7500人が参加したベルリン最大のテック祭「TOA 2016」ーー世界中から参加者・企業が集まる理由

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Tech Open Air 2016 (著者撮影)
東ベルリン時代のラジオ放送局 Funkhausで開催された Tech Open Air 2016 (著者撮影)

スタートアップ都市としての勢いを増し続けているベルリン。そんなベルリンで開催されるテックイベントの中でも最大規模の Tech Open Air(以下 TOA)が 7月13日〜15日の3日間にかけて開催された。

今年のTOAへの参加者は、主催者の発表によれば約7500名と昨年の5000名を大きく上回り、過去最大となった。規模の拡大にともなって、会場もより大きな場所に。今年は旧東ベルリン時代に放送局として使用されていた Funkhaus で開催された。

私自身も3日間にわたってTOAに参加したが、今年は海外からの参加者や普段はスタートアップコミュニティに関わりの少ない人々も惹きつけており、TOAの参加者層が大きく広がっていると感じた。

なぜ TOA は多くの参加者を惹きつけるのか? その理由を分析してみた。

異なる分野をつなぐ:テックとカルチャー、アートがつながる場所

TOAの特徴はテックの話だけをするのではなく、異なる分野同士をつなげることに注力している点にある。それがスタートアップコミュニティを超えて、幅広い分野の参加者を惹きつける理由の一つでもある。

TOAのファウンダーNiko Woischnik氏はこう説明する

異なる専門分野(アート、サイエンス、医療、教育など)のテクノロジストをつなげることによって、破壊されつつある分野の人がより良い未来を考えられるように、そしてテクノロジストが世界がどのように変化するのかをよりよく理解できるように役立ちたい。

アートを取り入れる意味、そしてアートの力とはなんだろう? それは新しい表現方法やアイデアを試すことを通じて、人に考える機会を与え、異なるアイデアにオープンにさせることだろう。

たとえば、アーティストによるこんな企画があった。ピアニストが弾く曲に合わせて、アーティストが食材を使ってキャンバスに絵を描いていく。そして、完成した「絵」を観客が取り囲んで試食。普段はつながることのない「味覚と聴覚を統合する試み」なのだという。

奇抜なアイデアながらも、観客はそれを楽しみ(まさに目と耳と口で)、受け入れる。聴覚と味覚、これをつなげたら面白いのかもしれないと考え始める入り口になる。

ピアノの曲に合わせて、アーティストが即興でキャンバスに絵を描いていく。(著者撮影)
ピアノの曲に合わせて、アーティストが即興でキャンバスに絵を描いていく。(著者撮影)

新しいアイデアに寛容:「ベルリンはセックステックのハブになれる!」

そんな参加者のオープンさ、TOAが多様で寛容な場であることを示す例をもう一つ。

今回のTOAのメインイベントにおいて、最も多くの聴衆を惹きつけていたのは、セックステックを推進するMakeLoveNotPornのファウンダーである Cindy Gallop氏によるトーク「なぜセックスをディスラプトすることが、テック業界の Next Big Thing になるのか」である。

Cindy
最も多くの聴衆を惹きつけていたCindy Gallop氏によるトーク(著者撮影)

Gallop氏は、セックスをもっとソーシャルでシェア可能なものにすることで、大きなビジネスの機会、お金の流れが生まれると力説する。そして、この分野で革新的な製品を生み出しているのは女性起業家だという。

また、ベルリンという場所はセックステック分野で「起業家と投資家が集まるハブ都市になれる」と語る。なぜなら「ステレオタイプから解放されているから」だ。

Gallop氏のトークには多くの観客が詰めかけて、メイン会場に入りきれなかった人が大量に出たため、急遽外にも会場を設置することとなった。

既存の枠にはまらない、新しいアイデアを訴える場所として TOA ほど適している場所はそうそうない。

街中をつなぐ:市内175カ所で開催されるサテライトイベント

Zalando
ファッションeコマースのZalandoで開催されたUXに関するサテライトイベント(著者撮影)

TOAのもう一つの特徴は、街中がイベントのプラットフォームになることだ。「サテライトイベント」とは、ベルリン市内の企業・スタートアップがオーガナイズするイベントのこと。

「サテライトイベント」として登録されたイベントは、TOAのサイトやパンフレットなどを通して告知がされる。基本無料で誰にでも解放されているため、人気のイベントはすぐに予約が埋まってしまう。

今回のTOAでは、過去最大数の175件ほどのサテライトイベントが開催された。「学ぶ」「つながる」「つくる」というテーマに分かれて、各開催者が工夫をこらしたイベントが開催される。

私が参加したサテライトイベント数件の参加者を見る限り、サテライトイベントの参加者の中で有料のメインイベントに参加しているのは大体3分の1ほどだ。メインイベントよりもサテライトイベントの方が多くの参加者を惹きつけていることがよく分かる。

カイロのスタートアップイベント RiseUp Summitもベルリンでミートアップを開催。カイロとベルリンをつなぐ。
カイロのスタートアップイベント RiseUp Summitもベルリンでミートアップを開催。カイロとベルリンをつなぐ。(著者撮影)

サテライトイベントが人気の理由は、誰にでもオープンであること、そしてテーマがよりフォーカスされていることだ。

たとえば、最近のチャットボットの動向だけを知りたいエンジニアにとっては、メインイベントに参加しても興味のある内容に触れられるのは少しの時間だけで非効率になってしまうが、サテライトイベントであれば、チャットボットに特化したイベントだけを選んで参加できる。

また、普段はテックやスタートアップに深く関わっていない人も、サテライトイベントであれば気軽に参加できる。

私が参加したサテライトイベントの一つ、ドイツ最大のファッションeコマース Zalando の「モバイルファッションクリニック」というイベントは、最近のZalandoにおけるUXのケーススタディーを紹介したり、スタートアップに対して Zalandoの社員がアドバイスをするという内容だったが、参加者層は自然言語処理を研究している専門家から「なんとなく面白そうだったから来てみた」という人まで幅広い。それでも、誰も専門家ぶることなくオープンなディスカッションが促進されていたのが印象的だった。

企業やスタートアップがTOAに参加するメリットは?

今年のTOAは天気に恵まれなかったが、それでも屋外会場は多くの人であふれた。
今年のTOAは天気に恵まれなかったが、それでも屋外会場は多くの人であふれた。(著者撮影)

以上は主に参加者側から見たTOAの魅力だが、逆にスポンサーになったり展示をする企業やスタートアップにとってのTOAの魅力とはなんだろうか。

おそらく、「楽しみながらユーザーとつながれる」「新しいアイデアにオープンな人にアクセスできる」ことだろう。

お祭りムードのTOAでは、スポンサー企業であってもスーツ姿の人は皆無だ。展示スペースで真剣な商談がされることもない(もちろん、後にしっかりとしたミーティングにつながるケースは多々あるだろう)。

それよりも、気軽にオープンに参加者とコミュニケーションをとれることに魅力がある。だからこそ、企業側も参加者とのつながり方に工夫をこらす。

マットレス企業のCasperのブース
マットレス企業のCasperのブース(著者撮影)

たとえば、最近ドイツに進出したアメリカのマットレス企業 Casper は、屋外会場で木からマットレスと吊るし、気軽にマットレスに乗って寝心地を試してもらっていた。「最近見た素敵な夢はなに?」という特大ボードを用意して、コミュニケーションをはかる企画も展開。

TOAには今回初参加であるというアディダスも新製品を展示して試してもらったり、地元のフィットネスプログラムと協力してヨガや栄養、瞑想のワークショップを開催。参加者に体験してもらう工夫をしていた。

「楽しさ」や体験を通して、最新のトレンドに敏感で新しいアイデアにオープンな人々にアクセスできるという点では企業にとっても魅力的な場所なのだ。

企業、起業家、アーティスト、エンジニア、投資家、学生、ジャーナリスト……テック・スタートアップ業界の「関係者」はどんどん広がっている。その幅広い関係者同士をつなぐプラットフォームとして、TOA の試みは続いている。

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