
ファッションECコマース事業者向けに、東南アジアへの事業進出を支援していたコミューンというスタートアップをご存知だろうか。THE BRIDGE が Startup Dating と名乗っていた4年ほど前には、「TokyoStartupSchool」でコミューンを運営していた成田佳雄氏に講師として登壇いただいたので、読者の中には記憶にある人がいるかもしれない。
その後、成田氏は新たな活路を求めて、シンガポールから海峡を隔てて隣の街マレーシアのジョホールバルへ家族総出で移住。今年4月には、シンガポール向けに「ENVIE(アンヴィー)」というハンドメイド・マーケットプレイスアプリ(シンガポールの AppStore からのみダウンロード可)をローンチした。シンガポールは人口550万人の小さな市場、決してシンガポールだけを対象にしたのでは、ビジネスはスケールしない。
ラマダン明けを前に、イスラム教徒で賑わうシンガポールのアラブストリートで、成田氏は「ENVIE」の戦略を次のように語ってくれた。
ハンドメイド・マーケットプレイスとしては、アメリカには Etsy や Bonanza や Handemade at Amazon、ヨーロッパには Etsy や DaWanda、日本には minne や Creema、台湾には Pinkoi などがいるが、東南アジアにはドミナントのプレーヤーは不在。ここに大きなチャンスがあると思った。
まずはシンガポールから攻めて、シンガポールのハンドメイド・マーケットプレイス市場を取る。そこから、マレーシア、東南アジア、アジア太平洋地域へと着実に広げていきたい。
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ハンドメイド商品の売り手と買い手を結び、エスクローの機能も提供する ENVIE だが、東南アジアではクレジットカードや銀行口座を持っている人も少ないので、地域全体に展開するには、市場ごとの細かいローカリゼーションが必要になる。ロジスティクスのしくみも各国各様だ。逆説的には、その複雑さこそが欧米の列強サービスのアジア進出を阻んでいるのかもしれない。
ENVIE では現在、シンガポールでは PayPal を経由した取引に対応しており、売り手には商品の発送時にシンガポール郵便(SingPost)の Registered Mail などを使い、トラッキングナンバーを入力してもらうことを義務付けている。
ENVIE は先ごろ、マレーシア政府が運営に関わる東南アジア最大のスタートアップアクセラレータ MaGIC(Malaysian Global Innovation and Creativity Centre)の最新バッチへの参加が認められた。4ヶ月間にわたり、ASEAN 地域から50チームが参加するこのプログラムは、参加が認められるまでの通過率が約10倍と険しく、東南アジアでのサービスのスケールアップの方法を模索していた成田氏にとっては、このニュースは喜びもひとしおだったようだ。
現在、シンガポールのみを対象にしている ENVIE のサービスエリアも、クアラルンプールでの MaGIC のプログラム参加を前に、7月下旬にはマレーシアに拡大する予定。十把一絡げに東南アジアといっても、各国で異なる市場環境。緻密なマーケットフィットを武器に、東南アジアのハンドメイド市場を奪取なるか? 成田氏のここからの奮闘に注目したい。
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