「モバイル通信をクラウド化」するIoT通信プラットフォーム「ソラコム」は5月11日、World Innovation Lab(以下、WiL)、Infinity Venture Partners(以下、IVP)他を引受先とする第三者割当増資の実施を発表した。シリーズBとなるラウンドで調達した資金は総額で24億円。株式比率や払込日などの詳細は公開されていない。
2015年3月から創業メンバーと事業開始(設立は2014年11月)、同年6月にはIVPおよびWiLから総額7.3億円の資金を調達し、9月30日にサービス第一弾となる「SORACOM Air」を公開。サービスを拡張しつつ、2016年4月末時点で利用者数は2000件を超え、エコシステムパートナーは150社が登録するまでに拡大している。
今回調達した資金でソラコムは一気に世界展開へと突き進む。
必然的な世界展開と立ちはだかる「壁」
ソラコムが登場した際、MVNO(仮想移動体通信事業者)でありながら、そのモバイル通信のコントロールそのものをさらに第三者に対して開放するというアイデアと実行力は多くの開発者、事業者にとって賞賛の対象となった。
「モバイルのクラウド化」と呼ばれる所以は、創業メンバーの多くがAmazon Web Service(AWS)の日本事業立ち上げに関わったという理由と、本質的にそれを実現したサービスを提供しているからに他ならない。
その一方ですぐに気がつくことがある。それはかなりの量を取らなければビジネスとして成立しない、という点だ。それはAWSという事業がそうであることと重なる。彼らのサービスデビュー当初、私は代表取締役の玉川憲氏にそのことを尋ね、早期のグローバル化がキーになっている点を確認している。
ではあの時と今とで何が変わり、グローバル化は現実的なものとなったのだろうか。
まず彼らが乗り越えなければならない「壁」は変わらない。システムそのものはクラウド上のソフトをコピーすれば各国の通信キャリアにサービスを展開できるが、交渉はそれぞれ実施しなければならない。ここは当初から相当にタフな仕事になるだろうと予想していた。
またこれに対応するチームも各国に作る必要がある。
「現在、国内のチームは20名弱です。この人数でバックオフィス関連からカスタマー・サポートまで含めてコンパクトにできました。このコピーチームを各国に作っていきます」(玉川氏)。
各国キャリアとの交渉とチームビルディング。おおよそこの2つが彼らにとって大きな次のチャレンジとなる。
では、その勝算はどこにあるだろうか。
交渉に得た新しい力と彼らが日本で生まれた理由
海外展開をどこから進めるかーー勝算を考える上で最初の一手というのは非常に重要だ。その答えとして玉川氏が用意した回答は「全部」だった。
「同時並行でやります。現在、自動車や製造など2000件以上の方々に使っていただいています。彼らの中には世界中に展開している方も多く、日本で使えるのと同じようにグローバルで利用したいという要望があるんです」(玉川氏)。
例えば海外でコネクテッド・カーのような通信サービスを含めた製造業を展開するとしよう。製造業社は通信のサービスを取り入れるためだけに、各国のキャリアと個別に交渉しなければならない。ここは大きな手間だ。
これをソラコムが代行するのである。こうすることでメーカー側もキャリア側も両方共にこの手間を解消できる可能性が出てくる。こうなると最初の壁だった通信キャリアとの交渉に少し光明が見えてくる。
「通信キャリアの反応は好意的なものが多いです。こういう大量のデバイスを管理するという新規の市場を取り込めるし既存の販売チャネルとは被らない」(玉川氏)。
そしてもう1つ、壁を乗り越えるにあたって重要な課題がある。それは競合の存在だ。
彼らが本当にオンリーワンの存在であれば魅力的な人材はより集まりやすくなる。結果として事業展開はよりスピーディーに進むだろう。
私も以前調べたことがあったのだが、やはり同様のサービスは(特にこのように大型調達などで目立ったもの)は見当たらない。IoTクラウド関連のサービスといえばこの記事でも書いたが、Xivelyのようなハード・通信とクラウドの間に挟まってサービスを提供するようなものはあるものの、これらを一体化したような仕組みはやはりない。
この点は玉川氏らチームも調べていて、1つの仮説を教えてくれた。
日本とヨーロッパとアメリカを考えた際、キーとなるのはクラウドの開発者コミュニティがあるかという点と、MVNOの門戸が開かれているかという点にあるのだという。
アメリカはクラウドの開発者コミュニティはあるが、MVNOは一般的な事業者が取り組めない。一方でヨーロッパはその逆で開発者コミュニティがない。両方あるのは日本だけだ、と。
もしこの説が真であれば、ソラコムは他の追随を許さないポジションをいつの間にか手に入れていた、ということになる。
進むSORACOM利用事例
「日本で時間をかけすぎるとものすごく日本にカスタマイズされた状態のものになってしまう恐れがあります。グローバル化はこのタイミングなんです」(玉川氏)。
創業から約1年、サービス開始からまだ半年という状況で勢いよく成長を続けるソラコム。サービスの利用事例も順調に積み上がっている。
- 楽天Edy:野球の試合がある時だけ決済端末を使えるので通信費が効率化できる
- 東海クラリオン:車の事故が起こった瞬間の情報を送信できるドライブレコーダー
- カルミック:トイレの石鹸がどれぐらい使われているかわかるディスペンサー
その時、その場所で発生した小さな情報を把握できるのがSORACOMの具体的なよさだ。しかも費用はその時に使った分だけで済む。今まで知ることのなかった情報を得ることで本当に世界は変わる。これはインターネットが証明してくれた。
ソラコムの挑戦は私たちに次、どんな新しい風景を見せてくれるのだろうか。
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