世界と戦える日本のテクノロジー、世界へ飛び出す日本のスタートアップ――Microsoft #InnovationDay パネルセッションから

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本稿は、4月23日に東京で開催された Microsoft Innovation Day の取材の一部である。

先月、マイクロソフト東京本社で持たせていただいたパネルで、4つのスタートアップの創業者やエグゼクティブメンバーに集まっていただいた。なるべく、他の場所では見られないトピックを取り上げようということで、THE BRIDGE のミッションの一つでもある、世界へ挑もうとする、または、世界に挑める可能性のあるスタートアップにスポットを当ててみることにした。

グローバルなスタートアップという言葉はよく耳にするものの、世界のどこでも通用するサービスを作り出すのはなかなか難しい。言葉や文化の違いもさることながら、市場の成熟度や社会が求めているもの(英語圏の投資家や起業家は、スタートアップの定義として、よくその社会の「pain を解決するもの」と表現している)が国によって異なるからだ。しかし、なかでも、今までに無かった概念や価値を新しく創り出すスタートアップは、グローバルな展開の可能性が高いと考えてよいのではないだろうか。

そのような思いを胸に登壇者にお声がけしたところ、お集まりいただいた方々の顔ぶれが、図らずもフィンテックかフィンテックに近いスタートアップとなった。これらのスタートアップが届ける価値は、世界の随所にニーズがあると考えられるので、ローカリゼーションの努力により、世界中の企業や消費者に受け入れられる素地があると言えるだろう。

彼らのこれまでの軌跡と今後の戦略をお聞きし、日本をグローバルなスタートアップ・ハブに育て上げていくための方法を共に考えた。

このパネルに登壇いただいた起業家は、

  • 財産ネット 荻野調氏
  • ドレミングアジア 桑原広充氏
  • ナレッジコミュニケーション 小泉裕二氏
  • Alpaca db. Inc 北山朝也氏

…の皆さんだ。

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財産ネット 荻野調氏

財産ネットが提供するアプリ「兜予報」は、経済ニュースが特定の銘柄の株価に影響を与えるかどうかを教えてくれるアプリだ。ニュースが発せられると、「兜予報」に参加するアナリストらは、そのニュースが株価に影響するかどうかを投票。ニュースが発せられてから実際に株価に影響が出ると言われる30分間に投票結果を集計し、その結果をユーザにフィードバックする。サービスがターゲットとするユーザは、株価を注意深く見守っているデイトレーダーたちだ。経験豊かなトレーダーでさえ60%程度と言われる株価に対する予測制度を、アナリストの集合知を活用することで、81%にまで引き上げることに成功している。

財産ネットは先ごろ資金調達を実施し、日本で「兜予報」のモバイルアプリがローンチしたところだが、荻野氏はサービスの海外展開の可能性について、「証券市場がああるところであれば海外展開できるので、海外のフィンテック企業や証券市場との協業可能性を模索していきたい」と語った。そのような可能性を見出すべく、彼は5月上旬にサンノゼで開催されたフィンテック・カンファレンス Finovate にも参加したようだ。

ドレミングアジア 桑原広充氏
ドレミングアジア 桑原広充氏

ドレミングアジアは、発展途上国における貧困格差を減らそうとする福岡発のスタートアップだ。貧困層にこそ生活や治安の安定のために金融サービスが必要だが、発展途上国においては金融サービスが充実しておらず、信用度の低い低所得者がローンでお金を借りる場合、貸し倒れ率が高くなる関係上、年利が100%、300%、なかには、1,600%など高利なサービスに選択肢が限られる。

ドレミングアジアでは、会社が月の給与の締め日を迎えていなくても、リアルタイムでその時点までの労働者の給料を計算できるペイロールのしくみを開発。労働者が給料を受け取る前でも、そのときまでに働いた給料分を担保にして、買い物ができるようにしたする。サンフランシスコのコワーキング・スペース Rocket Space に拠点を持つほか、難民対策のソリューションの一つとして、イギリス政府から招聘され、ロンドンのフィンテック・スタートアップが集まるコワーキング・スペース Level39 にも入居が決定している。

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ナレッジコミュニケーション 小泉裕二氏

ナレッジコミュニケーションは創業8年目の会社で、もともとは地方の塾やスクールが情報発信できる教育分野のコミュニティサイトを提供していた。サイトの性質上、受験シーズンにユーザトラフィックが上がることを経験していた同社は、Amazon Web Services が日本に上陸した2011年からこれをコミュニティサイトに導入、あわせてクラウドインテグレーション事業を開始した。

最近では、人工知能やディープラーニングなどを簡単に利用できるクラウドサービス「ナレコムAI」をローンチ。「ナレコムAI」では、機械学習のアルゴリズム選定を従来の4分の1である2週間に短縮し、従来データサイエンティストが必要だったアルゴリズム選定で、アルゴリズムとパラメータの総当たりにより選定プロセスの自動化を実現した。2016年の MUFG FinTech アクセラレータに参加しており、この約半年間の成果は8月に開催される同アクセラレータのデモデイで披露される予定なので楽しみにしたい。

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Alpaca db. Inc 北山朝也氏

Alpaca については THE BRIDGE でも何度か取り上げているが、深層学習を用いたトレーディング・プラットフォーム「Capitalico」を開発するスタートアップだ。北山氏によれば、一般的な投資トレーディングにおいて、利益を出せているトレーダーは全体の 5% 程度なのだそうだ。トレーディングに科学の力を取り入れることで、利益が出せる可能性を最大限に引き上げようというのが「Capitalico」の試み。プログラミングのノウハウが無くても、トレーダーは自身のトレーディング・アイデアをアルゴリズム化でき、バックテストを高速処理し、将来的には、トレーディングに最適のタイミングでスマートフォンにプッシュ通知するしくみも備えるそうだ。

今回紹介した4社の中で、Alpaca は最もグローバルな展開を見せているかもしれない。もともと日本で始まった同社の事業だが、本社はすでにシリコンバレーにあり、CEO の横川毅氏と CTO の原田均氏もそこで業務に従事している。

世界に通じる〝我が社〟の強み

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財産ネットの荻野氏は、伊藤忠テクノベンチャーズやグリーのビジネス開発部門に勤務した経緯から、自らを「もともと、金融ではなくITの人」と表現。インターネットで活性化する人々の知見を、ファイナンスの世界に持ってくることに興味があったという。

ゲームなどと違い、金融の場合は、例えば、ユーザが1万人位いれば採算の合うサービスが作れる。動くお金が大きいので、そういうことが可能だ。「兜予報」ではユーザには課金していない。証券会社に送客をすることで、売上を上げるビジネスモデルだ。(荻野氏)

一方、ドレミングアジアは、勤怠管理や給与計算(ペイロール)を支援する HR システムを20年間にわたって作り続けてきたキズナジャパンからスピンオフした会社だ。キズナジャパンとの間には資本関係は無いので、純然たるスタートアップと呼んでよいだろう。ドレミングアジアのソリューションは、キズナジャパンが培った20年間に及ぶ知見がベースになっていることが強みだ。

TechCrunch Disrupt SF 2015 でドレミングアジアのプロダクトを発表したところ、タスクや工数別にリアルタイムで給与計算できるしくみを見て、アメリカの会計会社の担当者は驚きを隠せなかった。アメリカではペイロールをアウトソーシングしているケースがほとんどで、会計システムや銀行システムと連携できる点について、特に評価が高かった。(桑原氏)

ナレッジコミュニケーションは、最新技術をいち早く取り込んで咀嚼し、それを顧客が簡単に使えるようにすることが価値だと考えている。技術が速いスピードでコモディティ化していく中で、API などをいち早く開発し、それをすぐに顧客に使えるようにすることで価値をユーザに還元しているとのこと。この技術レベルや社員の意識を維持するために、ナレッジコミュニケーションの技術陣は3年ほど前から、「ナレコム AWS レシピ」という技術ブログを執筆しており、恒常的に技術を調査し、それらを整理して情報発信するという活動を心がけているそうだ。

Alpaca の北山氏は、

特に我々が手がけるサービスの業界は、パフォーマンスが数字で出てくる。(業界トップの座の)エベレストに誰が最初に登れるか、というような競争になるので、基礎力が無いと勝負にならない。

と語った。共同創業者で CTO の原田氏は、Pivotal のプロフェッショナルで PostgreSQL のメジャーコントリビューター。さらに、データベース業界で〝スピード狂〟の異名を持つ、Greenplum CTO の Luke Lonergan 氏は Arpaca のアドバイザーを務めるが、運と縁で、このような素晴らしい人材が〝出会ってしまった〟のだという。

このメンバーなら正攻法で行けそうという確信。一番スゴイところにいたら、(別のスタートアップにいた逸材が、次の仕事を探しているとき)また現場復帰したいから、といって声をかけてきてくれたりする。そのような点からも、優秀な人材を確保するには、自分たちが常に技術のエッジにいることが大切だ。(北山氏)

海外でやりたい今後の展開

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財産ネットでは、今後、中国の市場分析を念頭に中国人のアナリストが求めたいとのこと。また、年内には、海外のいずれかの国のフィンテック企業とジョイントベンチャーを立ち上げたいとしている。ターゲットとする国は、アメリカやイギリスはもとより、フランス、ドイツ、オーストラリア、中国などだ。

ドレミングアジアは、アメリカに拠点を置いた理由として、知財への投資額が大きいことと、決済事業系の会社が多いことだと説明。また、先にも書いたように、難民対策向けに事業展開すること、税制面の優遇措置、世界の四大銀行がスタートアップに近いポジショニングを取っていることから、イギリスの拠点も積極的に活用していきたい、とのことだった。

ナレッジコミュニケーションは、現在のところ、開発拠点を熊本に置いているが、将来的には海外展開も考えているとのこと。すでに、東京と熊本をつないでの業務を恒常的に行っており、エンジニアが国境を越え、場所にとらわれない働き方を実現できる日は近いかもしれない。

Alpaca は、グローバルの強みと日本の強みを、うまくかけあわせて成長していきたいと強調。グローバルでやることを前提にしていたのでシリコンバレーに本社を置くことは自然な流れだったとしながらも、敢えて東京にオフィスを残している理由として、市場の大きい日本の金融機関へのアクセスや、優秀なエンジニアが確保しやすいことを挙げた。


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グローバルとは「ローカルの集合体の総称」という表現をよく耳にする。サービスを提供するクライアントやユーザなどの市場環境のみならず、資金調達する投資家の有無、開発エンジニアのハイヤリングなど、さまざまな条件は国や場所によって異なる。それゆえ、グローバルなスタートアップを作るには、世界中のスタートアップ・シーンの知見を結集する必要があるのだ。

日々、THE BRIDGE で取り上げている数々の情報のピースが集まった時、グローバルな展望を持つスタートアップにとって、戦略を練る上での一助となれば幸いである。

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