イノベーションの鍵はコレクティブにあるーーグッドパッチとクオンタムによる「SPARK」は新時代のビジネスデザインに挑戦する

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左:グッドパッチ 取締役の村越 悟氏 右:クオンタム Startup Studio事業責任者の井上 裕太氏
左:グッドパッチ 取締役の村越 悟氏
右:クオンタム Startup Studio事業責任者の井上 裕太氏

ビジネスは複雑さを増し、変化の速度が上がっている。数年前に新しかったはずのものが、あっという間に過去のものになってしまうことも珍しくない。こうした環境に対応していくためには、企業も変化を早めていく必要がある。

新たな動きとしてよく見られるのが、異なる強みを持つ2社が協働してサービスを提供するアプローチだ。最近では、ロフトワークと『WIRED』日本版は共同で「Polémica(ポレミカ)」というプログラムをスタートさせている。

Polémicaは、リサーチやフィールドワークといった領域が中心だが、プロダクト開発やアプリ開発などの領域においてスタートしたイノベーション創出プログラムが「SPARK」だ。

SPARK は、UIデザインに強みを持つデザインカンパニー Goodpatch(以下、グッドパッチ) と、スタートアップと大企業のオープンイノベーションやハードウェア開発に強みを持つ QUANTUM(以下、クオンタム)が共同して生み出したプログラム。

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SPARK は、IoT に特化したイノベーション創出プログラムだというが、一体どのような経緯から誕生し、何を目指していくのだろうか。本誌では グッドパッチ 取締役の村越 悟氏と、クオンタム Startup Studio事業責任者の井上 裕太氏にお話を伺った。

2社が持つ強みを持ちよる

最初に、この二社を結びつけたのは、グッドパッチが開発しているプロトタイピングツール「Prott」だった。

井上氏「自社プロダクト開発担当役員の猿川さんとの会話がきっかけでした。QUANTUMの支援先に、「Prott」を一部無料で提供することはできないか、など色々と議論していたんです。議論を重ねるうちに、他にも色々できそうという話になって」

議論を発展させていく過程で紹介されたのが、村越氏だった。

村越氏「井上さんと会って話をして、クオンタムのやりたいことと、グッドパッチがやりたいことは似ていると感じました。一緒にスキームを作って、一旦リリースを出し、そのあと形を整えていきませんか、という話まで初回でしました」

目指す世界観は似ているものの、持っている強みは違う。互いの強みを持ち寄れば、幅広い課題に対応できるのではないか、それが両者が感じたことだった。

IoT関連のプロジェクトをいくつも支援してきたクオンタムと、アプリやウェブサービスのUIデザインやサービスデザインを手がけてきたグッドパッチ。2社が協力すれば、アプリからハードウェアの領域まで、IoTに関してより広い領域を、より高いクオリティで対応できるようになる。

井上氏「これまで一緒にプロジェクトを作ってきた人たちに加えて、新たなスキルセットを持った人たちがプロジェクトの上流から関わることで、思想や手法、アウトプットの生まれ方が全然変わるんだろうなと思っています。これまでは生まれなかったような事例が生まれると、一緒にプロジェクトをやる価値が出てきますね」

解決すべき課題が広がっている

ただ、それぞれの強みを持ち寄るという意味では、既存のアライアンスと同じだ。「SPARK」のユニークな点は、このスキームを生み出した発想と、その立ち上がり方にある。

村越氏「グッドパッチがこれまで主領域としてきたアプリやウェブサービスのUIデザインだけではなく、デザインする領域を拡大していかなくてはいけないという危機感がありました。解決すべき課題が広がっていて、より統合的なサービスデザインが求められていることを感じていたんです。手掛けるべき領域が広がっている今、デザインという産業自体もマーケットを広げる必要がある。マーケットを創りにいく人たちが必要だ、と考えたことも「SPARK」を始めたきっかけのひとつです」

「一社でマーケットポジションを独占する時代じゃない」そう村越氏は語る。この言葉を聴いたとき、筆者はアクセンチュアが発表している「Technology Vision 2015」の中で登場した”We Economy”という言葉を思い出した。

デジタルビジネスにおいては、今後は企業間や業界間の垣根を越えてパートナーシップを構築することが重要になるという意味の言葉だ。「SPARK」では、パッケージを決めてしまって、入り口を狭めてしまうのではなく、あえて入り口を広げてコラボレーションできる人たちと柔軟に組めるスキームとなっているという。

井上氏「このスキームは、どうやってクライアントから対価を頂くかは、はっきりとは決めていないんです。新しいことに取り組みながら、収益を生み出すためには、柔軟さが必要になる。たとえば、グッドパッチは今はキャッシュがないスタートアップのデザインを手掛ける際、投資に近い概念で請け負っています。クオンタムも同じようにレベニューシェアや成果報酬、投資などを組み合わせてプロジェクトを設計します。こうした柔軟な感覚をもって進めて行きたいと思っています」

村越氏「『SPARK』のサービスには、ものすごく幅をもたせています。ライトなものからフルパッケージのものまで用意していますが、基本的には小さく産んで大きく育てていくことになると思います」

広がるイノベーション可能な領域

「SPARK」は、これまで紹介してきたような両社のスタンスを宣言する意味を込めて、スタートしたプロジェクトだ。この先、彼らに相談がきたものから案件化していくという。

村越氏「たとえば、メーカー。彼らは要素技術は持っているけれども、その価値を最大化させる方法がわからないというケースが多い。テクノロジーによって領域の相互乗り入れが増加してきていて、領域を横断して新しいことに挑戦するケースをサポートしていけるといいよねという話をしています」

井上氏「いろんな領域をまたがなければならなくなってきています。ただ、いろんな領域全てがわかるようなスーパーマンはいません。そこでソフトウェア、ハードウェア、事業構築など、それぞれをわかっている人たちと一緒になって、課題の解決に取り組んでいきます」

井上氏は、家具の例を引き合いに出しながら、テクノロジーが発達したことによって、イノベーションを起こすことができるようになった、と語る。長らくイノベーションが起きていないと言われてきた業界でも、センサリングできるようになってきたことでユーザの理解が進み、課題が明確になり、解決に向けて取り組むことができるようになってきているという。

プロセスやビジネスモデルのリデザインが必要

「SPARK」は、取り組む領域が新しいだけではない。スキームの作り方自体にも、新規性が潜んでいる。

井上氏「今回のスキームは、手法のレベルや組み方のレベルでも新しい挑戦なのですが、従来のビジネスモデルだとワークしないんです。相談から形にしていく際に、それぞれどう関わって、どうサステナブルに運営するかを考えないといけません」

課題が明確になっていない、もしくは解決の仕方が明確になっていない案件に取り組む以上、それに対するアプローチの仕方も走りながら調整していく必要が生じる。そのため、彼らはプロジェクトに取り組む過程で解決策を生み出していくことになる。

収益化の手法も明確に定まっていないため、「SPARK」での売上目標も設定していないという。こうしたプロジェクトへの関わり方ができる2社だということも、「SPARK」の特徴だろう。

「プロセスのリデザインが重要」そう村越氏は語る。

井上氏「プロジェクトの全工程には、色んな人が関わります。ですが、全体に関われている人はほとんどいません。各々の役割の部分で作業をして、次の役割の人に渡していく。そのやり方ではなくて、プロジェクトの上流から一緒にプロダクトを作ることに関わっていけたら、何か新しい発見があるのではないかと思っています。こうしたプロジェクトの運営そのものが差別化になるのではとも思います」

村越氏「『共創』というと、まろやかな表現になってしまいますが、プロジェクト推進のダイバーシティを実現することはかなり重要だと思います。プロジェクトにいろんな人が関われば、その分だけ苦悩がある。それをどう乗り越えるかでアウトプットの質が変わると思います。多様性を持ったチームが活動することに価値があるのではないでしょうか」

イノベーションを生み出す手法として注目を浴びた「デザイン思考」では、多様な人たちで発想することの重要性を述べていた。多様なチームでプロジェクト全体に関わっていけるよう、プロセスをうまく作り変えていくことで、広告業界で「クリエイティブジャンプ」と呼ばれるような、思いもよらなかったアイデアに到達できるようになるのかもしれない。

コレクティブなアプローチが必要な時代

プロジェクトの入り方、生産工程、販売の方法、ビジネスモデル、「SPARK」では、すべてのプロセスを組み直すことに挑戦していく。そこにあるのは、従来の受発注ではないビジネスの進め方だ。

井上氏「クオンタムは、最初コーポレートアクセラレータやイノベーションコンサルティングといった言葉で自分たちの事業について説明していました。徐々に、レベニューシェアする案件が増えていて、クライアントという言葉ではなくパートナーという言葉を用いるようになってきています」

村越氏「グッドパッチでも、レベニューシェアのものもあれば、資本業務提携をしてプロダクトを一緒に作っているケースもあります。すでにあるスキームを前提としないビジネスの仕方は今後ますます重要になると思います。業界の課題意識が広がっていくスピードに、会社の事業拡大スピードが追いつかないからです」

彼らの事例を聞いて思い浮かべたのは、コミュニケーションツールとして注目される「Slack」の初期フェーズに携わったデザインファームMetalabのことだ。

Slack急成長の秘密について、Slackの初期のデザインを担当したデザインファームが語る

従来のクライアントワークと比べて、1歩、2歩踏み込んでデザインすることでこそ生まれるものもあるのだろう。

彼らは「SPARK」というスキームを、広い領域で取り組んでいこうと考えている。

村越氏「テクノロジーの進歩によって、長く断片化され、ブラックボックス化していた領域が可視化・数値化されるようになってきました。データやネットワーク、センサーがあることで、ユーザの体験が一本のストーリーになる。そうすると、いろんなことがわかってきて、課題解決の糸口が見つかります。これはIoTだけではなく、行政や社会課題に関しても同様。初期にわかりやすいのはIoTなので、この領域から取り組んでいますが、今後対象となる領域は拡大していきたいと思います」

こうしたビジネスの進め方を、なんと呼んだらいいのだろう。

井上氏「『SYPartners』というジョブズのスピーチライターを務めていた人物が立ち上げたインターコミュニケーションを主領域とする会社があります。彼らを中心にいくつかの会社が集まっていて、その集まりは”コレクティブ”と呼ばれています」

クライアント軸ではなくて、社会テーマ軸で集まるようになるのもいいかもしれない、そう井上氏は語っていた。

欧米では、行政、企業、NPO、財団、有志団体など立場の異なる組織が、組織の壁を越えてお互いの強みを出し合い社会的課題の解決を目指すアプローチのことを「コレクティブインパクト」と呼び、注目を集めている。「SPARK」が目指す姿は、「コレクティブインパクト」のようなアプローチに近いのかもしれない。

デザイン会社は、ビジネスのより上流から関わり、課題を発見するところから関わらなければならなくなってきている。その変化速度に対応するためには、一社だけではなく複数の企業で対応していく”コレクティブ”なアプローチが必要になるだろう。

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