は全くないですね。例えば、就職が決まった学生が授業をリードして、他の学生に教えるようなクラスがあります。フロントエンドのデザインに秀でた人がそれに特化した授業をやったり、学生が他の学生のコードインタビューの対策を手伝ったり。どちらかというと、お互いに助け合う雰囲気のほうが強いですね。

ーカリキュラムが超決まっているわけではないんですね。臨機応変に学べる柔軟性があるのはいいですね。

学生は、Web全般をやりたい人、アプリをやりたい人、ハードウェアをやりたい人など、それぞれ関心があるテーマが違います。最初の数ヶ月、学生全員が同じ内容を学ぶ形でしたが、今では学生個々人の関心が上手く反映される仕組みになっています。学生とスタッフを含む全員会議があるので、学生は授業へのフィードバックを行ったり、自分の学びたいことを提案したりできます。授業に関連するコミュニケーションはSlackで行っていますね。

ー当然、授業も日常会話も英語ですよね?慣れてきましたか?

実は今、Make Schoolの仲間20人ほどで共同生活をしているんです。最初はテンダーロインの近くに場所を構えていたのですが、朝起きたら知らない人が寝ているようなことがあって評判が悪くて(笑)。今は、Hayes Valleyというカフェなどもあるおしゃれな地域に一軒家を借りて生活しています。

普段はみんな集中してコーディングしていますが、週末になると一緒に飲んだりゲームをしたりもします。クラスで使うテクニカルな言葉は繰り返し聞くので慣れてきましたが、日常会話のほうが難しいですね。スラングなど新しい表現を耳にすることがしょっちゅうですし、まだまだです。

Make Schoolで開発してリリースした「Drowsy Alarm」

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image via. Make School

ー各セメスターの終わりには自分のプロダクトを発表するDEMO DAYがあるとのことでしたが、河本さんが開発されたアプリは?

僕は、「Drowsy Alarm」という居眠り運転防止のアプリを開発しました。LyftやUberなどのオンデマンド配車サービスの普及で、アマチュアの人たちが長時間運転するような状況が増えています。これは便利な一方で、危険もはらんでいます。実際、僕も一度居眠り運転をされたことがあって、聞けば5時間連続で運転していて、朝も早かったと。冷や汗をかいたその体験が、このアプリを開発するヒントになりました。

Drowsy-Alarm

ーアメリカは基本的に車社会なので、一般の人にも十分ニーズがありそうですね。アプリが、目の開き具合を認識してアラートしてくれるんですか?

そうです。ただ、まだまだ認識精度には改善の余地があります。スマホの画像認識はコンピューティング能力に制限があるためそもそも時間を要するのですが、車に乗っていると振動があるため、余計に認識しにくいです。画像認識をいかに早くするかを試行錯誤しています。

また、Appleの端末の場合、バックグラウンドでカメラが使えないという制約があるため、アプリだとユーザビリティがよくありません。別途、小型の専用デバイスを開発するような方法も考えています。

ー実際にDrowsy Alarmを使ってみた人からの反応はどうですか?

今は、講師の人たちが使ってくれています。ただ、外国人だと日本人の顔に比べて彫りが深いので顔認識のされ方が違うようで。例えば、彫りが深い人が目を閉じた状態でも、目の部分の窪みが深いため、目が開いていると認識されてしまうことがあります。この対策としては、個人ごとに眠たそうな顔と目が開いて起きている状態の写真を事前に登録してもらうようなことも考えています。現実世界とコンピューターをつなげることの難しさを実感しています。

ーちなみに、DEMO DAYなどでプロダクトへの正式な評価はあるのでしょうか。

DEMO DAYでは参加者、スタッフ、学生のそれぞれの投票により賞が決まる仕組みでした。普段のクラスに関して言えば、Make Schoolには、成績も試験もありません。学生の評価は、試験によって学校が決めるものではなく、作ったプロダクトによって世間が決めるものであるという考え方です。もちろん、普段、また最終的に完成したプロダクトについてスタッフからフィードバックをもらうことはできます。

ーその他の学生が開発したアプリで、ダウンロードして使えるものがあれば教えてください。どんなものがあるのか見てみたいです。

実際にリリースされているものですと、ミュージックビジュアライザーのアプリ南アフリカの交通アプリCSSベースのマインクラフトO-1ビザ申請補助アプリタレントトラッカーLGBT向けトイレ検索アプリなどがあります。最後のトイレ検索アプリについては、2015年に開催されたGitHub UniverseというGitHub主催のイベントでも面白い取り組みとして紹介されていたようです。

今後のチャレンジ

image via. Make School
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ー6月に入れば、インターンが始まりますね。インターンから戻ってきた後はどんなプログラムなんでしょう?

プログラム前半はアプリやWeb開発が中心でしたが、後半はデータサイエンス、AIやハードウェアなど、より発展的な内容を個人の興味に応じて学ぶ予定になっています。詳細は、このページに掲載されています。

ー河本さんご自身は、Make Schoolを卒業した後はどんなことにチャレンジしますか?

具体的なことはまだこれからですが、プロダクトを開発して、それを事業にしていきたいですね。子どもの頃から発明家になりたくて、機械系の学部に入りました。大学院では自動運転車の研究をして、その後は経営コンサルで新規事業の支援を行って。振り返ってみると点と点が繋がっていて、これまでの経験を事業立ち上げのために役立てられるのかなと考えています。

ーどんな分野でサービスを立ち上げる予定ですか?

人が苦手なことを、機械の力を借りて上手く実現するような分野に関心があります。広義では、前回開発した居眠り運転防止アプリもこれに当てはまりますね。今後、日本はますます高齢化社会になっていくため、ロボット技術が人の生活をさまざまな形で支援することになっていくと思います。

ー今の時点で、アイディアの種のようなものはありますか?

いくつかのアイディアを試している段階ですが、そのうち一つは既にちょっと動いていて、家の近くにある介護施設でボランティアさせてもらっています。高齢者の方が生活の中で困っていること、彼らのニーズを見つけるための近道かなと思って。高齢者の人を助けて、いつかそれが日本のためにもなるものを作りたいです。

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