#GMIC Beijingに見る、2016年中国のスタートアップ・トレンド——遠隔医療とモバイル金融が花盛り

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本稿は GMIC Beijing 2016 の取材の一部である。

4月28日〜4月30日、北京で GMIC(全球互連網大会)が開催された。その年の中国のスタートアップ・トレンドを占うといっても過言ではないこのイベントだが、会場で気になったトレンドをまとめておきたい。

Facebook が使えない国なのに、Facebook 広告向けのアドテクが目立つ

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有名どころだけでも、DOMOB(多盟)Papaya Mobile(木瓜移動)といったアドテク・スタートアップが、随所で Facebook 広告を運用するためのダッシュボードを宣伝していた。中国は Facebook が使えない国であるにもかかわらずである。GMIC のサブトラックでは、Facebook 自らが参加者招待制のパネルセッションを開いていて、同社の中国市場参入への思いが感じられた。

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Mark Zuckerberg 氏が中国系アメリカ人 の Priscilla Chan 氏と結婚し、彼女の親戚と交流するために中国語を勉強していることは有名だ。この努力が功を奏し、Zuckerberg 氏は訪中時に清華大学で中国語で講演を行ったり、習近平主席や中国のプロパガンダ政策を担う劉雲山常務委員らとも会談したりしている。

中国で Facebook が使えなくても、中国企業が欧米市場向けに Facebook 広告を使うことに意味はあるだろう。将来的に中国で Facebook が解禁される可能性は懐疑的だが、コンバージョンレートの高い Facebook 広告の手法や戦略を、中国の WeChat(微信)や RenRen(人人)が取り込むのは時間の問題かもしれない。

遠隔医療アプリと、出前アプリは戦々恐々

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そこに解決したい問題があるから、スタートアップが活躍できる伸びしろがある。中国で遠隔医療のアプリがホットな理由は、まさに、医療サービスの品質とアクセスに偏りがあるからだ。政府に是正を求めるのではなく、スタートアップが自らの力でなんとかしようとするアプローチは、インドや東南アジアのスタートアップにも似たパッションが感じられる。

古くは「Chunyuyisheng(春雨医生)」や以前紹介したKangda(康大預診)」に始まり、今回の GMIC のスタートアップ・コンペティション「G-Startup」で2位の座につけた「Yihu365(医護到家)」をはじめ、最近では、大手ネットサービス会社も、Baidu(百度)の「Baidu Yisheng(百度医生)」や Tencent(騰訊)の「Tencare Doctor(騰愛医生)」という形で参入を始めた。

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また、これは GMIC の会場ではないが、北京市内を歩いていると Alibaba が実質的オーナーである Ele.me(餓了麼)や、Baidu Waimai(百度外売)といった出前サービスのバイクを、街のそこかしこで見るようになった。オーダーを受け付けたデリバリーボーイは、チェーン店舗で食べ物を受け取り、それをお客のもとへと配達する。北京市内にもコンビニエンスストアやレストランは存在するが、商品のバリエーションや交通アクセスの点で、日本の外食・中食産業事情とは比較にならない。配達の合間、彼らはショッピングモールのベンチなどで休憩していることが多いが、あまりに人数が多いので、デリバリーボーイ向けのビジネスさえできるのではないか、とも思えてくる。

消費者ローンもモバイルで

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駅前や幹線道路沿いに無人店舗とが並ぶ日本とは対照的に、広い国土ゆえ、金融アクセスも圧倒的に実店舗よりモバイルが優勢になる。先ごろ、Alibaba(阿里巴巴)系のAnt Financial(螞蟻金融)が、シリーズBラウンドで世界のテック史上で最高額となる45億ドルを調達したのも、消費者ローンやマイクロファイナンス参入への市場の期待感が大きい。

GMIC の会場で特に露出が際立っていたのが「Feidai(飛貸)」。ペンシルバニア大学 Wharton 校で生まれたモデルを武器に、身分証明、連帯保証人の登録後5分間で与信が完了し、融資を受けられるモバイルアプリだ。現在のところ借りたお金は銀行口座で受け取り、市中各所にある ATM で引き出すことができるが、TenPay(財付通)や Alipay(支付宝)からダイレクトにアクセスできるようになるのも時間の問題だろう。そうすると、TenPay や Alipay も、単なる決済手段というより疑似通貨の様相を帯びてくる。

中国では「クレジットカードが使えない」と不平を言う外国人が多いが、数年後には、モバイルマネーを持っていれば、空港で人民元に交換する必要も無くなるのかもしれない。

ロボットとドローン

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ロボットは毎年のように GMIC を賑わせているトピックだ。筆者の記憶が正しければ、昨年まで日本からは、大阪大学の石黒浩教授が招かれていた。今年はロボ・ガレージの高橋智隆氏が、先ごろ発表した「ロボット電話「RoBoHoN(ロボホン)」を胸に基調講演を行い、メインイベント終了後にも会場を北京の繁華街 Sanlitun(三里屯)に最近できたコワーキング・スペース Day Day Up に移し、アメリカ MIT や韓国 KAIST のロボット開発者を交えたパネルディスカッションに参加していた。

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さらに、先ごろステルスで事業を始め、シリーズAラウンドで2,500万ドルの資金調達に成功した、中国のドローン・スタートアップ Zero Zero Robotics の「Hover Camera」も人気を集めていた。既報の通り、このドローンは写真や動画撮影に特化しており、筐体の多くの部分が硬いネットで覆われているため、仮に落下したとしても損傷する可能性が少ない。その名の通り、ホバリングには卓越した能力を持っており、押したり叩いたりしても高い安定性を維持する。

重さ240グラムと軽量小型化に徹しているため、バッテリも小さくフル充電で8分程度しか飛ぶことはできないが、その分、バッテリはカートリッジ式で簡単に交換することができる。ドローンを充電するのではなく、充電済みのバッテリを複数本準備しておき交換しながら飛ばすという発想だ。Qualcomm 製のチップを採用しており、ブース出展にあたっては、Qualcomm Ventures の支援が得られているようだ。

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